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大学生自転車日本一周旅二十六日目:高松駅から因島へ
本編
この日は、四国に入る前の予定では今治で終わろうと思っていた。だが、どうしても早く実家に帰って休みたくなったのと、意地でも次の日には広島に行ってお好み焼きを食べたいと思ったので、広島までの所要時間を考えると今治ではどうしても終われない。てなわけで、しまなみ海道の途中で野宿をしようと夜決めた。これが決まったのは、フェリーの乗るための現金がなくなってしまい、しまなみ海道をもう一度戻らなくてはならないことが決まった二日前。ただし、どこの島で野宿するのかまでは決まっていなかった。最終到達地点不明のまま出発。無料だと信じていた高松駅の駐輪場できっちりと100円支払う。残りの現金100円なんですけど(そのうち70円フェリー、20円関門海峡自転車通行料)!
高松を抜けて、まずは坂出市、丸亀市と進んでいく。思っている以上に田舎の道を進んだ。わざわざ駅の近くを通った方がその市を満喫できると思って国道11号線ではなく県道を走ったけど、特に楽しいことはなかった。ただ少し遠回りしただけ。丸亀城は、通った道からは全く見えなかった。
その後、三豊市を抜けて観音寺市まで、小さな山を越えて方向感覚が狂ったりしながら突き進んだ。そういえば「観音寺」と書くと普通は「かんのんじ」と読む気がするが、ここは「かんおんじ」らしい。以上、どうでもいい地名情報でした。
観音寺市を抜けると、久しぶりの愛媛県へ。四国中央市に入ったはいいが、工場のそばをひたすら走らされた。中学の社会の授業で瀬戸内の石油化学コンビナートみたいなのを習った記憶がある。おそらくそれとは違うけど、まあ臭い。とにかく臭い。途中息を止めたぐらい。こういうところでずっと仕事できる人すごいな、俺は臭いでギブしてしまう。でも、よく考えたら、日常でお世話になってる工業製品は皆こんな工場で作られてるはずだから、きれいな形の物でもその過程は汚いし臭いんだな、とか思ったり。
新居浜市まで来ると、正直何とも言えない道。アップダウンは結構あるが激しくはない。田舎ではないけど都会でも決してない。雲行きも怪しく、小雨程度に雨が降った気もする。ずっと我慢が続いた。
新居浜市をやっとのことで抜けると、次は西条市。西条市では部活帰りの中学生らしき軍団と遭遇。軍団自体はなんも問題なかったけど、一人あまり仲が良くないのか100mくらい前のほうで突っ走ってるやつがいた。そいつが、こっちを意識してたのかは定かではないけど、何回か抜いたのに何度も追い抜いてきた。なんか悔しい。とにかく足の回転がめちゃくちゃ速かった。今だから言っとくけど、こっちは慣れない道で、次曲がるか真っすぐのままかとかを国道の標識や景色を見ながら考えて漕いでいたから、お前どころじゃないんよ。絶対自意識過剰やけど。でもやっぱあの顔ムカつくわ。
その中学生が左折し、その数百メートル先で左折しようとしたが、そこにあった橋が狭くて通っていいのか分からない。不安になって一応渡らずに迂回はしたが、なかなか元の道には戻れずに苦労した。だが、そこを抜けると、あとは今治へ突っ走るのみ。さらに田舎へと入っていったが、広い道もあって問題なく今治まで戻ってくることが出来た。
そして、四国に入ったあの日、希望を抱いて通った道まで戻ってきた。不思議な感情に包まれる。これまでも散々な距離を漕いできたが、きちんと一周したことは無かったから感慨深い。まるで昨日のことのように初日の景色が思い出される。初日は右折して外れていった道に、今度は右折して入っていく。そして懐かしのマックを食べたイオンへ。
夕食を食べ、夜食の買い出しまでしてバックの中をパンパンにし、準備を整える。目的地は可能であれば因島ということにした。因島は尾道側から数えて2番目の島。つまり、本州までは目と鼻の先。次の日できるだけ早く広島市に行きたかったから、そのためにも頑張れるだけ進む。まあ、道の駅ぐらい島ごとにあるだろうから、寝床には困らないだろうと、思っていた。
そんな軽い気持ちで自転車にまたがった。夜からは雨予報だった。雨の日はホテルでの宿泊が推奨されるが(誰から?)、早く広島に行き、早く家に帰りたいから、快適さは諦めた。最初の島、次の島と行きの時の景色を思い出しながら(こんなとこ通ったっけ?とはなったけど)、道の駅を通過し越えていく。行きでしんどいと分かった、橋までの坂道は全部押した。三つ目の島で、懐かしのサイクリストの聖地の存在確認。
ちなみに、しまなみ海道が通る6つの島のうち本州側三島が広島県、四国側三島が愛媛県だから、この島と次の島をつなぐ橋の上で広島県へ戻るわけ。で、その橋を越えて広島県に入り、ここまで来たから、寝られそうな場所があったら寝てもいいな、と考えながら橋から道路まで下りていこうとした。道にはイノシシが飛び出してくる絵の看板があって、注意を促している。「いや、こういうのよくあるけど、警告されている動物とか虫に出くわしたことないやん」って思った瞬間ライトに反しする二つの目。背筋ビクッ。一瞬で流れる敗北の空気感。そうです、彼は立派な猪です。しかも完全に大人の。急ブレーキをかけ、つまりは向かってこられたら逃げられずに詰む状況を自ら作る(アホ)。だが、彼(もしくは彼女)も人間にいい思い出が無いのかライトが怖かったのか逃げ出していった。あぶねー。その先50mぐらい進んだら、まだあの子は完全に逃げたわけじゃなく立ち止まっていたみたいだったが、またあの自転車男が向かってきたもんだから草むらか山の中に隠れていった。まーじで怖かった。そっからまだ1㎞ぐらい下らなければならなかったが、ビビッてへっぴり腰で超スローに下りていった。
さてさて、やっと島に下りたし、この島か次の因島に道の駅ないかなーと思って検索。あれ?ない。愛媛県の三島には一個ずつあったのに、広島側には一個もない???おい広島!サボんなよ。道の駅ぐらい作れ!観光させようとは思わんのか!まあ多分道の駅を作るのは地方公共団体ではないけど。
このころから雨が降り始めていて、屋根付きのベンチじゃないと寝られなくなっていた。道の駅が無いとなると公園になるんだろうけど、雨が降りこまない屋根付きのベンチがある公園となると、一気に発見のハードルがあがる。この島で漕ぎながら探すが、お眼鏡にかなう公園無し。屋根付きのベンチがある船の待合所も選択肢の一つではあったが、朝早い漁師に明け方追い出されるのがオチだろう。このままいけば、因島の中でも、その次の向島に行く手前にある因島記念公園になりそうだ。しかも、そこで寝られるという保証はない。
雨に打たれ、絶望的な状況に頭を悩ませながらコンビニでカフェオレを買って萎えていた。時刻ももう22時を回っていた。因島の先まで漕ぐことを覚悟し、橋を越えていった。しかし、奇跡というものは起きるらしい、これが。なんと橋を越えて因島に降りていくところに、屋根付きベンチのある休憩所が。キターーーー!想定外のプレゼントに大歓喜。こんな無計画男にも平等に幸せは来る。地面にあった穴が巣になっているのか、そこからゴキブリが時たま出入りしていたけどわがままは言ってられない。おとなしく寝ます。何とか救われてよかった。
ルート
高松市を出発し南下して国道11号線に出た後、坂出市に向かって北上し、県道186号線へ左折。そのまま道なりに進んで観音寺市へ。観音寺市で11号線に戻るとそのまま愛媛県に突入し、西条市の西側で国道196号線へ。今治駅まで行った後、しまなみ海道に沿って因島まで。