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ふさわしい不倫(26)

「あゆみと出会う前だよ。
小学校3年生のときのクラスメイトで、嫌いな子がいたんだよ。
表向きは仲良くしてたよ。その子のお家にも泊まりに行ったこともあるし。
その子って、すごい可愛い顔してるって感じでもないけど、明るくて、元気で、笑顔が可愛い。
転校生の私を気に掛けてくれたみたいで、その子から声掛けてきて、仲良くなったよ。
でも、嫉妬っていうのかな。私、転勤族だったから、幼なじみっていなくて。
その子には幼なじみの男の子がいたの。
私、その男の子のことけっこう好きで。
だから、うらやましくて。
でも、ぜんぜん態度には出さなかったし、他にも友達いたし、その子とはあまり関わらないようにしてた。
その後、また2年後には私、転勤になっちゃったし。

だけど、それから1年が経った頃、その子から手紙が来て、新しい場所での生活はどうですか?って。
私ね、お返事返さなかったんだよ。別にそこまで仲良しって感じでもなかったし、今さら何なんだろうって思って。
性格良すぎるとこも、嫌いだったんだよね。

そしたら、しばらくして、他の友達からも手紙が来て、その子が白血病で亡くなっちゃったんだよって書いてあった。

私、なんで手紙返さなかったんだろうって。
きっと、病院のベッドで私に手紙を書いたんだと思う。
自分はもうすぐ死んじゃうって、子どもながらに分かっていて、自分だって生きていれば、この場所以外の、いろんな、東京でも、海外でも行けたはずなのにって悲しくて、毎日泣いてたんだと思う。
そんな時、あの町を出た私を思い出して、手紙を書いてみたんだと思う。」

思わず何十年も前の記憶が蘇り、涙が溢れた。
小さい子どもの気持ちが自分の心に降りてきたかのようだ。
少女が病院の窓から風邪に揺れる木々を眺めている光景さえ浮かぶ。

あゆみが黙ってハンカチを渡してくれた。

「それで、きっと、そんなことがあったから、私は誰かのサインを無視したくないって思ってるところがあるのかもしれない。

大地が寂しい、辛いって、本当の気持ちを言うわけじゃないんだけど、伝わってくるから放っておけなくて。

奥さんや子どもたちのことが落ち着いてくれば、私は大地と別れてもいいとも思うんだよ。」

紅茶は冷えている。

「うーん、そうなんだ。
そういうこともあるのかもね。
だけど、ちーちゃん、それは優しすぎるかもしれない。」

「もちろん、自分の得もあるよ。私が男に癒されてる部分はあるから、別れたくないっていうのがね。
だけど、それだけじゃないって、
なんでわざわざ不倫してるのか、
デメリットが多くて、
世の中には他にもたくさん男がいるのに。
今、話してたら過去と繋がった気がするよ。」

「人が付き合う理由って理屈じゃないところがあるのかもね…」

お店の人が紅茶のおかわりを勧めてきたので、あゆみと私は店を出ることにした。

(つづく)

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