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昭和ヲタクの偏り過ぎた音楽愛 映画音楽編②黄昏(On Golden Pond)

「小さな恋のメロディ」のトレイシー・ハイドへの初恋が行き先を見失って、いつの間にか映画音楽と洋楽へと向かったのは以前お話ししたとおりです。そこで、私の超個人的な思い入れに基づく、偏り過ぎた映画音楽遍歴を3回にわたって書いてみます。今回は「黄昏(On Golden Pond)」です。

前の記事では、誰もが知っている「E.T.」への偏愛を語りましたが、今回の作品は、少しニッチでご存じない方もおられるかもしれません。「黄昏」、1981年のアメリカ映画。日本では1982年4月に公開された作品です。

ヘンリー・フォンダとジェーン・フォンダという名優かつ実の親子が初めて(かつ最後の)共演を果たし、ヘンリー・フォンダの妻役は大女優キャサリン・ヘプバーン。さらにアカデミー賞で主演男優・女優賞など3部門を受賞という素晴らしい作品ですが、日本ではそれほど話題になっていなかった気がします。

私は当時、高校3年生。とあるきっかけで(以下の記事)、ロードショー、スクリーンという映画雑誌にハマった私は、そこで知った「十二人の怒れる男」に出ていたヘンリー・フォンダのカッコ良さに惹かれ、そんな彼の恐らく最後の作品になる「黄昏」を、何とか見に行きたかったのです。

ところが私の田舎の映画館では、「黄昏」は上映されていませんでした。「美しい湖畔の別荘で暮らす老夫婦と家族の姿を、美しい映像と音楽で描いた作品」という娯楽からかけ離れた映画は、田舎では扱われなかったのです。遠い街まで、お金払って年寄りの映画を見に行く友達も、恐らくいなかったのでしょう。ジジイの私は一人でこの映画を見に行きました。

そこで見た映画は・・・、美しい。よく「絵画のような美しさ」という表現を耳にしますが、金色に輝く湖面、豊かな自然の描写、老夫婦と家族の心の移ろいが、それこそ美しい絵画を見ているかのような音楽にのせて描かれていたのです。

静かなピアノから始まる「Main Theme」、午後の湖面のまぶしさを奏でる「Lake-song」、よくあるBGMのように感情を掻き立てるのではなく、出しゃばらず、映像と混然一体となった音の美しさが、高3男子(ジジイ)の脳裏に強く焼き付きました。

ワクワクする映画、感動巨編、パニック超大作、社会派映画等々、映画少年だった当時は色んな映画を見てきましたが、「普通」を描いた映画を見たのはこれが初めてだったと思います。老夫婦を娘達が訪ねてくる。ただそれだけの映画の中で、未来ある高校生の自分とは対極にある老夫婦、特にヘンリー・フォンダの、老いに対する、家族に対する、何とも言えない感情に心を揺さぶられたのです。

もちろん当時の私が、人生の終焉を前にした老人の感情をどこまで理解できたのかわかりません。疑似的なノスタルジーに惑わされただけかもしれません。しかし一人で遠くの街まで見に行ったこの映画が、自分にかなりのインパクトを与えていたことは間違いないと思います。何せ、サントラ盤の美しいメロディを、40年以上たった今でも覚えているくらいですから。

まあ冷静に考えると、私自身はともかく周囲の友人にとっては、老夫婦の映画のサントラを聴きながらノスタルジーに浸る高校三年生(男子)という存在は、相当に気持ち悪いものだったろうと、今更ながら当時の友人には申し訳なかったと思います。

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