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はづきさんの語尾inにちかS.T.E.P.
先日にちかS.T.E.P.が追加された。にちか中心のストーリーだが、姉であるはづきさんの出番が多いのも特徴である。そこで、本記事ではにちかS.T.E.P.におけるはづきさんに着目してみたい。
なお、はづきさんが用いている語尾の比較のためジムシャニについて触れているが、展開のネタバレが含まれるため未読の方はご注意いただきたい。
姉は強し:ソクラテスもびっくり
にちかの過去エピソードということは当然はづきさんとの衝突シーンもあるわけだが、はづきさんの姉妹関係における強さがガッツリ描かれている。
察する姉
にちかが姉であるはづきさんに、アイドルになりたいことを伝えるシーン。
にちかが自分を出迎えたり、夕飯をよそったりする際の上ずった様子に違和感を覚えるはづきさん。
全国のご家庭で、子供がおねだりをする直前などによく見られる光景だろう。露骨にニコニコしたり肩を揉もうとしたりするとこちらの魂胆が即バレし、そうでなくても大体バレるアレである。
はづきさんは姉だが、親としての役割も果たしているように見える。
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封殺する姉
にちかのアイドルになりたいという想いを現実ベースで否定していくはづきさん。
相手の要望を察する→先回りして質問形式で追い詰める→相手に自ら要望を否定させるという鬼畜コンボをキメる。質問を連発していく様はソクラテスもびっくりである。
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これはひどい。勝てるわけがない。
ここに来てはづきさんは、にちかの「アイドルになりたい」という非現実的かつ不確かな夢(にちかの素質の有無以前の、アイドルになること自体の話である。このコンテンツでこういった感想を持つのは我ながら良くないとは思うが)を潰しに来ている。
姉に反論できないにちかは、癇癪を起こして夕飯を食べず自室に戻るしか反抗する術を持たなかった。
姉は強し2:歌丸師匠もびっくり
回答潰しをする姉
ある日、にちかはどんなアイドルになりたいかをはづきさんに問われる。
何か言いかけるにちかの言葉を途中で遮り、「にちかは」の部分を強調して同じ質問を繰り返すはづきさん。
すると、にちかは質問に答えられなくなってしまう。
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笑点永世名誉司会者である桂歌丸師匠もびっくりの回答潰しである。
一度目の質問に対してにちかが言いかけていたのは「なみちゃんみたいなアイドルになりたい」だと思われる。
だからこそ(直接指定こそされていないが)なみちゃん封じを食らった二度目の質問には回答できなかったのだろう。
このやりとりでは「なみちゃん」という言葉は一切登場しない。姉妹ならではの、なかなかハイコンテクストなやりとりである。
正論を言う姉
続けて「新しい靴を買うよりも、どんなアイドルになりたいか考える方が先ではないか」と説くはづきさん。にちかが靴を新調していたのは当然把握していたようだ。
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至極まっとうな指摘である。まっとうなのだが、にちか目線で見ると少々辛い指摘でもある。
子供時代にこのような指摘を食らった記憶のある方もいるのではないだろうか。私自身、このようなことを言われると妙にイライラした記憶がある。
折角なので、イライラの理由を考えてみたい。おそらく理由は以下のようなものが挙げられるだろう。
反論の余地がないから
客観的には正しい指摘であるし、なんなら言われた側も相手の言うことが正論だと無意識のうちに認めており、論理的に言い返す余地がない。
相手の言うことを受け入れ謝罪や反省をするのが総合的にはベストだろうが、ついつい反抗的な反応をしてしまうというのはあるあるパターンだろう。
屁理屈で乗り切る、黙り込む、その場から逃げる、にちかが今回行ったように逆ギレ気味のリアクションで問答を終わらせる、など色々考えられるが、いずれもモヤモヤ、イライラとした気持ちは残る。ワクワクした気持ちに冷や水をぶっかけられた気持ちになるから
新しい靴を買うという行為は目に見えるし、分かりやすい一歩である。今回にちかは金銭的にヒヤヒヤもしていたが、買い物という行為にはワクワクもある。
だが今回、優先順位が間違っていると指摘されたことでワクワクした気持ちに冷や水をぶっかけられた気持ちになってしまう。過去の自分のウキウキっぷりが急に恥ずかしくなるから
他人に指摘されることで浮ついた気持ちを自覚してしまい、当時のウキウキっぷりが恥ずべき軽薄な様子に思え、それが丸ごと羞恥心に変わって襲い掛かってくる。
ウキウキが大きいほどに比例して羞恥心も大きくなり、ダメージが増える。
何はともあれ、にちかは逆ギレ気味のリアクションで会話を放棄してしまった(にちかの声色から察するに言い過ぎたという自覚はあると思われる。彼女はそのあたりに関して聡い)。
これは、先述した「大勢の中では誰も自分なんか見てくれない」という自己評価の低さも繋がっているのだろう。
当時の彼女自身が「アイドル七草にちか」に価値を感じていなかった以上、「にちかはどんなアイドルになりたいの?」という質問は通常以上に辛いものとなる(もちろん、今回の件ではづきさんに非はないが)。
姉は強し3:はづきさんの語尾
はづきさんの特徴と言えば、語尾に「~」をつけて伸ばすことだろう。可愛らしく、時に少々まどろっこしい。
おそらくこれは、ある種のペルソナだと思われる。柔らかい印象を与えるとともに、本音を隠して自分を守るバリアにもなる。
これを身に着けるに至るまでの、はづきさんの苦労が窺える。
かの有名な「私に能力ないみたいに言うのやめてもらいたいです~」などは、本音がペルソナを貫通して出て来てしまった例だろう。
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この語尾を見るにつけ思い出すのは、ジムシャニ9th page。
W.I.N.G.で敗れたにちかは事務所を抜け出してしまうが、それについて天井や美琴と話すはづきさんの語尾には変わらず「~」が付いている。普段と変わらない口調なのだが、状況が状況だけに痛々しさを感じる。
「きっと父もそうすると思うので~」という"無敵の殺し文句"を口にするコマなどは、無理して笑みを作っている表情も相まって違和感がすさまじい。うすら寒さすら感じる。だからこそ、それを殺し文句ごと粉砕する天井のセリフが映える。
一方、にちかを見つけ本音を語る時は一度たりとも語尾に「~」を付けていない。ペルソナを脱ぎ捨て心の底の部分を語っているということだろう。
にちかS.T.E.P.でも語尾を伸ばさない場面は何度か登場する。
それらはいずれも、にちかに対してアイドル活動に関する質問をしている。
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上の画像の場面では、語尾を伸ばさず(ボイスを聞くと少し伸ばしているが)真剣に語った後に「どうかな~」と冗談めかして言うところも見られる。
それまで精神的に余裕が無い声を出していたにちかだが、冗談めかしたような言葉が来た上に論点が一時的に「泣く・泣かない」にシフトしたことで、直前よりは僅かにリラックスしたようにも見える。
会話のペースをはづきさんが完全に握っており、にちかは釈迦に対する孫悟空のようだ。
終わりに
にちかの物語であるにちかS.T.E.P.だが、はづきさんの描写も多く見られた。
はづきさんが意識して厳しく接しているような場面もあり、姉であるとともに母親のような役割も演じようとしていると感じた。
一方、にちかは姉に対しては感情的になってしまうことが多く、この点ではまだまだ姉に敵わないと感じる。
にちかが心身ともにムキムキになったら、この力関係も変わるのだろうか。変わらない気もするし、変わらなくて良いとも思う。きょうだいとは、そういうものだと感じる。
何はともあれ、今後が楽しみである。
読んでいただき、ありがとうございました。
にちかS.T.E.P.全体の感想はこちら