〈認知言語学ノート#06〉品詞と意味

※本稿は、池上嘉彦『意味の世界~現代言語学から視る』(NHKブックス、1978年)の内容から、個人的なノートとして引用・要約したものです。

品詞はどのようにきまるのか?


 語を「品詞」に分類する際の基準としては、次の3つが考えられる。

①形態論的な基準・・・その語がどのような語形変化をするかという観点
例)英語において、時制による変化をするのは動詞、比較による変化をするのは形容詞。

②統語論的な基準・・・その語が文中でどのような文法的地位を占め、働きをしているかという観点
例)日本語において、「○○ガ(ヲ)」のように「ガ(ヲ)」を後に伴って現れうるものは名詞。英語において、「〈名詞〉〈be動詞〉○○」や「○○〈名詞〉」のような型で表されるのが形容詞。

③意味論的な基準・・・その語がどのような意味的な特徴を有しているかという観点
例)〈もの〉を表す語は名詞、〈行為〉を表す語は動詞、〈属性〉を表す語は形容詞。

認知言語学の視点

 以上の3つの基準のうち、最初の2つはその語の形や位置などの具体的な特徴をもとにしての分類(表層的な分類)であるのに対し、最後の1つはどのような意味を持つかというような抽象的な特徴(深層的な分類)に基づいての分類である。

 しかし、前者と後者では一対一の対応が見られない不都合が生じることがある。例えば「美しさ」という語は、後者の規定の仕方では〈属性〉を表しているが、前者の規定の仕方では形容詞でなく名詞である。

 前者の表層的な特徴による分類と後者の深層的な特徴による分類が、異なるレベルの分類であるといえることを認めた上で、その間の対応関係を調べてみると、言葉の持つ重要な働きの一面が明らかになってくるのではないだろうか?

形容詞としての「美しい」と名詞としての「美しさ」の違いは?

 深層的な分類からすると、どちらも〈属性〉を表す語である。そこで、表層的な分類による捉え方との違いからどのようなことがわかるだろうか。

・「美しい」と言えば、「美」ということが誰か、あるいは何かに帰せられるべき属性として捉えられている感じである。そもそも、〈属性〉とは本来何か特定の〈もの〉についての〈属性〉であり、それなしには成り立たないと考えることができる。反対に、〈もの〉は特定の〈属性〉に依存する度合いは低いので、自立性が強い。

・「美しさ」と言うと、「美」というものがそれ自体存在しているかのような印象を受ける。実際、このような感じは、そこで表されている〈属性〉が〈もの〉的に捉えられていると考えることができる。その結果、「美」という〈属性〉が自立したもののして捉えられる。

例えば、次のように考えられる。
①「彼女は美しい」
②「彼女の美しさはすばらしい」

 ①では、彼女の美しさがそこで初めて言及されているという感じなのに対して、②はその〈属性〉が自立している、つまり「彼女が美しい」ということは前提として受けられていて、その上でその度合いを述べている感じがする。

⇒「美しい」と「美しさ」は、その提示の仕方の変化によって、その受け取られ方も変わってくる。

 このように、名詞は指されているもの自体が〈もの〉でなくても、それを〈もの〉化して提示する働きも有しているといえる。「名詞化」と呼ばれるこの働きは「実体化」とも呼ばれ、抽象概念が言語的な操作によってあたかも一つの実体であるかのように感じる、言語の持つ重要な働き(言語知識)の1つである。

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