2歳語辞典
3歳になった息子へ
おめでとう。とてもうれしい。そして、とてもさみしい。いつか忘れてしまわないように。2歳のきみがよく使っていた不思議な言葉たちをここにまとめておく。
父より
01. 「ぞおーう」
きみはゾウの鳴き真似をするときに「ぱおーん!」ではなく「ぞおーう!」と叫んだ。すこし自己顕示欲が強すぎるゾウなのかもしれない。
02. 「ごみだこ」
きみはゴミ箱を「ごみだこ」と呼んだ。そのたびにゴミ箱が部屋のすみっこで「タコじゃないんですけど」と口をタコのようにとがらせて抗議しているような気がしておかしかった。
03. 「ちばう」
きみは遊んでいるときに父が自分の思いどおりに動かないと「ちばう(ちがう)! じぇんじぇんちばう(ぜんぜんちがう)!」と激しく怒った。その言葉自体がすこしちばうことには気づかずに。
04. 「あまも」
きみは「たまご」を「あまも」と呼んだ。たまご型のものならなんでも「あまも」と指をさし、たまに「あーまーもー」などと伸ばすこともあった。
ある日の明け方に「あまーもー! あまーもー!」と寝言で2回ほど叫んだこともある。朝の訪れを告げるニワトリのように。ほんとうに卵を産んだのかと思った。
05. 「ぶぶー」
きみはクイズで答えをまちがえたときに鳴る「ブブー」の音が大好きで「ぶぶー」とマネをしては嬉しそうに笑っていた。まるで正解したかのように。
06. 「にゃにゃーい」
イヤイヤ期の真っ最中だったきみはイヤなことがあるたびに「にゃにゃーい!」と抵抗した。もはや、ニャンニャン期だった。でも、そんなふうに笑えばきみはもっと怒るだろうから笑いをこらえるのに必死だった。
07. 「なーにょー」
きみは「ガタンゴトーン」ではなく「なーにょーなーにょー」とおもちゃの電車を走らせて遊んだ。お経でも読みあげているかのように。
08. 「ア・タクシー」「ア・バイク」
きみはタクシーやバイクが通るたびに「ア・タクシー」「ア・バイク」と呼ぶようになった。どうやら「あ、タクシー」「あ、バイク」と指をさして息子に教える父や母の言葉をそのまま覚えてしまったらしい。最初に聞いたときはいったいどこで英語なんて学んだのだろうと驚いてしまった。
09. 「マパ」
きみはママとパパを「マパ」と同時に呼ぶようになった。2歳児にして効率化の鬼である。
10. 「でんちゃ」
でん「しゃ」だよ。そう何度も教えたけれど、きみは最後まで「でんちゃ!」と絶対に譲らなかった。その頑固さが誇らしかった。
11. 「てんとうあじ」
きみはてんとう虫を見かけるたびに「てんとうあじ」と近づいていった。そのまま食べてしまうのではないかと心配だった。
12. 「ドリーム」
きみは大好きなおもちゃを落としたときになぜか「ドリーム!」と叫んだ。きみの人生にはいつも夢があふれている。
13. 「あちょぷ?」「ていたいしゅる?」
きみは父が仕事部屋で作業をしていると「なにサボってるんだ!」と言わんばかりに「あちょぷ(あそぶ)?」と誘ってきた。ひとたび遊べば「ていたいしゅる(もう一回する)?」と何度も求めつづけ、仕事部屋に帰そうとしなかった。きみのおかげで働くことよりも遊ぶことの大切さに気づいた。
14. 「れろれろれろ」
きみはうまく話せない言葉があると「れろれろれろ」で堂々とごまかした。ある日、電車のおもちゃを指さして「これはなに?」と聞かれたので「サンライズ瀬戸・出雲」と答えたときも、きみは「れろれろれろ」とくりかえした。得意げに胸を張って。
15. 「あなない」
きみは人一倍、危機管理意識が高かった。たとえば、公園の遊具のでっぱりでつまずいて危うく転びそうになったとき。きみはそれからずっとその場所に立ち、他の子たちが通るたびに「あなない(あぶない)!」とでっぱりを指さして警告しつづけた。まるで世界に重大な危機でも訪れたかのように。きみが転んだだけで世界は滅びたりしないからどうか安心してほしい。
16. 「あった」
きみはなんでもかんでも「あった!」と指をさすようになった。まるでなんでもかんでも大発見であるかのように。なんでもない日常をとてもドラマチックなものに変えてくれた。
17. 「ん」
きみは語尾に「ん」をつけるのがブームらしかった。たとえば「パジャマ」のことは「パジャマん」と呼び、「あっちいこー」と言うときは「あっちいこーん」と指をさし、「やめて!」と怒るときは「やめてーん!」と叫んだ。このままブームがいつまでも終わらなければいいのに。
18. 「めめめ、めめめ、あーやーゆ」
きみは一曲だけ歌をつくった。「めめめ、めめめ、あーやーゆ、いよいよー、あったってー」と横に揺れながら嬉しそうに何度も歌うのだ。そのリリックとメロディーラインはこれからもずっと父の頭のなかのヒットチャートで首位を独走しつづけ、異例のメガヒットを記録するだろう。
19. 「あだっち」
きみが2歳のときにいちばんよく使った言葉だと思う。そして、いちばん印象に残っている言葉かもしれない。この言葉は「むらさき」「ばいきんまん」「サンドイッチ」「そうじき」「ままだいすき」「ぽてち」「ひこうき」といった多くの意味で使われる(当父母調べ)。きみがいつかこの言葉を使わなくなる日が来るなんて信じられない。
20. 「あてあてー」
きみは「あてあてー(まてまてー)」と父や母を追いかけた。とても嬉しそうに笑いながら。
いつまできみに追いかけてもらえるのだろうか。きっと、そう遠くはないうちに追いぬかれてしまうのだろう。そしたら「あてあてー」と父がきみを追いかけようと思う。いつまでも。ずっと。
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