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唐津焼のお気に入りのうつわが、わたしに与えてくれるもの
さいきん、唐津焼のうつわを手にいれた。
行きつけの陶器屋さんで、宮崎出身の陶芸家:三輪廉浩(みわ やすひろ)さんの個展があるというので、ちょっとみてみよう、と行ったのだ。
土をこねて、手でつくったうつわをみたかった。
わたしが長く足をとめたのは、ふぞろいのカップがいくつか並んでいる棚のまえ。そこに置かれたカードには、”揺らぎ” と名前が書いてある。粉引(こびき/こひき)という製法だそう。唐津焼といってもその中にはさまざまな製法があるんだね。
粉引をつくるには、素地に白い泥をかけた上に透明のうわぐすりをかける場合もあれば、うわぐすりそのものが白い場合もある。できたうつわが粉を引いたように白いのでこの名前がつけられた。
この粉引の”揺らぎ”シリーズは、ゆるい四角形のようなカップ、長方形がゆがんだようなカップ、すんなりと曲線をえがいているカップ。いろいろなカタチがあり、ひとつとして同じものはない。
わたしは、いちばん丸っとしたカップが気にいった。割れた卵の殻の片われみたい。
在廊していた陶芸家さんが、この粉引のうつわの模様について説明をしてくれた。(上の写真のうつわです。全体がうすい白っぽいグレーの中で、濃ゆいグレーのラインと特に白いラインとがあるのが分かりますか?)
粘土を成形したうつわを、窯で焼く前に片側ずつ白いうわぐすりに浸す。うわぐすりが重なった部分は特に白くなり、うわぐすりがまわりに比べてあまりかからなかった部分は、鉄分を含んだ土の素焼きの色がそのまま透かしてみえ濃ゆいグレーになるのだとか。(ぜんたいに散らばる黒い粒は鉄分)
うわぐすりとは、釉薬(ゆうやく)ともいい、陶磁器の表面をおおっているガラス質の部分をつくる薬品。粘土や灰などを水に懸濁(けんだく)させた液体を用いる。
うわぐすりの調合方法は、陶芸家の頭にはいっている企業秘密だ。配合を緻密に計算する。
まだしめった粘土のうつわにかけられたうわぐすりは、窯の中に入れられ、焼かれているあいだにも流れおちている。そのしたたりがどこで止まるのかは計算できない。燃える火の熱で粘土が焼かれ、うわぐすりが溶けてガラス状になり固まる。そのタイミングは火という自然の采配にまかされている。
その話を聞いていたら、ゴウゴウと火が燃えさかる窯の中で、うわぐすりがあつくあつく熱されながら、ドロリドロリとガラス状になってしたたり落ちる様子を想像してドキドキとした。このしたたりが止まったときに、このうつくしい模様ができるのだ。
このうつわの模様は、人間の知恵と工夫と、自然の采配との共同作業なんだ、と胸が熱くなるように思った。うつわを手にとると窯で焼かれていた火の温かさがまだ残っているかのように感じた。
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熱い緑茶を淹れて、両手でこのうつわを包みこみながら、ゆったりと飲む。
ていねいにドリップした珈琲をこのうつわに淹れて、牛乳で割る。カフェオレカップにしても素敵なんだよね。
わたしはこの唐津焼の粉引のうつわを手に入れて、温かい飲み物をのむ時間をゆったりと楽しむようになった。
割れた卵の殻のような丸っとしたカタチは、両手にしっくりとなじんでやさしい気持ちになる。
けれどもこのうつわはやさしいだけではない。その向こう側にゴウゴウと燃えている火の気配があって、その火の原始のパワーも一緒に飲んでいるような気がするのがとても気に入っている。