3歳になる。

明日で3歳になる息子と2歳最後のお風呂に入った。すると息子は生まれてはじめて「おしっこ」と自分の口で告げてから湯船に放尿した。おかげさまで息子の成長に全身でひたることができた。

お風呂のあとは2歳最後の寝かしつけへ。「ママだっこちたい」と妻とばかり抱きあいつづける息子に「パパもいるよ」とアピールしてみる。すると息子は「きょうはあめ」となぜか天気の話を唐突にはじめる。話題のそらしかたが2歳児、いや3歳児とは思えない。

誕生日当日の朝は家族三人でケーキを食べることに。ロウソクをこれまた生まれてはじめて自分の口で吹きけした息子に「3歳の抱負は?」とダメ元で聞いてみる。すると息子は「とうもろこしがいい」と即答する。よし。わかった。よくわからないけれど全力で応援しよう。

息子が「とうもろこしになるぞ」と力強く宣言した直後、今度は妻が不意に立ちあがり、なぜか「ハート! ハート!」と両手でハートマークをつくるダンスを踊りながら「わたしたちもパパやママとして3歳になったんだね」と笑いながら涙を流しはじめる。なかなかのカオスである。

夜は最寄駅近くのイタリアンのお店へ。三人家族のためにわざわざ八人掛けテーブルを確保してくれていた。しばらくすると息子の誕生日プレートがお皿に添えられた花火とともにパチパチと運ばれてくる。

そこには息子の名前だけではなく妻の名前も書かれている。じつは「息子だけではなくママとしても3歳になる」とのことで事前にお願いしておいたのだ。店員さんは「おめでとうございます!」と息子だけではなく妻の名前も告げてくれる。

ただ、なにやら妻の様子がおかしい。ものすごく喜んでくれてはいるものの、どこか芝居じみているような。気のせいだろうか。今朝にわたしたちも3歳になったのだと号泣していたとは思えない複雑な表情が垣間見える。

前のめりに協力してくれていた店員さんも不穏な空気を察知したのか忍者のように後ずさりして消える。すると妻が「じつはね。知ってたの」と申し訳なさそうに笑う。なんとバレバレだったらしい。

今回の件をお店にお願いしたのは数日前の夜のこと。「ちょっとコンビニ行ってくる」と外へ出たときに電話をかけたのだけれど、妻はそのときになにかしら仕込もうとしていることに気づいてしまったらしい。というのも「なに買ってくるの?」とわたしへ聞いたら「まだ決めてない」と目を泳がせたまま家をそそくさと飛びだしたそうだ。たしかに。我ながら不自然すぎる。

誕生日プレートの花火が消え、煙がチーーーンと細くのびる。すると息子が三本指を立てて「ワン歳」と誇らしげに告げる。「え、なに。何歳になったの?」とわたしが聞きかえすと、息子は「サプライズを見事に失敗しておいて何度も言わせるな」とでもいうように「ワン歳」としぶしぶくりかえす。

妻もわたしも3歳ではなくワン歳を迎えたらしい息子のコロコロとした姿になんだか力が抜けて笑ってしまう。そして、三人で仕切り直しの乾杯をする。なにはともあれ、ハッピーバースデー。きみが立派なとうもろこしになる日を心から願っているよ。ママもパパも。おめでとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?