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【日常短編集4月号】002:二葉 春夜『夜桜』

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「花見しようぜ」
「ぉ、ぉう、え?」

玄関の鍵が開く音を聞き、そちらにパタパタと向かえば、彼が私に満開の花を付けた桜の枝の束を差し出しながら宣った。

駅前の花屋のシールが張られた紙に包まれた桜からは、ほのかな春の香りが漂っている。

ちらりと彼を見る。

恐らくは先週行くはずだったお花見が、仕事が入ってしまっていけなかったのを気にしていたのだろう。別に来年だってあるんだしそこまで気にしていなかったのだけれど、こうして気にかけてもらえるのは素直に嬉しいものだ。

「お酒は?」
「ありますとも」

一応問いかけてみれば、彼は後ろに隠していた手をこちらに捧げて見せた。結構ぼろくなってきたエコバックに入っているのは、ちょっとお高めの日本酒だ。それも3本も。分かっている。さすがだ。

「めっちゃ大賛成なんだけどさ、私の懺悔を聞いてくれる?」
「聞いてしんぜよう」
「夕飯のおかず、ジャーマンポテトなんだよね」
「・・・・・」

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