【短編】今夜はオイスター
大食い系YouTuberぷにこ。
ぷにこが大量の生牡蠣を食べている。
するん、くちゅ、くちゅ、
するん、くちゅ、くちゅ、
大皿に盛った100個はある生牡蠣を一つ一つ箸で上手に掴んで、端から見事に美しく、幸せそうに食べていくのだ。
動画に見入ってしまい、あっという間の7分間だった。
さっそく紹介していた生牡蠣むき身のパック詰めを一つ、通販サイトで購入した。
数日後の土曜日、クール便で生牡蠣のパックが届く。
発泡スチロールの箱の蓋を開けると、中にザクザクと砕いた氷と生牡蠣のパックが入っていた。
パックの蓋から、一匹の牡蠣のヒダが少しだけはみ出している。
港に併設された建物で、おばちゃんたちが牡蠣を手作業でパック詰めしているそうだ。
海の匂いがする。
見るからに新鮮だ。
まずは塩で優しく揉み、その後、水で丁寧に洗っていく。
ヒダに泥が溜まりやすく、その泥を食べるとお腹をくだすらしい。
水に浸しながら、親指でヒダを優しく撫でて泥を落とす。
これは、ちょっと女性のあれに似ているかもしれない。
でも、弾力はない。
今日は、数回飲みに行った男を家に呼んである。
1パックに36個もむき身の生牡蠣が入って送料込み3600円と大変お得なのだ。
しかし、牡蠣の足は速いため、届いてから3日以内に36個食べなければいけない。
そして、その男ともそろそろ、と思っていたので、生牡蠣をご馳走すると言って、私の部屋に誘っておいたのだ。
半分は生のままでレモンを搾って食べて、残りの半分はグラタンにしよう。
冬が旬のほうれん草と合わせて、牡蠣グラタンを作る。ホワイトソースから手作りした愛情のこもった手料理だ。
男にはグラタンを作るとは伝えていなかったけど、白ワインを買ってきてくれた。
日本酒ではなく、白ワインだったことが以心伝心できたみたいで嬉しい。
テーブルには藍色の花柄のクロスを敷き、ワイン2本、レモンを添えた生牡蠣、ほうれん草と牡蠣のグラタン、トマトとケールにマスタードドレッシングをかけたサラダ、たらこバターを塗って焼いたバケットを並べた。
難しい料理はないけど、彩りもなかなか良く、わくわくする食卓になったと思う。
2人掛けのソファーに男と並んで座る。
男はちょっと緊張ぎみだ。
私はいつものソファーだし、なんてことはない。
とにかく早く牡蠣が食べたい!
ポン!
トクトクトク…
男がワインを注いでくれる。
いいね、いいね、完璧だよ。
さ、早く、早く、
頂きましょう!
するん、くちゅ、くちゅ、
ゴクゴク、
するん、くちゅ、くちゅ、
ゴクゴク、
男と私は牡蠣と白ワインを交互に口に入れていく。
おいしいよー。
おいしいよー。
とーーっても気分がいい。
いつも男の表情は硬めだけど、今はゆるゆるしている。
するん、くちゅ、くちゅ、
ゴクゴク、
するん、くちゅ、くちゅ、
ゴクゴク、
たくさん話して、飲んで、食べて、隣の男の顔を覗き込む。
良い顔立ちをしている。
やっぱりこの人は男前だ。
エッチしたーい!
お願い!エッチしよー!
おばさんなのに可愛く言ってみる。
男は恥ずかしがって、はぐらかす。
そこで、5月から漬けているブランデー梅酒を取り出す。
男はお酒が大好きなので、飲まずにはいられない。梅の香りはほのかで、初夏の早朝の山のように爽やかだ。
水で割らずにロックなのに、ごくごくと飲んでいる。
男は私の会話が好きだと言う。選択肢を広げるような話し方をするからと。
選択肢を与えない、威圧的な話し方をする女性なんているんだろうか、と少し疑問に思う。
私は男の頬を軽く触ってみる。
この人のこと、好きかもと思う。
体を寄せて、何度も、何度も、おねだりする。
こんなに酔ってしまっては、絶対に引けない。
ソファーを降りて男のズボンをひっぱる。
男はラフなジャージを履いているので、一気にパンツごとが脱がせた。
石鹸の香りがして、
それを口に含む。
するん、くちゅ、くちゅ、
するん、くちゅ、くちゅ、
ん、
するん、くちゅ、くちゅ、
するん、くちゅ、くちゅ、
んん??
するん、くちゅ、くちゅ、
するん、くちゅ、くちゅ、
こ、
これは…
ベビーオイスターやーん!
(おしまい)
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