【小説】謳歌 (3) -14歳、面倒
「宇多川くんってさ、小学校の時女子みたいなカッコしてたよなー、ロン毛だったし」
「俺、ソッチ系かと思ったもん」
「いや…、ちげぇよ。昔の話だし。」
小学校が同じだったクラスの男子と、他愛ない雑談に興じる。
すでに声変わりをしてしまった私は、学校ではなるべく男らしく振る舞おうと努めていた。その方がいろいろとスムーズにいく。多少の不都合は自分が我慢すればいい。こうして適当に話を合わせるのにも慣れてきた。今のうちだけでいい。あと1年の我慢だ。
〈彼〉には私の秘密を打ち明けた。男の人しか好きになれないこと、将来は女の人になりたいと思っていること、15歳になったら治療を始めること。〈彼〉は私のことを正確に理解してくれた。お姉さんが2人いるらしく、女性を客観的に見る目があるらしい。少なくとも、私の存在を自然に受け入れてくれた。
スマホを通してではあったが、私の日々の不満や悩みに〈彼〉は慰めの言葉をくれた。本音を言えば、彼と一緒ならどうなっても良いと思っていた。そんな自分の未練がましさが嫌にもなったが、結局は〈彼〉の厚意に甘えきっていた。
◆
『付き合ってる子がいるんだ』
〈彼〉からの突然の告白に、私は目を丸くした。
『バスケ部の元マネージャー』
3年生の女子らしかった。
そうなんだ、どんな子なの?動揺を悟られないように返信する。とにかく優しくて、頑張り屋で可愛い子。彼が答える。私の本心も知らないで。何か言わなくちゃ。
考えているうちに通知が来た。
「ゆうには正直に話しておきたかった。俺に本当のこと話してくれたから」
思わず、スマホをベッドに放り投げた。
どす黒い感情がごちゃまぜになって全身を渦巻いていた。〈彼〉のものになれる彼女に激しく嫉妬し、〈彼〉の鈍感さに失望もした。心の中で二人を口汚く罵った。
いつかはこう言う日が来ると、頭ではわかっていた。
そのはずなのに、いざとなったら、心と体が言うことを聞かない。
もう、身を引く以外の選択肢はないと思った。
落ち着いてから、『お幸せに』とだけ送っておいた。
以降、私から〈彼〉に連絡することはなくなったし、〈彼〉からも連絡は来なくなった。
これで良かったんだ。
◆
「宇多川くんってよく見たらイケメンじゃね?」
「だよなー、彼女とか作らんの?」
「…いやー、女子って色々めんどくせぇじゃん?」
「お…大人の意見~笑」
「これやってんな笑」
適当な言葉でごまかしながら、誰よりめんどくさいのはこの私じゃないか、と思った。
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全4話のショートショートです。
こちらの”U”の子が主人公です。
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