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じゅげむ


じゅげむじゅげむごこうのすりきれ・・・

『5分で落語の読み聞かせ』

 最も有名な落語といえば、「まんじゅうこわい」と双璧をなすのが「じゅげむ」です。おしょうさんにめでたい名前をつけてもらったのはいいが、あまりに長い名前で呼ぶだけでたいそう時間がかかる。それがために起きるドタバタを笑う滑稽話です。こども落語教室で、私がいちばん頼りにしているテキストは、小佐田定雄さんの『5分で落語の読み聞かせ』(PHP)ですが、これには続編が二冊あります。小佐田さんは、それぞれの巻頭に「じゅげむ」とその改作を載せています。一巻では「じゅげむじゅげむ…」と名を呼ぶ間にたんこぶがひっこむ原型を載せるも、続編では小佐田流アレンジが冴え渡ります。テストで名前を書いていると時間切れになる、選挙カーで名前を連呼していたら落選する、ボクシング選手になったらリングアナウンサーが名前を呼ぶ間に相手が怒りだしてしまう、など。「じゅげむ」の職業や立場を替えるだけでおもしろいエピソードが生まれます。

落語入門

 子どもたちにとってこれほど語りやすい演目は他にありません。なぜなら「じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ、かいじゃりすいぎょの…」と名前を覚えてしまえば、話の大半を覚えたことになります。あとはお母さんが朝起こすとか、友達とけんかするとか場面を変えて繰り返します。高尾小学校では、代々中学年が十八番にしてお客様に披露しています。

 前座話としてあまりに有名過ぎるためか、実際の寄席や高座でこの「寿限無」を聞いたのはたった一度しかありません。前座であってもプロとアマでは歴然とした違いがあるものですが、残念ながら、あまりおもしろく思えませんでした。高尾小の子どもたちの方がよっぽどおもしろいと思いました。話の巧拙ではありません。落語は、子どもが主役の話が意外と少なく、「じゅげむ」はその意味では貴重な話です。子どもを演じるには、やっぱり子どもがいちばんしっくりきます。「じゅげむじゅげむ…」とたどたどしくも一生懸命語っている姿は、ほほえましさがベースにあるためか、笑いを誘引しやすいようです。それに、小さな子どもの声でリズミカルな「じゅげむ」を聞く、それだけでも気分が高揚するのかもしれません。いつでもどこでもよく受けます。

アレンジじゅげむ

 今年、三遊亭白鳥さんの「寿限無」を聞く機会がありました。白鳥さんは、創作落語の名手として人気があり、ちょっとぶっ飛んだ笑いを作らせたらピカイチです。彼が正統「寿限無」をするはずなく、案の定「スーパー寿限無」というタイトルで話を始めました。めでたい名前をつけてもらうために相談に行った先は、白鳥師匠。「今の人類に最も必要なものは何だ。愛だろう。愛はフランス語でジュテーム。二つ重ねてジュテームジュテーム。」という調子。館内大爆笑でした。

 どんなアレンジにも応じて新しい笑いを作り出す、というよりアレンジをさせずにはおかない「じゅげむ」は実に懐の深い偉大な話であります。
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