見出し画像

大学生自転車日本一周旅二十一日目:岡山駅からしまなみ海道を通って松山駅へ

本編

 最初に言うと、この日が一番漕いだ。旅全体で50日ほど漕いだが、その中でも圧倒的に距離を稼いだのがこの日。その距離なんと約200㎞!完全なアホ。しかし、朝起きた時にはまだ、こんなに漕ぐとは決まっていなかった。

 岡山から尾道までは80~90㎞。尾道から今治までは70㎞ぐらい。これだけでも150~160㎞はある。ただ、調べてみた感じ、今治に安くていいホテルがなさそうだった。距離的には今治で終わりたいが、松山まで行ったほうがいいのかな?今治から松山は40㎞以上ある。悩ましい。行ってみないと分からないこともあるしと、一旦今治まで行って決めることにした。

 四国へは自転車で行けると思っていた。完全に自転車のみで。それは、しまなみ海道という本州と四国をつなぐ、自転車でも通れる道があるということは聞いたことがあったから。それ自体は間違ってはいなかった。しまなみ海道は広島県尾道市から愛媛県尾道市までつながっている。しかし、尾道から最初の島である向島につながっている尾道大橋は、自転車通行不可ではないものの道が狭いうえに交通量も多いらしい。どのサイトを見ても、この橋は通行せずにフェリーに乗って向島に行くことが推奨されていた。もちろん死にたくはない。だから、フェリーに頼ることを決意。ここまですべて自転車で移動してきていただけに少し悔しい気持ちもあったけど、甘んじて受け入れることにした。

 フェリーに乗ることの哀しさとワクワクとのバランスに困りながら、この日は出発した。まずは岡山市から尾道市までが第一タスク。まあ、ここは正直良くも悪くも特徴のない道というか、面倒くさい箇所もあったし登りでしんどい箇所もあったけれど、これまでのマックスを考えると、取るに足らないレベルではあった。だから、特筆すべきことはない。

 福山市に到着すると、サイクルベースあさひで空気入れをお願いした。四国のど田舎でパンクしたら終わってしまうから。しかも、少し神戸で現金を使ってしまったりして、現金の残りが2000円ほどになってしまっていたから、個人の自転車屋では修理を頼めない可能性もあった。未然に防げる故障は防がなければならない。というわけで見てもらったけど、まだ大丈夫ですと言われた。内心ちょっと不安を覚えつつ(空気100%の状態のほうがやっぱり安心)、店員さんがこのままでいいって言ってるからと言い聞かせ、何もせずに退店する恥ずかしさを感じながら店を後にした。そして、尾道駅へ。ここで第一タスク完了。雲行きが怪しいことにも不安を覚えながらも、いざ四国へ。

画像1

 尾道から今治をつなぐしまなみ海道は70㎞を超え、長距離移動をしなければならない不安はあったが、島を自転車で回れることには期待を抱いていた。しまなみ海道の走破がこの日の第二タスクであり、楽しみながら回りたいと考えていた。ただし、この70㎞超の道のりを4時間くらいで走り抜けたいとも思っていた。もしかしたら松山まで行かなければならないかもしれないし。だけど、島だし通るのは海沿いだから、行けるだろうと踏んでいた。一時間に17㎞ほどのペース。これが裏タスク。

 尾道からはいくつかのフェリーが出ているが、今回は福本渡船というフェリーをチョイス。たった100mもないぐらいの距離ではあるが、フェリーに乗って向島へ。

 無事、島に着いてからは、いよいよしまなみ海道へ。基本的には道路上にある青色の案内表示に従って走っていけばいいだけだから非常に楽。道のりのことを考えなくて良くなったから、頭の中全てをいい景色で埋めてやろう。しかし、島について間もなく、パラパラパラ。強雨ではないが、雨。せっかくの島で独特の景色を楽しみたいと思っていたのに、雨。おいおいと思いつつ、もう仕方がない。まずはゴリゴリに漕いでいった。景色は捨てた!

 このしまなみ海道、結構しんどい。基本的には海沿いを走行するだけだから一見楽そうだが、意外にしんどい。なぜなら、島と島は橋によって繋がれているんだけど、その橋を毎度毎度登っていかなければならないから。その高さおよそ100m。それを6回こなす必要がある。橋の上も基本的には風があるし、そのうえ景色はきれいには見えないし、なかなかに疲れた。

 二つ目の島である因島では、登りがきついシーンが一瞬だけだがあり、思った以上に楽しくは無くて元気が無くなっていった。雨は確かこの時点では止んでいた。とはいえ曇りでまたいつ降るかは分からなかったけど。

 三つ目の島である生口島では、ヤシの木が海岸沿いに植えてあったりしていた。そこにちょうどよく陽光が差し込み、これぞ島という景色を堪能した。

 四つ目の島である大三島には、橋を降りてすぐのところにサイクリストの聖地というよくわからないし石碑があった。正直存在自体を知らなかったし、べつに自分はサイクリストではないとは思いつつ、記念撮影だけはきちんと。なんとなくではあるけどテンションアップ。単純な人間。

画像2

 でも、5つ目の島である伯方島(あの「伯方の塩」で有名なところ)は、しまなみ海道が通る島の中で一番小さい島だったけど、小さいがゆえに橋から橋のレストタイムが短く、むしろしんどいという結果に。アップしたテンションも結局ダウン。

 疲れながら最後の島、大島へ。ここには、宮窪峠という山場が。ただし、もう元気は残っていない。なんでこんなところをコースに設定したんだよと内心毒づきながら、自転車を押して越えた。

 そして、今治へ続く最後の橋、来島海峡大橋へ。この橋はこれまでの5本の橋に比べて非常に長い。しかも、つり橋のせいか、地味な登りと地味な下りを繰り返す。風も相まって、これまたしんどいのよ。やっと四国の本島みたいなところに突入できるというのに、まだ試練を与えてくるのか。クソーと思いながら(周りに人がいないのを確認して声にも出した)やっとのことで今治へ。

 橋を降りてからもなんちゃってで距離があった。終わりそうで終わらないという焦らしプレイをされながら、今治駅へ。なんとか4時間ちょっとで走り切れた。だが、この裏タスクのせいで、最後のほうは本当にしんどかった。前半3島はいいペースを刻めていたけど、後半3島は疲労の溜まった足を懸命に動かしてペースの維持を試み続けていた。しかも、そこまで頑張っても到着は18時ごろ。理想ではもっと早く着きたかっただけに、追いダメージが。景色自体も天気の問題でほとんど楽しめなかった。だが、雲から差す光が海に移る景色を、きれいだなと橋から眺めるぐらいはできた。

画像3

 しまなみ海道は綺麗で気持ちいいと聞いていて期待値も高かったのに、蓋を開けてみれば天気はぐずついて景色は見れないし登りが多くてきついし、散々と言う印象しか残らなかった。このしまなみ海道をもう一度本州に戻る際に通るのは嫌だ。どうやら調べてみると、今治からは途中の因島までのフェリーがある。1700円らしい。そこまで現金を使わなければなれるのか。絶対フェリーで逃げてやる。

 この時点で約160㎞。松山まで行くか、ここでやめるか。今治で野宿は気が乗らないし、今治でホテルも気が乗らない。じゃあ、いっそ松山まで行くか。最後の一押しは、そんなノリ。残り43㎞を行くことが急遽決定。イオンのマックで夕食を食べ、19時頃出発。もうとっくに日は落ちており、正直危ないが、行くと決めた以上行くしかない。到着予定時刻は22時前。

画像4

 これがこの日の第三タスク。夜遅くまで自転車を漕ぐのはリスクでしかないが、頑張ろう。道路には、松山までのルートを案内するブルーラインが要所要所で敷かれている。しかし、さっそく問題が発生。夜の視界が悪い中、車道を逆走する自転車が。クソ迷惑。昼間でも迷惑なのに、なんで夜の危ない時間にそんなことするかね。まあ事故にはならなかったから良かったけど。

 怒りもパワーに変えつつ、夜は危ないから漕ぎたくないという単純な欲求からペースが爆上がり。ぶっ飛ばしにぶっ飛ばし、最初の一時間で一気に23㎞ほど進んだ。信号がほとんどなかったおかげもあり爆走。この日160㎞すでに漕いでいるとは思えないペース。疾走感や解放感を味わう。ちょうどいいところにスーパーがあったから、飲み物も尽きていたし、一旦休憩を挟むことに。

 四国のスーパーでは、POMのジュースがたくさん置いてあって新鮮であった。地元福岡ではポンジュースがあるくらいなのに、ここでは炭酸版など見たことのない種類のものも。記念に買って店先のベンチでたしなみながら、ずっと駐輪場でわちゃわちゃしている、おそらく16歳で免許取り立てと思われるヤンキー少年の会話がかわいいなと思っていた。原付をカスタムしてもらったのか、しきりに写真を撮っている。何で田舎のヤンキーってこんなにかわいいのかね。純粋すぎる。

 彼らが見た目に似合わない轟音を立てて走り去り、それと同時に残りの約20㎞を漕ぎ進め始めた。しかし、店を出てすぐの歩道と車道の段差。違和感があった。前輪のホイールを感じた気がした。これは明らかに空気が抜けていないと感じないはず。しかし、このスーパーにつくまで何も異変はなかったのに、なぜ。まさか、あのかわいいと思っていたガキヤンキーにいたずらされた?そんな変な想像をしつつ、タイヤの空気を手で確認してみる。完璧に空気が抜けきっていたわけではないが、明らかに柔らかい。パンクまで入ってないからスリップはしないだろうと、どうにか早く今日の行程が終われるように頑張って漕いだ。

 しかし、空気は徐々に抜けていく。ほんの少しではあるが確実に抜けていっている。そして、1時間もたたないうちに、空気は完全に抜けきった。パンクにはもう慣れたとはいえども、やはりこの状況には軽く寒気がする。ホイールを滑らして道路にでも投げ飛ばされ、もしそこに運悪く車が通ったら死ぬ。普通にスピードも落ちるだろうし。車道を走らされることはなかったから良かったけど、登りはさすがに押させていただいた。

 ここで、そういえば、四国のコンビニには空気入れがあるという情報をどこかで見た記憶がよみがえった。急いで調べると、サイクリストにやさしいコンビニが存在することが判明。しかし、現在地の近くのコンビニはそうではないらしく、一応伺ってみたものの、空気入れなんてなかった。さらに、わざわざ逆方向に行って、コンビニではないけれど空気入れ置いていますという会社まで行ったけれど、時刻はもうすでに21時を超えていたこともあり、全然見つからなかった。

 結局、松山駅までパンクした自転車で行くことに。しかし、残り距離はもう少なくなっているのは確かで、市街地に入っていったから明るさも少しづつではあるが増してきていたし、時間は押したものの松山駅まで何とかたどり着くことに成功した。

 四国はサイクリストを歓迎しているせいか、他の都府県に比べて歩道と車道の段差が少ない印象を受けた。ありがたい。勘違いだったらごめん。

 松山駅は立派という感じではなかったけれど歴史を感じる見た目だった。駐輪場も無料で、さすが四国!と思いながら、第三タスクを完了した。約200㎞。ハプニングもあったけど、何とか乗り越えられてよかった。明日は朝一でパンク修理だし、今日はゆっくりするか。

画像5

ルート

 岡山駅を出発してからは、福山市を通過して尾道駅に至るまでずっと国道2号線を走った。尾道からフェリーで向島に行くと、しまなみ海道の始まり。足元には「今治」と書かれたブルーラインがあるから、それに従って今治駅まで移動。今治駅からは松山駅まで基本的には国道196号線を走り、最後は県道19号線を通ってゴールイン。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?