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【クルド人偽装難民問題】トルコ出張調査報告書(地方視察編)を読む

はじめに
 クルド人偽装難民問題に先駆け2004年に入国管理局が現地調査を行った報告書「トルコ出張調査報告書」の要点を整理しています。 
 この報告書は、2004年トルコからの難民申請が急増したこと等を背景に、入管が現地調査を行った報告書です。難民申請時の逮捕状等の公文書が偽造されたものであることを確認し、実際は難民ではなく経済的理由による「出稼ぎ」であることを綿密な調査によって裏付けています。

 この難民申請を繰り返すことで日本に滞在するというスキームは、80年代後半にパキスタン・アフマディーヤ教徒により開発されたという説をみかけたことがありますが、真偽不明です。

2004年の段階で入管ではこれほどまで詳細な報告書を作成し、事態を把握していたにも関わらず、偽装難民対策を現在まで打つことができなかった要因は今後追及されるべきでしょう。

では調査報告書の要点について、目次をどうぞ


1.トルコ出張調査報告書とは

この文書は2000年初頭よりトルコ人による難民認定申請者が急増したことを背景に、平成16年(2004年)に法務省入国管理局が作成した現地調査報告書です。在日クルド人問題をきっかけに、N国党浜田参議院議員の秘書村上ゆかりさんの依頼によって法務省より開示されたものです。

本当にすばらしいですね。

調査報告書ファイル

原本PDFは上記村上さんのポストから取得ください。

PDFをOCRかけてテキストに起こしたデータはこちらです。ご自由におつかいください。誤認識があるの怪しいところはPDFと比較しながらご利用ください。


2.忙しい人のためのまとめ

これはなに?
トルコからの難民認定者が急増したことを疑問に思った入国管理局が現地に行って原因を探ってきた2004年の調査報告書だよ。

なにを調査したの?

■クルド人がトルコ政府から弾圧されてると言ってる件はホントかな?
→2000年代に入ってから人権状況は良くなって、制度面の整備も進んでるよ

■難民認定の際に提出されている逮捕状などの書類は本物かな?
→難民認定の公文書は組織的に偽造されたものだったよ5000ドルで文書偽造を行って難民申請をサポートする業者がいたよ。

■申請者が特定地域に集中してるのはなぜかな?
→村ごと移住した例がベルギーにあるよ。申請者の地元は意外と平和なところで、テロ組織の活動地域から離れていたよ

■実は出稼ぎ目的では?
→実際は経済的動機による出稼ぎ目的と考えられるよ

ということです。

では、次の章から調査報告書の内容の要点を整理していきます。


3.調査報告書の目的整理

3.1.調査の背景にあった入国管理局の課題意識

トルコの現地調査まで行って入国管理局が明らかにしたかった”課題”とは以下の2点に集約されます。

1.トルコ国籍者からの難民認定申請の急増
1982年の制度発足以降、トルコ国籍者からの申請が最多(483人)
・特に近年急増(2001年:123件、2002年:52件、2003年:77件)
2004年5月時点で既に79件の申請

2.難民不認定処分取消訴訟の増加と行政敗訴
・近時、難民不認定処分の取消しを求める行政訴訟が多数提起
・裁判所が法務大臣による難民不認定処分を取り消す判決が出始めた
 (2004年4月の名古屋地裁判決、東京地裁判決)

3.2.難民認定に係る裁判所判断の問題意識

a. トルコ政府の人権保障改善努力の評価
 裁判所は「トルコ政府による人権保障改善の努力が十分ではない」と評価証拠の信用性への疑問

b. 申請者提出の証拠(逮捕状等)の真偽について、当局による調査結果の信用性を疑問視
 例:「調査内容の詳細が判明しないうえ、調査結果の妥当性を検証することができない」

3.3.調査目的

1.トルコ政府の人権保障改善状況の実地調査
 最近の人権保障改善状況を直接確認

2.公文書の真偽確認
 ・トルコ政府関係機関に対して直接的な公文書の真偽確認
 ・確認過程も含めた証拠化

3.申請者の出身地域の実態調査
 ・特定の集落に集中している申請者の出身地を視察
 ・PKK活動地域から離れた農村部という特徴の確認
 ・生活実態の把握

4.出稼ぎ目的での来日という仮説の検証
 ・難民認定申請取下げ者からの聴取で判明した出稼ぎ目的という情報の裏付け

3.4.調査結果の活用目的

・調査過程も含めて報告書として作成
・裁判所への証拠として提出
・事実に基づいた認定を求めるための材料として活用


4.トルコ政府の人権保障改善努力

報告書からは、特に2000年代に入ってから人権状況が大きく改善され、制度面での整備も進んでいることが確認できます。
ただし、これらの改善は主に政治的・社会的な権利に関するもので、経済的な課題は依然として残されていることも明らかになっています。

4.1.調査対象者

1.政府関係者
・各県知事/副知事
・警察本部長/副本部長
・検事/検事正
・裁判官
・ジャンダルマ(国家憲兵)署長・職員
2.住民
・村人(特にクルド人居住地域)
・クルド人運転手(アンカラ大学卒のインテリ層)

4.2.確認された主な事実

4.2.1.治安機関と住民の関係改善

具体的エピソード:
・ヒュルリエット村の住民が、ジャンダルマ(国家憲兵)署長の前で批判的 な発言をしても問題なし
・クルド人運転手の証言:「10年前なら村人の発言の10分の1でも直ちに連行され、頭に銃を突きつけられていた」
・村人たちがジャンダルマの前でクルド語を使用しても制止されない
・ジャンダルマと村人が友好的に接している様子が観察される

4.2.2.取調べにおける人権保護制度の確立
・被疑者逮捕時と検察送致時の2回、独立した医師による診断が義務付け
・取調室への監視カメラ設置が義務化
・警察は検察送致後の取調べを一切行わない制度

4.2.3.時期による変化
クルド人運転手の証言:
・1994年頃が最も状況が悪かった
・その後毎年改善
・2002年8月の民主化パッケージ採択が大きな転換点
 死刑廃止
 クルド語による教育・放送の許可
 軍と国家機関への合法的批判の許可

4.2.4.地域による差異
 南東部(PKKとの戦闘地域)と調査対象地域では状況が異なる
 ガジアンテップ県等の調査対象地域は比較的安定していた地域

4.2.5.アレヴィー派※への対応

・過去には差別があったものの改善
・公職就任も可能(例:アンカラ県チャカヤック市長)
・警察はむしろ好意的(アタチュルク支持という共通点)

4.2.6.EU加盟プロセスの影響

・国際社会による監視下にあり、人権侵害が起きにくい状況
・各種人権条約への加入
・欧州人権裁判所への提訴権も認められている

4.3.現在の課題

・経済的な問題(貧困、失業)が主要な社会問題として残存
・テロ対策と人権保護のバランス
・地域による経済格差

※アレヴィー派
・アレヴィーは、アナトリアを発祥地としてイスラームから派生した宗派で、クルド人とトルコ人双方の有力な宗教的少数派となっている。
・アレビーという名称はアリー崇敬に由来し、スンナ派・シーア派イスラームとは異なる独特の教義・実践を持つために、スンナ派・シーア派イスラーム教徒(ムスリム)から異端視されてきた。
参考:


5.公文書の真偽確認

この調査により、難民申請に使用された公文書の偽造が組織的に行われていた実態が明らかになり、かつ調査団が持参した文書がすべて偽造であることが確認されました。また、偽造を防止するための新しい統一書式の導入など、トルコ政府の対策も確認されました。

これらの調査結果は、日本の裁判所で問題とされていた「調査結果の信用性」について、具体的な確認過程と共に示すことができる重要な証拠となったと考えられます。

5.1.調査対象者

5.1.1.法務省関係
 法務省国際法規・国際関係局長(裁判官資格保持者)

5.1.2.各県の司法機関
 カフラマンマラシュ県裁判所検察局 検事正
 アドゥヤマン県裁判所検察局 検事正代行
 アドゥヤマン県重刑裁判所 裁判長
 ギョルバシ郡裁判所検察局 検事

5.2.確認された主な事実

5.2.1.文書偽造事件の実態
複数の組織的な偽造事件が確認された

 カフラマンマラシュ県の事例:
 ・裁判所の現職職員が関与
 ・職員は法廷書類運搬等の事務官で、公文書作成権限なし
 ・第一審で1年1月の自由刑判決
 
 アドゥヤマン県の事例:
 a) 2002年発覚事件
  ギョルバシ郡裁判所事務官による事件
  公印のみ押された白紙逮捕状用紙を横流し
  1億5千万リラ(約1万円)で売却
  判事のサインは偽造
 b) 裁判所運転手による事件
  白紙逮捕状用紙を盗出し
  組織的な偽造グループへの売却
  グループ内で役割分担(用紙準備、タイプ打ち、サイン偽造)

5.2.2.個別文書の真偽確認結果

調査団が持参した文書はすべて偽造と判明
 偽造を示す特徴:
  存在しない法律用語の使用
  あり得ない大きな事件番号
  書式の誤り(例:裁判所名の不完全な記載)
  2002年以降の統一書式との不一致

5.3.偽造の背景

検事らの証言から判明した状況:
・海外での難民認定取得が目的
・証拠が海外にあるため立件困難
・国外犯の訴追が実質的に不可能
・需要が多いため偽造が後を絶たない

5.4.欧州との比較

法務省局長の証言:
・欧州各国は氏名を明らかにして事実確認
・ドイツ等はマスキングなしで真偽確認
・トルコは難民申請を理由とした処罰はしない方針

5.5.公文書確認のための適切な方法

法務省局長の指摘:
・作成者とされる裁判官/検察官の所属庁での確認が必要
・マスキングなしの文書提示が必要
・100%の確実な確認には、実際の発付記録の確認が必要


6.申請者の出身地域の実態調査

調査により、難民申請者の出身地域は:
1.PKK活動地域から離れた比較的平和な地域である
2.住民の日本渡航は明確な経済的動機に基づく
3.政治的迫害の証拠は見られない
4.むしろ出稼ぎの成功例が他の住民の渡航を促している
5.経済的な課題(インフラ整備、就労機会)は依然として存在
これらの findings は、多くの難民申請が実際には経済的な理由に基づく出稼ぎである可能性を強く示唆しています。

6.1.調査対象地域と対象者

6.1.1.主な調査地域
・ガジアンテップ県テキルスィン村(チャムルル地区)
・カフラマンマラシュ県ヒュルリエット村
・マラティア県ジュマル・ギュルセル地区

図:トルコ地図 by Google Map

6.1.2.対象者
各村の住民(日本からの帰国者含む)
村の古くからの住民
地域の警察・ジャンダルマ
地方行政官

6.2.確認された主な事実

6.2.1.村の状況と移動の実態
テキルスィン村の例:
・日本語を話す住民が多数存在
・日本からの送金で建てられた立派な家屋の存在
・元村長の息子も日本からの帰国者

地域間の繋がり:
・ヒュルリエット村とテキルスィン村は元々同じ集団
・1930年代にアドゥヤマン県から分かれて移住
・現在も親戚関係を維持

6.2.2.日本への渡航目的
住民の直接的な証言:
・「好きも嫌いもない。お金稼ぐだけ」(テキルスィン村住民)
・「1万6千ドルも借金して行った」(ヒュルリエット村住民)
・「日本で働かせてください。私、悪いこと何もしない」
・「電気ない。道もない。何もない。どうしますか」

6.2.3.PKKとの関係
・調査地域はPKK活動地域から離れている
・ガジアンテップは「裕福な県であり、テロ活動も活発ではなかった」
・警察は「日本でPKK関連のテロが起こる可能性はない」と認識

6.2.4.経済状況の実態
・地域による経済格差の存在
・日本からの送金による生活水準の向上
・インフラ整備の遅れ(電気、道路等)
・就労機会の少なさ

6.1.5.治安状況
・警察・ジャンダルマ(国家憲兵)と住民の関係は良好
・住民は治安機関の前で自由に発言
・クルド語使用への制限なし

6.2.主要な発見

6.2.1.出稼ぎの連鎖
・一人が成功すると他の村人も続く傾向
・「トルコの村全体がそっくり移り住んだ」例(ベルギーの例)
・特定の集落からの移動が集中する理由が判明

6.2.2.経済的動機の明確さ
・政治的迫害ではなく、経済的理由が主
・日本からの送金による生活水準向上が可視化
・住民自身が経済目的を率直に認める

6.2.3.PKK活動との乖離
・調査地域はPKK活動地域から地理的に離れている
・テロ活動との関連性は確認されず


7.出稼ぎ目的での来日という仮説の検証

この調査結果は、多くの難民認定申請が実際には経済的動機に基づく出稼ぎであるという仮説を強く支持するもの。ただし、これらの人々の背景には深刻な経済的課題が存在することも同時に明らかになりました。

7.1.調査対象者

7.1.1.現地当局者
各県の知事/副知事
・警察本部長/副本部長
・検察官/裁判官

7.2.2.帰国者・関係者
日本から帰国した元難民申請者
・日本滞在経験者の家族
・地域住民

7.2.確認された具体的事実

7.1.1.現地当局者の認識
ガジアンテップ県副知事:
・「村人間の結び付きが強いので、一人が日本に行けば他の者も一斉に日本に行く」
・ヨーロッパでも「トルコの村全体がそっくり移り住んだ」例あり

カフラマンマラシュ県検事正:
・「外国に出稼ぎに行きたいものが多く、そのために難民制度を利用しようと考える者も多い」
・意図的に当局を挑発して逮捕状を取得する手口も存在

7.1.2.帰国者の証言
テキルスィン村の帰国者:
・「好きも嫌いもない。お金稼ぐだけ」
・日本からの送金で立派な家を建設

ヒュルリエット村の帰国者:
・「1万6千ドルも借金して行った」
・「難民と言った。でもだめだった」
・「危なくない」(トルコに帰国後の危険性について)

7.1.3.経済的動機を示す状況証拠
日本からの送金による家屋改築の実態
・特定地域からの集中的な渡航
・帰国者の安全な生活実態
・警察との良好な関係

7.1.4.手口の組織化
ブローカーの存在(斡旋料約5,000ドル)
・偽造文書の組織的な作成・流通
・難民認定を得るための手段の確立
・地域ぐるみでの情報共有

7.1.5.背景となる経済状況
マラティア県知事の証言:
・市人口38万人中、6万人が最低賃金以下の収入
・最低賃金は月額約2万円
・深刻な経済格差の存在

7.2.結論

7.2.1.経済的動機の明確性
当事者自身が経済目的を認めている
・政治的迫害の証拠は見られない
・送金による生活水準向上が確認できる

7.2.2.組織的な仕組みの存在
村単位での連鎖的な渡航
・ブローカーを介した渡航手続き
・偽造文書の組織的な製造・流通

7.2.3.背景要因
深刻な経済格差
・就労機会の不足
・インフラ整備の遅れ
・海外出稼ぎの成功例の影響

7.2.4.政治的迫害との関係
調査地域では政治的迫害の証拠なし
・帰国者の安全な生活が確認できる
・警察・住民関係は良好


報告書のキーワード解説

【偽装難民問題関連】

PKK:クルド人武装組織。テロ活動を行う組織として言及され、90年代には3万人が死亡したとされる。
逮捕状偽造:複数の裁判所職員が関与した偽造公文書事件。難民申請のために使用される偽造逮捕状の作成・売買が行われていた。
出稼ぎ目的:多くの「難民」申請者の真の渡航目的。経済的な理由で来日し、在留を許可される手段として難民認定制度を利用。
ブローカー:出稼ぎ斡旋を行う仲介者。約5,000ドルの手数料を取り、その資金がテロ組織に流れている可能性がある。
クルド人:トルコに居住する少数民族。過去には迫害を受けていたとされるが、調査時点では状況が改善されているとの証言あり。
アレヴィー派:イスラム教の一派。過去には差別を受けていたが、アタチュルクを支持し、調査時点では公職就任も可能。
民主化パッケージ:2002年8月に採択された改革パッケージ。クルド語教育・放送の許可など、人権問題の改善に貢献。

【人物・肩書】

アタチュルク:トルコ建国の父。宗教に価値を置かない世俗的な国家建設を目指した。

【地名・地域】

 ガジアンテップ県:調査対象地域の一つ。比較的裕福な県とされ、テロ活動も活発ではなかった。
カフラマンマラシュ県:調査対象地域の一つ。
アドゥヤマン県:調査対象地域の一つ。
マラティア県:調査対象地域の一つ。県都の人口約38万人。
テキルスィン村:調査対象の村。日本への出稼ぎ者が多い。
ヒュルリエット村:調査対象の村。出稼ぎ目的の渡航者が多い。
南東部:PKKとの戦闘が激しかった地域。調査対象地域は含まれない。
ジュマル・ギュルセル地区:マラティア市内の地区。下町地区とされる。

【制度・組織関連】

 難民認定制度:1982年に発足。トルコ国籍者からの申請が最多。
ジャンダルマ:内務省下の治安機関。警察と共に警察機能を担う
国家治安裁判所:テロ関連事件などを扱う裁判所。
検察局:捜査指揮を行う機関。警察・ジャンダルマは検察の指揮下で捜査を行う。

【その他重要概念】

 公文書真偽確認:難民申請時に提出される逮捕状等の真偽を確認する作業。
最低賃金:月額3億1千万リラ(約2万円)。マラティア市では6人に1人が最低賃金以下の収入。
監視カメラ:取調室に設置が義務付けられ、拷問防止に活用。
被疑者リスト:容疑者情報を管理するリスト。旅券発給時に照会される。
EU加盟プロセス:トルコの人権状況改善の背景の一つ。
欧州人権裁判所:トルコ国民からの提訴を受け付ける機関。
有罪率:全刑事犯で約52%。検察の人員不足が低率の原因とされる。
恩赦法:2000年に成立した法律第4616号。非合法組織支援罪などの被告人釈放等に影響。



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