共に時を重ねる革ジャンと私
ボク、革ジャンがええねん。
革ジャンで行くわ。
成人式を数ヶ月後に控えた秋、スーツでも探しておいでよという母に私はそう伝えました。大阪南船場の洋服屋で一目惚れした革ジャンに、私が手が届くとしたらこのタイミングしかない、と心に決めていたからです。
かのスティーブ•マックイーンが映画「大脱走」でキャッチボールの時に羽織ってた革ジャン。あれはTYPE A-2というフライトジャケットで、その原型となったTYPE A-1。ホースハイドでボタン開き。学生のバイト代だと二ヶ月分に相当する値段で、巡ってくる成人式を千載一遇のチャンスとばかりに幾分かの援助をもらって私は念願の革ジャンを入手したのでした。
当時はビンテージデニム最盛期。デニムでいうと購入してからわざわざコインランドリーで洗ってわざわざ強めの乾燥機にかけてしっかりと生地を縮ませてから、わざわざ店にまた行って裾を合わせてもらい、わざわざチェーンステッチで裾を上げてもらって数日後に受け取ってから履く、というのが当たり前な時代でした。
その革ジャンの購入時「一度洗濯機で洗うと裏地がいい感じでヨレる。そして陰干しね。天日はダメ。で、ボタンは糸が切れちゃうから、はい、これ」と、ロウビキの糸と革用の太い縫い針を店長さんからもらったのでした。そして買ったばかりの革ジャンを泣く泣く洗濯機に突っ込んで洗い、数日陰干しをし、ボタンを留めてる綿の糸をわざわざハサミで全部切って、硬い硬いロウビキ糸で、全てのボタンを留め直し、「ホースハイドには馬油ね、薬局に売ってるよ」ってことで、わざわざ馬油を探してきてしっかりと丁寧に丁寧に擦り込んだのでした。
今後生涯の秋から春までをこれで過ごすつもりで実際にそう過ごすこと数年が経ち、人生のステージもいくつか変わり、いよいよ歳も革ジャンが似合う頃合いに追いついてきたな、と思った矢先、パートナーからの“ダサいんだけど”の一言で、あ、そう?とアッサリとお蔵入りをしたのでした。あくまであっさりと。
とはいえそれはそれ。更に数年、購入からかれこれ四半世紀が経つ今、コッソリと馬油をすり込み続けている革ジャンはそのコンディションを良好に保ちつつ、隠れるように、思い出したかのように、時折、外の空気に触れるのでした。
思い入れが過ぎる分、四半世紀を経てなお、うんうん、まだまだこれからだな、と、数え切れない“わざわざ”を積み重ねた革ジャンに袖を通す度、少し老いた私はそんな気持ちになるのでした。
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ネオ五条楽園と雷神堂さんとのコラボ企画
“わざわざお便り”に送ったものです。
国内外の旅行にも付き合ってもらい、多くの時間を共にしている革ジャンは様々な世のトレンドとはいい意味で無関係に今なおここにあります。