滑稽な男女(14)~探偵とコーヒー
「弁護士なら住民票取れるんだってね。」
「うん。
私、弁護士の知り合いがいるの。
前の職場の顧問弁護士で。
今回のこと相談したら、住民票は追えるって言ってた。
私の住所って、どうして分かったんだろうって考えたんだけど、
もしかしたら、私がさ、あの社宅に住んで頃から追っていったのかなって。
ネットで調べたんだけど、住民票のデータって転出後も5年から150年も保管されるんだって。」
孝の奥さんは、私たちの同級生の職場の後輩だった。
田舎街では誰ちゃんはあの社宅に住んでいて、誰くんは肉屋の息子で、というように住んでいる所はだいたい分かるものだ。
「あとね、その弁護士が言うには、弁護士会照会っていう方法で、電話会社に電話番号から住所を教えて貰えるんだって…」
私はノートを目で追う。
「そうか。でも、妻は周さんの過去の住所も携帯番号も知らないから、
やっぱり、あの日は探偵につけられてたのかもしれないね…
それで、あのマンションから、ちーちゃんが自分の家に帰るまでつけられてたとか。」
「そうだね。
そんな長い時間…
一日掛かりだよね。
探偵ってハードだね。
だけどさ、
もう今さら、住所をどうやって調べたかなんて、どうでもよくて、
いくら慰謝料を払うかってとこだからね。」
「俺はもう、
自分の家に帰るのがいやで、いやで。
妻にいろいろ盗み見られてるんじゃないかって思う。
盗聴器、探偵。」
孝の表情が重々しいので、
「でも、もうしばらくは3Pしないでしょ?
え、もしかして、はまっちゃいました?」
と冗談を言ってみる。
「え、俺はもういいよ。
ちーちゃんとしたかっただけだよ。」
「え、」
また、思わずコーヒーカップに手が触れてしまい、カチャと鳴った。
ドキッとすること言うなぁ、孝は。
普通のテンションでそういうこと突然言うから困る。
何で孝は私のこと好きなんだろう。
私は黙って、冷めたコーヒーの残りを飲んで、ちょっと店変えよっかと言った。
(つづく)