見出し画像

ボンズとクレメンスは殿堂入りできないの?

Baseball Hall Of Fame(野球殿堂)

それは選ばれた者だけが表彰の栄に浴すことができる場所である。

その権利を得ることは容易ではない。

選手としての成績に優れているだけでは殿堂入りは果たせない。

通算216勝と通算3116奪三振(歴代15位)そしてワールドシリーズMVPにも輝いたカート・シリングだが、引退後の数々の問題発言などが原因で7度も殿堂入り投票で落選を続けている。

2019年もワールドシリーズを終えて、海の向こうもストーブリーグ(英語ではhot stove league)に突入した。

FA選手が多いメジャーリーグでは翌年の開幕前までチーム戦力は変動し続けるし、今季は特に長引いた結果、大物FA選手であったキンブレルとカイケルの2人が6月まで契約が決まらないという異常事態に陥った。

とはいえ多くのFA選手は12月上旬に開催されるウィンターミーティングでその動向が決まってくる。

今年は海外FA権を行使した埼玉西武の秋山選手とポスティングでのメジャー移籍を目指す横浜DeNAの筒香選手、そして態度未定だが同じくポスティングでの移籍を希望する広島の菊池選手と、2~3人の日本人選手にも注目が集まる。

恐らく3人の移籍先が決まるのはウィンターミーティングが終わってからの12月中旬~1月初旬になるだろう。

ストーブリーグも大物選手の契約がまとまると、いよいよ野球界の関心は殿堂入り投票の結果だけとなる。

アメリカの野球殿堂投票はEars Committees(年代委員会)による投票と、BBWAA(全米野球記者協会)による投票の2つがある。

Eras Committeesはかつて「ベテランズ委員会」と呼ばれていたが、2011年より大幅な組織改正が行われ、それぞれの年代委員会ごとに過去の野球選手や監督、その他関係者から殿堂入りが選考される。

現在は4つの年代の委員会が存在している。

・Early Baseball Era(1871~1949年)

・Golden Days Era(1950~1969年)

・Modern Baseball Era(1970~1987年)

・Today's Game Era(1988年~)

今年はModern Baseball Eraの順番であり、カージナルスなどで長くマスクを被ったテッド・シモンズを筆頭に、ドジャースの主砲スティーブ・ガービーや、手術名に名を遺すトミー・ジョン、ヤンキースの主将ドン・マッティングリーらが選手として候補に挙がっている。

そしてMLB選手会の元選手会長を務めたマービン・ミラーも有力な候補者の1人である。

年代委員会の選考結果は12月上旬のウィンターミーティングで発表される。

メインイベントは年明けに発表されるBBWAAによる投票結果である。

年代委員会による選考には正直、疑問符の付く選手が何人かいる。

しかしBBWAA選考の殿堂入り選手は超一流ばかりだ。

候補者(nominee)はMLBでの最後のプレーから5年以上経つ選手で、2年目以降は前年の投票で5%以上の得票が得られていることが条件で、現在は10年目まで候補者の権利が得られるルールとなっている。

そして75%以上の得票を得られた数少ない者だけが野球殿堂入りを果たすことができる。

今年はヤンキースのスター選手デレク・ジーターが初めて候補者となるが、一発殿堂入りは確実と言われ、どれだけの得票を得るかに注目が集まる。

ところが他に殿堂入りできる選手はいないのではないかと噂されている。

ジーターと同じく初年度組(first ballot)では、ジェイソン・ジアンビーやアルフォンソ・ソリアーノ、ボビー・アブレイユ、クリフ・リーの名前が挙がるが、ジアンビーはお薬、ソリアーノとアブレイユ、リーは実力不足である。

投票最終年のラリー・ウォーカーは前年54.6%と厳しい状況で、年代委員会での「復活」を狙うのが吉だ。

投票8年目にバリー・ボンズ、ロジャー・クレメンス、カート・シリングの3人が控えている。

シリングは舌禍、ボンズとクレメンスはお薬が理由で、ずっと得票を得られないでいる。

この3人は奇しくも2007年がプレー最終年のため、2013年に初めてノミネートされ、次が8年目にあたる。

シリングはプレー以外の点でケチが付いているだけなので、最終的には殿堂入りするのではないかと思っているが、ボンズとクレメンスの2人は依然微妙な状況である。

上記3人と同じ年に引退し、やはりお薬とコルクバット使用疑惑で殿堂入りが難しい状況のサミー・ソーサの4人の得票推移を表にしてみた。

画像1

Total votersとは投票者数、Total votersとは総投票数であり、Average votes per voterは総投票数を投票者数で割った数字である。

2014年を境に投票者(投票権者)は平均8票を投じていることが分かる。

ちなみに投票権者には最大10票が与えられており、この全てを行使する人は稀だが、近年はそれでも棄権が減ってきている。

また投票権を行使しない幽霊記者も多く、2016年に一気にリストラを断行した。

この制度上の改革から1年遅れた2017年に記者たちの意識革命が起きた。

支持を集めている要因として、薬物疑惑のあった選手への抵抗感が薄らいでいることが挙げられる。近年は両氏と同年代にプレーし、薬物使用のうわさがあった選手も選出されている。昨年末に「ステロイド時代」のコミッショナーだったセリグ氏が選ばれたのもプラスに作用したと、CBSスポーツ(電子版)は伝えている。

前年度と比べてボンズとクレメンスは10ポイントも得票率が増えているのだ。

しかしここからまた伸び悩み、殿堂入りラインまでまだ15ポイントもの差があるのが現状である。

シリングは今年10ポイント伸ばしており、このまま順調に得票を積み重ねていくのではないかと思われる。

ソーサは厳しいままで、ステロイド時代の見直しはボンズとクレメンスだけにしか向いていないようだ。

ではボンズとクレメンスの殿堂入りは絶対に厳しい状況かというと、実はそうとも言い切れない。

2020年に殿堂入りが確実なのはジーターだけだが、2021年は一発殿堂入りできる候補者がいない。

名前を挙げると、ティム・ハドソン、マーク・バーリー、トリー・ハンターなど、確かに一時代を築いた選手ではあるが、殿堂入りするレベルかというと微妙なメンツばかりだ。

私は2021年にシリングが殿堂入りすると見込んでいる。

ボンズとクレメンスが選考10年目となる2022年は、2人と同じくお薬問題を抱えるアレックス・ロドリゲス、DHでのプレーが長かったデビッド・オルティズ、それにマーク・テシェイラやジミー・ロリンズが初年度組として控える。

実は2014年から直近6年間は常に複数人の殿堂入り選手がいたが、恐らく来年と再来年は多くて1人、少なければゼロという可能性もある。

少なくともジーターを除き、マリアノ・リベラやケン・グリフィーJr.、チッパー・ジョーンズ、ブラディミール・ゲレーロのように90%以上の圧倒的な得票率で殿堂入りする選手は出てこないだろう。

そうすると今まで「勝ち馬」だけに投票してきた記者たちが誰に投票するのか注目が集まる。

もちろん棄権するという選択肢もあるだろうが、それもまた大きな議論を呼び起こし、最終的には2022年、つまり最終年に2人は殿堂入りするのではないだろうかと淡い期待を抱いている。

アメリカ野球殿堂の投票結果を追跡しているアカウントがある。

多くの記者は自分の投票結果をネット上に公表しており、今年は約54%の投票者が殿堂入り結果発表前に投票先を公表した。(匿名も含む)

また結果発表後に公表する記者も含めると実に8割を超えている。

ライアン・ティボドー氏はこれらを毎年カウントしているため、結果発表前には凡その結果が分かるというわけだ。

なんでもメジャーに倣えというわけではないが、日本の野球殿堂も投票先を公表する記者がもっと増えても良いのではないか。

ゴールデングラブ賞の投票では毎年「疑問票」の存在が取り沙汰されている。

透明性の無い記者投票は賞の価値を著しく下げてしまうし、それは表彰への関心を薄れさせてしまいかねない。

野球の歴史を誇り、野球の記録を愛するためにも、堂々たる議論を経て殿堂入りを決めてほしいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?