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漠然とした不安 2
金曜 20:00
台風19号の前夜。マッチングアプリで知り合った男と下北沢で待ち合わせをしていた。雨はまだ小雨程度だったが、前代未聞と言われる大型台風が迫っているせいで、不穏さが漂う金曜だった。
電話が鳴り、「今どのへんにいますか」と。
「改札の近くで白のシャツを来ている」と答えると、すぐに落ち合うことができた。傘を差していて顔はよく見えなかったが、思ったよりも細身で背が高かった。
駅から近い居酒屋に入った。店内の灯りが昼光色だった。私は基本的に青白いこの光が好きでなく、自分の顔を見られるのも嫌だと思った。
適当なつまみを何品か頼んで、1杯目はビール、2杯目以降はハイボールとレモンサワーをそれぞれ。仕事や趣味とか初対面の男女が居酒屋で話すべきひと通りの話題を順番に話しながら。
相手に質問を投げかけながら、相応の相槌を打って、隙間で自分の話も交える。これは私が大人になってから、極度の人見知りを克服するために得た会話スキルだと思う。20歳より前はこんなこと出来なかった。
でもこのスキルを発動しながら、心の反対側で「早く帰りたい」と思う自分がいる。
ちょうど良い時間に「そろそろ行こうか」と言って、支払いは割り勘した。店を出て駅の改札の前で「じゃあね」と別れた。
「もう一軒行く?」「ウチ来ない?」もなかった。彼からの連絡はそれ以来、途絶えている。そして、私からもなにも連絡していない。
何か悪いところがあったわけじゃない。でもまた食事してもきっとまた適切な距離を保ったままの会話を繰り返すんだろう。
私はやっぱり婚活に向いていない。もしかしたらこのままひとりで生きていくのかもしれない。でも誰かに暴力的に心を奪われてもいいと思っている。
なんかもう嫌だ。