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【小説】謳歌 (1) - 12歳、詰襟

違和感。

この感情を表現するなら、そう言うのが最適だと思う。

中学生になった。

校則に縛られるのはまだ我慢できた。
物心ついて以来、初めてのショートヘア。
着るのが憚られる、真っ黒な詰襟。

それだけならまだよかった。

少しずつ低く枯れていく声。
骨張っていく体。
何よりも、プライベートな部分にある物の存在感。

自分が自分でなくなっていく。
この違和感は、大きくなる一方なのだと思うと、絶望さえ覚えた。

性同一性障害 (GID, Gender Identity Disorder)。

父は精神科医で、その言葉を通して私のことを正確に把握してくれた。幸運なことだと思う。母はむしろ私に積極的に可愛い服を着せたりして、私を女の子として可愛がってくれていたが、年齢を重ねるごとに、私と少しずつ距離を置くようになっていった。

寂しさ、悔しさ、忌々しさ。自分の内側に渦巻くマイナスの感情を紛らわせるために、私は「知る」ことを選んだ。人目を忍んではネットに没入して、有象無象の中から自分の役に立ちそうな情報をかき集めた。

ある日、意を決して両親に告白した。
ホルモン治療と性別適合手術を受けたいと。

母は賛成してくれた。父は「そうしたい気持ちはわかる」と言った上で、苦々しい顔で私に現実を突きつけた。

女性ホルモンの注射は副作用が大きい。
大人になる過程で、私の心も変わっていく——つまり「普通の男」になるかもしれない。
そのため、二次性徴を抑制するホルモン治療(副作用が小さい)が望ましい。
ただし、専門の病院で経過を見ながら、治療を受けられるのは少なくとも3年後…15歳になってからでなければならない。

私には反論の余地などなかった。

12歳の春。
黒い詰襟は、闇のような中学生活の象徴になった。
だけど、その最果てには細い一筋の光が差し込んでいた。

(続)

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全4話のショートショートです。
こちらの”U”の子が主人公です。

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