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こども落語教室① 初稽古

体験教室

 松江算数活塾落語教室の開設初稽古は、2023年9月のことである。いっしょに学習塾をやらないかと話を持ちかけられたのは2022年の秋だった。それ以後、熟考など一度もしないままずるずると講師となり今日に至る。算数教室には需要がそれなりにあるだろうが、落語教室なんぞに人が来るのか半信半疑だった。いや、正確には八割が疑だ。算数担当の塾長は、生徒が集まらなくても3年はしがみつく、と言っているので、まあそれまでいっしょに待ってみて、ダメならあきらめようと思っていた。3年待つどころか、3月待たずして教室生が入ったのには驚いた。小学一年生の女の子である。体験教室の折には、体をくねらせて母親にまとわりつき、「私は恥ずかしいのだ」と全身で表していたのだが、興味はひいたようだった。入るとも入らないとも言わぬままだったが、家に帰ってから「落語がやりたい」と言ってきた、と後にお母さんから聞いた。

初稽古

 初稽古は、ぼくも緊張した。ぼく自身に稽古を受けた経験がなく、落語界が営々と培ってきた方法や技術とはまったく無縁で、あるのは以前勤めていた奥出雲町立高尾小学校での試行錯誤の経験だけだ。先行事例も皆無だから指針となるのは己の勘のみ。強みはだれのせいにもできないかわりに失うものは何もないということぐらいだ。

 学校だと子どもの様子がわかったうえで稽古するので、プランを立てやすいのだが、一度会ったきりの子どもに稽古を付けるのはぼくも初めてで、どうにも無駄に力が入ってしまう。やっかいなのは、どこが無駄かよく分からないことだ。子どもがやってくる直前までああしようかこうしようかと迷ったすえ、「じゅげむ」と小咄の二つに絞り込んで提示することにした。6畳の間に座布団を二つ置いて稽古場はできあがり。この簡素さが落語の真骨頂だ。

 母親に付き添われて落語教室生第1号はやってきた。母親はそのまま帰っていったが、不安な表情を浮かべるでもなく、座布団にちょこんと座っている。それなりに覚悟をしてきたらしい。最初から「じゅげむ」は荷が重かろうと小咄のテキストを渡して、読んで聞かせた。子どもの表情が曇り始める。「ん、気に入らなかったか」、と思ったら、

「長い。」

と言って、身をくねらせた。これが長かったら、あとは「隣の家に囲いができたってねえ」「へい」しかないぞ、と思ったが、嫌気が差したらいけないので急遽より短い話に替えた。それでも長かったようで、さっきよりはいくらか小ぶりに身をくねらせた。こうして初日はどうにか終了。しくじったか、と心の隅に澱が残った。が、後日母親から聞いた。あちこちで披露して大受けしたそうだ。

活塾亭ふらめん子

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