大学生自転車日本一周旅三十八日目:江津市から松江駅まで
本編
道の駅だから、長距離ドライバーを始めとしてよく人が来る。その車のライトやトイレに行く際の音に、ヒトとしての本能なのか敏感に反応してしまう。襲われる可能性はあるから敏感であっていいんだけど、何度も起きてしまったらやってられない。せっかく少しずつ野宿にも慣れて眠れる時間も長くなっていたのに。野宿を「しんどいもの」とポジティブに捉えられなくなると、今後の野宿予定の日全てが憂鬱になってしまいかねない。道の駅はもう野宿をするべき場所ではないな。やっぱり一番は人が全く来ないところだ。昨日メンタルをやられながらなんとかここまで来たのに、全然休めないなんて。
目が覚めては寝なおして、これを何度も繰り返していると朝がやってきた。この日は朝ご飯を買っていなかったし、近くにコンビニもなかったから、顔を洗ってトイレに行ったら出発。昨日の夜の頑張りのおかげで、イオンの開店時間までの到着に余裕が生まれていたので、歩きを混ぜても大丈夫になっていた。歩いた方が、滑って起きる事故の確率は下がるはず。基本は押して歩きつつも、下りを含めたところどころは自転車をこぎながら大田市のイオンまでの30㎞をつぶすことにした。
朝6時ごろ、また石見智翠館のバスに抜かれた。昨日の夜と運転手が同じで、この自転車押し男に気が付いていたら何を思うんだろう。こいつ家無いのかよって。
これまで通りの山道が続いていたから、登りも多ければトンネルも多い。しかも歩道は基本的にはない。朝方だから車通りが少ないものの、危険であることには変わりがない。周囲に気をつけながら、特にトンネルでは細心の注意を払いながら進んでいった。登りは基本的に精神が持たないから押していた。その代わりに下りではペースを上げる作戦。最後のほうはめちゃめちゃ危ないところも何度かあった。角度のきつく道が狭い場面もあって、押し歩いてて逆に良かったような気もした。
大田市のイオンが近づいたけど、ここもここで危ない。パンクしていなかったら車道を飛ばすのに、あいにく後輪がさようならしているから、通りたい道のその隣の道へ避難しながら進んだ。山に囲まれた道から、気が付けば田んぼに囲まれた道に変わっていった。登りではなくなっていたけど、皆イオンに行きたいのか交通量は増えていた。
朝の5時30分頃に出発して、9時30分頃にはイオンについた。頑張ったおかげで、開店30分後ぐらいにはイオンにつくことが出来た。もともと出雲大社に行きたいと思っていたから、朝早くにここまで来れて良かった。さて、修理のためにイオンバイクへ行きたいんだけど、あの緑の看板が見つからない。不思議に思って店内マップを見たら今の場所の逆側にあると書いてある。だけどそっち側は駐車場はなさそう。不思議に思いながら店内へ入って、イオンバイクがあるはずの場所へ。自転車屋というよりは自転車コーナーのほうが意味的には近かった。5台ぐらいしか自転車が置いておらず不安になったけど、「修理承ります」という貼り紙があったのでほっとした。近くにいたスタッフさんに「自転車の修理をお願いしたいけど、ここまで自転車を運んできた方がいいのか」と尋ねた。その人は要領が悪い感じでこう言った。「担当のものが14時になったら来ますのでその時まで待っていただけるのでしたら、、、」
あと5時間後?もちろん不可能というわけではない。だけど、そうしたら出雲大社はあきらめなきゃいけないし、ここからは直ホテルって感じだろう。それはつまらなすぎる。ここまで苦労したのに観光もできないのは嫌。だけどパンクしたまま出雲市のイオンにあるイオンバイクに行くのもしんどい。ここから30㎞ぐらいあるし。だけど、ここで待つよりは確実にマシか。パンクした状態でもう60㎞以上進んできたし、ここからも事故らずに行けるはず。もう4時間かけて焦らず出雲市へ行くことにした。パンクしてなきゃ2時間かかるかどうかぐらいなんだけどね。
結局パンクしてから100㎞ぐらいは移動をすることになってしまった。自転車にごめんなと言いつつもまたがる。ボロボロなのにさらに負担をかけることになってしまうけど、割り切りも重要。これまで通り国道9号線を走っていく。大田までの道のりに比べたら、そこまで危険でもなければしんどくもない。安全には留意しつつもどうにか頭の中はポジティブでいるように心掛ける。落ち込みのスパイラルには、簡単に入れちゃう上に抜け出すのが大変だから。
という感じで進んでいくと、この先通行止めの文字が。「国道9号 通行止め」で調べてみると、以前の災害で道路がなかなかやばいことになっているらしく、どう考えても通り抜けはできない。だが、国道9号線を通る以外に選択肢はほぼ皆無と言えるから、一旦通行止めのところまで行って交通整理員に迂回方法を聞くことにした。自動車は自動車専用道を迂回するらしい。自転車はもちろん通れない。迂回もさせてくれないとは。自転車は本当に恵まれていない。
長い登り坂を越えていくと、いよいよ自動車が迂回する自動車専用道の入り口に着いた。「住民やその他用事のある者」はこのまま通行可みたいなことが書いてある。田舎で道の本数が少ないから、地元住民はここを通らざるを得ず、こういった措置をとっているのだろう。地元の通行人ではなければ特にこの街に用事もないけど、我が物顔で通るしかない。
歩行者や自転車が長い間通っていないのか、雑草が生えまくっている。かと言って車道に出るのはリスク。パンクしてなかったら一気に下って行けるのにな。この状況では、歩道を進むか思い切って車道に出るかの判断が本当に難しい。うまくタイミングを図りながら車道と歩道を使い分ける。山道を抜けたら一気に海沿いへ出た。5㎞ぐらいは進んだはずだし、そろそろ完全な通行止めが来そうだったけど案外来ず、思った以上に出雲市に近付いていけた。
しかし、出雲のイオンまで残り20㎞ほどになった頃だろうか、ついに完全な通行止めに出くわした。現在地の確認と迂回路の設定をするために停まってスマホを開く。すると、ちょうど移動しようとしていたのか、そこで働いている人が自転車で来た迷い人を見つけて近づいて来、丁寧にマップを出しながら迂回路について説明してくれた。おかげでイメージがしっかりできた状態で迂回開始。最初はクッソ狭い山道だったけど(しかも迂回路だから車が集まって交通量が多い)、1~2㎞粘ったら何とか乗り越えられた。結構な傾斜だった。何キロもの迂回は初めてだったからパンクしていない方がよかったけど、越えられたしまあいいとしよう。
迂回し終わった先には道の駅があって、海鮮丼ののぼりなどもあった。だけど、なぜか無視した。中途半端に15分ぐらい前に休憩しちゃったってのもあるけど、なんかそう突っぱねちゃうときがあるのよね。変に尖る。しんどいところを越えたわけだしゆっくりすればいいのにね。絶対あそこの海鮮丼はうまかった。もったいね~。
出雲は近いようで案外遠かった。心が潤いを欲していたからかもしれない。とにかく早く到着したいという気持ちが先走ってしまう。だけど急いだって出雲は近付いては来ない。焦ったとて結局心が苦しむのみ。
出雲市の中心部は歩道じゃじゃらじゃらしてた。パンクしてるから、ホイールへのダメージ、さらにはリムテープの状態がいまさら心配になって内心キレていた。大分から福岡の日みたいに一日に何度もパンクするのはもうごめんだからね。
イオンに到着して自転車を見せた。延岡でチューブを変えてもらわなかった反省もあって、今度はチューブを変えてくれとスタッフさんが診る前からお願いしておいた。そしたら、タイヤも変えましょうと言われた。無茶させすぎて亀裂が入りまくっていた。もうこいつも泣きたいだろうな。こんなにボロボロにされて。すまん。
一時間後にまた来てくださいと、プラスチックの番号札をもらってイオン内に放りだされる。だけど特に買うものはなければ見たいものもないから、フードコートまで行って時間をつぶすことに。バーガーキングがあった。マックよりは個人的に好きだからラッキー。お得セットみたいなやつで、ワンコインでバーガーを二つ注文して食べる。まあ、これがここまで頑張って来たご褒美みたいなもん。小さなことでも幸せを感じられる幸せ、を感じられる幸せ、、、以下繰り返し。
だらだらしてたら一時間が経とうとしてたから、急いでイオンサイクルへ戻った。自転車の後輪は生まれ変わっていた。ズボンとパンツだけ新品下ろしてきたファッションみたいな、ちょっと違和感はあるけど、残り約一週間、もう故障せずに走り切ってくれる心強さを持っている。てか、残り一週間なのにタイヤも変えなきゃいけないのなかなかお財布にきついけど。支払いを済ませ(なんで工賃が1900円もすんだよ、たかっ!)、やっと出雲大社に行ける。本来であればもう満喫し終わって松江にゆっくり向かっている時間なのに。
出雲大社はとにかくいかつい。まず敷地が非常に広い。建築物も大きい。そして重厚感や安定感があって堂々とした感じ。渋いとはまた違った魅力を持っていた。
出雲大社を後にし、早く休みたいからと松江まで急ぐことにした。コンビニで飲み物を買い足す。ここ限定だろう「出雲はと麦茶」を購入。他のお茶よりちょっと高いけど、お土産って自己満の世界だろうから仕方がない。
最初の15㎞ほどは田舎道を疾走していく。周りは田んぼ。だけど道は広かったし、のどか。自転車も約1日ぶりに思いっきり漕げるようになり、すごく気持ちよく風を切れた。はと麦茶も飲んでみる。うまい~。元気が出る。さらに抜けていくと、今度は宍道湖を南に見ながら走っていく。約一か月前はびわ湖に沿って走っていたことを考えると感慨深い。特に宍道湖で何をするというわけではないけど。ただ琵琶湖はマリンスポーツがよく目についたのに対して宍道湖は漁が盛んという印象を受けた。シジミで有名だしね。
昨日に引き続き、ここも夕日が非常にきれいだった。山陰は太陽が山に隠れず、水平線と一緒に眺められるからきれいなんだろう。たくさん夕日が映える写真を撮ることが出来た。
何かしらの形でシジミを食べようかと思っていたけど、コース料理に手を出すのは憚れる。高そうだし。シジミラーメンなるものがあるらしいことがリサーチで判明したものの、あまり近くには店が無く、もう疲れていたから、シジミ料理は断念してしまった。(もったいない)。
二日に渡って苦しまされたパンクとやっとおさらばでき、後輪が生まれ変わったことでパンクリスクが激減し、しかも前輪は福岡の行橋市でパンパンに空気を入れてもらって以来状態が良い。もうパンクしないだろうと考えただけで気が楽になる。
鳥取を越えると近畿に入っていき、中学・高校の友達にも会える。だんだんとポジティブな方向へ状況は変化している。ここからラストスパートの始まりだ。
ルート
江津市から出雲市に至るまでも基本的には国道9号線。ただし、途中の多伎町で通行止めがあったので、そこでは迂回をした。出雲市イオンで自転車を修理した後、県道28号線で北上し国道431号線を通って出雲大社へ観光に行った。出雲大社からは同じく国道431号線で宍道湖の北側を走り、松江市まで行った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?