魔女の薬局(1)~赤いアザと私
私の左頬には、赤く、大きなアザがある。
全体はボコボコと盛り上がり、表面はザラザラとしていて、皮膚が細かく剥がれ落ちたりするのだ。
枕に白い粉がつくため、毎朝、枕カバーを換えるのが日課だ。だから、私は枕カバーを20枚も持っている。
幸いなことに、そのアザに痛みはないが、しばしば突っ張りを感じる。
保湿クリームを塗れば、一時的に突っ張りは治まるのだが、ぐちゅぐちゅとしてきて不快だ。
そして、保湿クリームを塗ることをやめれば、前よりも強く突っ張るような気がする。
そのアザは、自分には触れてくれるな、と怒っているようで、突っ張ることをやめない。
そうやって、そのアザは目に映らないときでも、存在感をしっかりと示してくるのだ。
だけど、やっぱり鏡の前に立ったときが一番辛い。
自分の顔や髪の毛、立ち姿を確認しようとするとき、どうしても、赤い、赤い、そのアザだけを見つめてしまうからだ。
あぁ、
神さま、
私にはなぜ、
赤いこれがあるのでしょうか。
しかも、私は女で、特別美しくなくても構わない。
ただ、ふつうの肌であれば、人と話すことくらいできたと思う。
クラスメイトが私を指さして、「赤鬼」「ボコボコおばけ」と言って、ニヤニヤ笑っている。
心臓のあたりが痛い。
心臓がぎゅうと縮んだみたいになって、喉がカラカラになる。
唾を飲み込もうとしても、唾が通ることはない。
私にとっては、クラスメイトこそ鬼だ。
見た目は可愛らしい子供なのに、鬼たちはゴツゴツと硬く、ネチネチとしつこい。
私は3歳の頃には、赤いアザがあることに気づいていた。
母はいつも忙しくしていたから、アザについて話すことができなかった。
6歳の頃、図書館に通って自分で調べてみても、そもそも難しい文字ばかりが書かれていて読み進めることが難しい。
それでも、辞書を使いながら、少しずつ医学書が読めるようになっていた。
ただ残念なことに、どうやら、私のアザのことは書いていないのだ。
12歳のときに思い切って母に聞いた。
このアザは治るのかと。
母は治るとも、治らないとも言わず、ただ一言、「気にしなさんな」と言った。
私は母の両腕を掴んで揺さぶりながら、このアザについて、何か手がかりを知っているのではないかと訴えた。
母は「そんなものに囚われてはいけないのよ。」と静かに言って、私の頭をなでた。
そして、母がいつも首につけている小さな水晶のネックレスを外し、そっと私につけてくれた。
「不安に思うとき、この水晶をなでなさい。
この水晶は、お母さんが魔法をかけておいたから。」
そう言った母の顔には、目尻にシワがあり、とても美しかった。
私は母のことが大好きだけど、母が魔法を使えないことはわかっている。
もし、母が魔法を使えるなら、とっくに私のアザを消しているはずだから。
でもこの水晶は、母の優しさを感じられる。
だから大切にすることにした。
私は18歳になっていた。
(つづく)