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太鼓の3色の音色


 **おじいちゃんの叩く太鼓のおと、
 ぼく 好きなんだよな、、、**



「お母さぁさ〜ん、まだぁ〜?亅
玄関の前で、大声で私を呼ぶ声が響く。

妹も兄を真似るように、「お母さぁ〜ん、まだぁ〜」と、呼びかける。
久しぶりの家族4人のお出掛けで、彼らは少し興奮しているようだ。
「浴衣、着てるんだから、ちょっと待ってよ。早く動けないし〜亅
2年前に、母が縫ってくれた藍染のあやめ柄の浴衣を着ていく事にした。

8月、夏休みも半ばになり、ようやく私も休みを取ることができた。

                     *
5年前に離婚してシングルマザーとなり、小学4年の息子(達也)小2の娘(穂香)と私(優子)と母親と暮らしている。
父は5年前に他界した。
                    *
   (境内にて)
今日は、近くの神社で盆踊りが行われるのだ。
この神社は、催し物がないかぎりは、住宅街にひっそりと佇んで、人の姿はあまりみない。
だけど、今日はいつもと違って露店がいくつも出ており賑やかだ。
金魚すくい、たこ焼き、チョコバナナetc…
私も気持ちは、子供の頃に戻ったかのようにウキウキしてくる。
境内には、ヤグラが組んであり、定番の炭坑節が流れていた。

「あ〜、忘れ物した〜。家に取りに行ってくるね〜亅と息子の達也が言うと、「お兄ちゃん、待って〜、私も行く〜亅と妹の穂香とふたりで、家の方へ向かって行った。


「ねぇ、優子、穂香は、いつもお兄ちゃんにくっついて行くね〜亅
と母は、目を細めて愛おしくふたりの背中をみていた。

「達也は、食事が終わると必ず洗い物の手伝いをしてくれたり、穂香の宿題をみてあげたり、"オレは小さいおトッチャンだからな〜"って、自分でよく言っているのよ。亅と母が言った。
「へ〜、そんな事を、、、
 成長したなぁ、そういう所、別れた    
 旦那に似てるかも、、、」
ポロっとでてきた自分の言葉に、驚いて口をつぐんだ。
母が私の横で、穏やかな笑みを浮かべた。
      *

元旦那の剛と離婚した理由は、彼が勤めていた会社の倒産で、しばらく職が見付からず彼は自暴自棄になり、私達は喧嘩をくりかえすようになり、私は子供二人を連れて家を出た。
しばらくして、離婚届けを役所に出した。

その頃、達也は5歳、穂香は3歳だった。母の家に厄介になる事にした。
私は、昼は建築会社の事務の仕事、夜は居酒屋の洗い場で皿洗いと、働けるだけ働いた。 

2ヶ月前の事だった。
商店街を歩いていると、元旦那の剛の幼なじみの明とばったりあった。
そこで、少し立ち話をした。
剛が再就職して、会社の課長を任されている事、隣町のアパートで一人暮らしをしている事等。
(そういえば、
亡くなった父とは、よく楽しそうに太鼓の話で盛り上がっていたなぁと、、、)
そんな記憶がほんのり蘇ってきた。
     *
  (境内にて)
境内は、たくさんの親子連れで賑わっていた。
「皆さん、どうぞ輪になって踊ってく   ださいね〜、次の曲は、きよしのズンドコ節です。亅
町内会長のかすれた太い声が、境内に響きわたっていた。
「達也たち、遅いね。忘れ物ってなんだろう?亅と私は気になって母に聞いた。
「そうね、、、遅いね亅と母は、意味ありげにニコッと笑った。

やぐらから、少し離れた場所にステージがあり、幕が開くと大太鼓と、小太鼓が、ズラ〜と並んでいた。
境内に「わぁ〜亅という歓声が、あがりあちこちから拍手が湧いた。
「えっ!あれっ?右から2番目とその前     にいる子、達也と穂香だよね。
どーゆうこと?亅
驚いて私は母をみた。
「優子には、黙っていたんだけど、あ
 の子達ね、半年前から太鼓を習って
 いたんだよ。"お母さんには、内緒に
 してて"って二人から言われてたんで    
 ね。亅
私は、キョトンとして話を聞いていた。
 「よぉ。優ちゃん、久しぶり〜、」と
人ゴミをかき分けて私と母の横に、剛の幼なじみの明がやってきた。
彼は、母に軽く会釈をすると話をし始めた。
「達也と穂香、ハッピが似合ってて、なかなかかっこいーじゃん。バチの構え方も板に付いてるし、二人とも楽しみにしてたもんなぁ亅
「なんで、明が知ってるの?亅
「実は半年前に、
商店街で達也に会ったんだ。"太鼓を習いたいから、教室をしらない?"って聞いてきたもんだから、オレの知ってる青年会の太鼓教室を紹介してやる事になってさぁ。亅
横で聞いていた母が、たまにクスっと笑っていた。
「それがさー、教室に連れて行ったら、どこかで見たことのある角刈りのおっさんがいたわけ、それが剛だったんだ。あいつも1年前から習いはじめたんだと。前に会った時は、一言もそんな事、言わなかったんだけどなぁ。
まぁ、びっくり仰天だわ。
達也も最初は、モジモジしてたんだけど、3人で話してたら、緊張もほぐれたみたいで、学校の仲良しの友達の話をしたり、楽しそうにしてたよ。」
「えー!!どーゆうこと?つまり剛と達也が会っていたって事?亅

それから、穂香も教室に通うようになり、教室が終わってから剛の家で、夕飯をご馳走になった事とか色々と話してくれた。
(剛が料理をしている姿なんて、想像できなかった。一緒にいた頃は、"オレは料理はできないからなぁと、いっさい、やらなかったのに、、、
彼も少し、成長したってことか、、、)
「余計な事、言ったかなぁ、、、
じゃあな。オレ、手伝いあるからあっちで見るわ」
明は、軽く母に会釈して行った。

太鼓の音が、心地よいリズムを刻んでいる。
「ヤーっ!!亅という演者の声に、割れんばかりの拍手が境内をつつみ、達也も穂香も、満足げに笑みを浮かべていた。
(お父さんもお祭りになると、我先に太鼓を叩いていたなぁ。その横で、達也も真似していたっけ。穂香は、私の後ろで恥ずかしそうに見てた。この子達も成長してるんだなぁ。)
演目が終わって、わ〜っと二人が、私の下へ駆け寄ってきた。
「びっくりしたでしょ! おばぁちゃんと穂香とぼくの3人の秘密だったから、あっ、明おじちゃんも知ってた。4人だ。亅
興奮ぎみに達也が話してきた。
「よくがんばったね。えらい、えらい
」私は、二人の頭を交互に撫でた。
「がんばったご褒美に、チョコバナナ、よろしくね〜亅満面の笑みを穂香が、私に向けた。

お祭りの帰り道、先を歩く二人の背中を見ながら母と話しはじめた。
「母さん、私に秘密ってずいぶんだな〜。亅
私はいたずらっぽく言ってみた。
「悪かったねぇ、内緒にしてて、、、、
剛さんが優子と離婚して、もう5年だよね。時々、思い出す事あってねぇ、お父さんが、癌で倒れた時、彼は一生懸命介護してくれてたよね。
優子は、この所、仕事、仕事で忙しそうだったし、中々言い出せなくてね。
明くんの話を聞いてて、剛さんがまだ優子の事を気にかけてくれている事は、伝わってきたよ。子供たちも彼に会えるのを楽しみにしてたしね、、、
でも、内緒は、よくなかったね。ごめんね。亅
母は、申し訳なさそうにこちらをみた。
「そっか、、、でも、あんなにイキイキとした表情の二人をみたのは、ひさしぶりだったなぁ、、、
母さん、いつもありがとね。亅
母は、小さく頷くと、先に歩いていた二人を追いかけた。
      *
  (自宅にて)
「じゃあ、おやすみ亅
「うん、今日はありがとね。母さんもゆっくり休んでね。おやすみ亅ドアがゆっくりと閉められた。
振り子時計の音と、二人の寝息だけが聞こえていた。

私は今日あった出来事を、慈しむように日記に書き綴った。
(剛もちゃんとお父さんをやってたんだな。)

親子3人で、太鼓を叩いてる姿もわるくないなと想った。

end












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