滑稽な男女(13)~妻の根絶やし
湘南に着いて、海沿いのラーメン屋に入る。普段は人気のラーメン屋らしいが、正月明け早々のためか、すんなり入れた。
ラーメンは、背脂がたっぷり浮かんだ、濃い醤油味のスープで、特別変わったものではないけど、一口で、もう旨い。
麺は中太で黄色みが強く、トッピングはチャーシュー、メンマ、ほうれん草、海苔、白髪ネギだった。
私はラーメンの海苔が好きだ。
海苔がトッピングされていることは多くないので、やったね!と思う。
孝とシェアした餃子もカリッと焼かれてあり、満足のいくラーメン屋だった。
本当に旨いものは、同じメニューが何十年も繰り返し作られている。
それから、逗子まで車を走らせ、古い昭和の喫茶店に入った。
孝と私はコーヒーを頼んで、私はトートバッグから、ノートとボールペンを取り出した。
「妻は2年前の不倫には気づいていない。
12月に俺のLINEを見て、俺がちーちゃんと会うことを知ったと言っていた。」
「LINEには例の件だけど、としか書いてないよ。
何をしたかは、LINEでは分からないの。」
二人でスマホの画面をスクロールしながら、LINEの履歴を見返す。
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例の件だけど、
12月2日土曜の14時で大丈夫かな?
新宿の京王デパート1階のpotpourri(ポプリ)っていう花屋の前で待ち合わせよう。
デパ地下で甘いものでも買っていきたいし。
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了解。
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じゃ、当日また連絡するね。
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メッセージはこれだけだった。
「このやり取りだけで、不貞だと思うものかな。」
「だよね。」
3Pという言葉を出して私が孝を誘ったのは、
このLINEの数日前にした電話のときだけ。
「LINEする前の電話が盗聴されてたとか?」
「いや、電話は家じゃなくて、会社の近くのコンビニの前でしたから盗聴できないと思う。」
「鞄とかスーツのポケットに盗聴器、入れてたりしてー。」
「うわ、
そんなことまでされたら…
怖いな…
怖すぎる…
でもLINEを見たとしか言ってなかったから。
LINEを見た後に盗聴器を仕込むなら分かるけど、ちーちゃんと2年も会ってないのに、このタイミングでLINEの前に盗聴器を仕込んでたっていうのはあり得ないよね。」
「そうだね。
なんか、盗聴、盗聴って、無駄にビビらせてごめん。
新宿のデパ地下で2人仲良くお菓子買いました、っていうだけじゃ、不倫とは思わないよね。
だから、その後、周の部屋に行ったところまではつけられてたのかな。
奥さん身重だったから、きっと探偵に頼んだんだね。」
「それが、周さんにも通知を出したって言ったんだよ。」
「え!!」
私の手が思わずコーヒーカップ触れ、カチャと鳴った。
「私、クリスマスの夜に、周のマンションに寄ってみたの。
インターホンに知らない男性が出て、
引っ越してきたばかりだって言われて。
だから、周はもうあのマンションにはいないの。
それで、私が帰宅すると通知が届いてたから、
きっと周のマンションにも同じ日に届けられたんだと思う。」
「妻はクリスマスに届くよう通知を出したのか。
どんどん怖い女になっていく。
じゃあ、通知はそのインターホンに出た人が受け取ったってことかな。」
「分からない。
周が通知を受け取っているのか聞いてみようか。」
「どちらにしても、周さんの耳にも入れておいた方がいいよね。」
私は周に電話をかけたが、繋がらなかった。
(つづく)