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滑稽な男女(16)~不自由な人

翌朝、孝は私のアパートまで車で送ってくれた。

だんだんアパートが近づき、見覚えのある風景になる。

孝の奥さんは無職だし、わざわざ離婚してシングルマザーになることを選ばないだろう。

お互いの同意がなければ離婚はできない。

孝がいくら離婚したくても、奥さんは離婚を認めない。
戸籍上、夫婦であれば、無職の奥さんは孝から生活費を貰うことができるから。

それに、孝も産まれたばかりの子どもを見捨てるなんてできないだろうな。
夫婦仲は冷えていても、孝、奥さん、子どもで生活していくんだろうな。


孝とはもうしばらく会わないだろう。
もしかすると、あと何年も、何十年も…


結婚が邪魔をして、一緒にいたいと思う人と一緒にいれない。

不自由だな、結婚って。
結婚って不自由だ。

私が結婚しているわけじゃないのに、相手が結婚しているから不自由だ。
不自由な人間と関わった私がバカなんだ。


不自由な人間…

孝の横顔を見る。

不自由な人間…


アパートの前に着いた。

「今後のことは、弁護士にもう一度相談してから決めるね。」

「もし、慰謝料を払うことになったら、俺、全額を払うから、また連絡してね。心配かけてごめんね。」

「いや、そのくらいの貯金はあって、私も払えなくないから。とりあえず急いで何かお願いすることは無いと思うよ。
いろいろありがとう。元気でね。」


キスをしてお別れした。
車が見えなくなるまで手を振る。

部屋のソファーになだれ込む。
涙が溢れた。
声を出して、わーわーと泣く。
いつからか、泣きたいときは、我慢しないで思いっきり泣くとスッキリすることを知っていた。



眠りかけたところで、スマホが揺れる。
中本から「あれからどうよ?」と一言LINEが来た。

もう一度相談したいと伝えると、中本は一瞬で四谷のタンシチューの店を指定してきた。

タンシチュー…

中本のやつ、笑える。
中本の店選びは、センスがいい。


早速、その日の夜に中本と会う。
タンシチューの店は、雑居ビルに入った小さな店で、山小屋のような雰囲気だった。

中本はタンシチュー・ライス大・赤ワインを、私はタンシチュー・ライス無し・ハイボールを頼んだ。

「孝の奥さんは、周と孝と私が、周のマンションで一晩過ごしたことを探偵か何かを使って知っているようなの。
さすがに15階のマンションの中までは撮影できないよね。」

「それは無理だね。」

「周と孝は、朝方、2人で飲みに行ったらしいんだけど、その時は、夜のことは一切話さず、周から私がどんな高校生だったか聞かれて話しただけなんだって。」

「それじ、奥さん、不貞の証拠ないね。ラブホだったら、それ目的のホテルだから、違ったと思うけど。
裁判所はさ、証拠だけ見てるから。
そんなんで、不貞と認められたら、逆にえん罪だよ。
もし、訴訟になっても、慰謝料は認められないよ。もし認められたとしても、旦那を一晩泊めたことは、妻への配慮に欠けるよね、ってくらいで数十万かと思う。
いや、それもないな。
でも、本当のところは、やってるし、認めるか、認めないかは、あなた次第だよね。」

中本はタンシチューをおかわりした。
中本は自由な人だ。
この人を好きになれればね。

ないけど。

いつものとおり、中本は奢ってくれた。
私は、相談料と食事のお礼に準備しておいた山本山のり煎餅セットをあげた。

(つづく)

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