【連載小説】ふたり。(12) - side K
前話
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◇
どこだろう、ここ。
私の部屋…?
だけど、レイアウトが微妙におかしい。
そして、母と、もはや招き入れることのなくなった、父が目の前にいる。
さらに、私の体は、なぜか男性のそれになっている。
よく見ると、それは私が想像した天国の兄の姿だった。
ああ、そうか。これは夢。
しかも、とびきりの悪夢。
「薫。好きな子ができたんだって?」
「クラスメイトか。どんな子だ?」
「へえ、美人じゃないか。ショートヘアでボーイッシュだけど、そこがまたいい。」
「なんだ母さん、別にいいじゃないか。男同士の他愛もない会話だよ。」
「頑張って落とすんだぞ、薫」
ちがう。
違う。
チガウ。
薫という名の兄は、もうこの世にはいない。
私は、妹の薫子だ。
そう思った次の瞬間には、わたしは元の体に戻っていた。
父は、さっきまでと態度を一変させ、眉間にシワを寄せながら言う。
「薫子。お前は俺のようになるな。普通の人生を送るんだ。」
実際に父から言われた覚えがある。カメラマンの仕事は厳しい、お前には向かない、写真は趣味でやれ、普通の仕事をしろ、と。
写真を教えてくれたのも、勝手に賞に応募したのも父なのに、なぜそんなことを言うのかわからなかった。
気がついたら、父との接触を避けるようになっていた。
「俺が写真なんてやらせたのが間違いだった。お前は普通に結婚して…」
父さん、なんでそんなこと言うの?私は写真を撮っているときが一番楽しいの。もう私を振り回さないで。
いくら叫んだつもりでも、私の声は父には届かない。
「で?いつになったらちゃんと学校行くんだ?薫子」
やめて。もうほっといて!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
9月13日 2:22 澤井邸 薫子 自室
「…ッ!」
目を覚ますと、深夜だった。
ひどく息苦しい。汗だくで、喉がカラカラだ。
枕元にあったペットボトルの水を一気に飲み干す。
エアコンのランプが消えている。
寝てる間に手元に置いていたリモコンのスイッチを押して、冷房を切ってしまったらしい。
すぐに電源を入れ直した。
体は蒸し暑さで火照っているはずなのに、震えが止まらない。
気分の悪さもあるけど、汗で冷えたのかもしれない。
常夜灯をつけて、全部着替えることにする。
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