
悪評高い兵庫県・兵庫方式(9)
私が住んでいるのは、神戸市垂水区。JR舞子駅から徒歩5分という至近距離です。当時の舞子駅は、各駅停車しか止まりませんでした。快速電車が止まるようになったのは、淡路島と本州をつなぐ明石海峡大橋が完成してからです。
対する伸学社は、帝塚山。南海高野線の帝塚山駅から徒歩7~8分という位置です。
つまり、舞子駅を大阪方面に出発して大阪駅に到着するのが、ちょうど60分(須磨駅で、快速電車の待ち合わせがない場合に限ります)。大阪駅から御堂筋線で梅田駅→難波駅で徒歩を含めれば30分弱。難波駅で降りて南海電車の難波駅まで歩いて約10分。帝塚山駅は各駅停車で4駅の位置なので、所要時間8分。最後に伸学社まで歩いて7分程度。
要するに、伸学社まで約2時間かかってしまうということなんですね。これは乗り継ぎに時間がかからず、平均して2時間半かかるのが当たり前でした。
中学校が終わるのが3時半くらいなので、そこから家に飛んで帰り、カバンを交換して伸学社に至急行く――これで夕方の6時にぎりぎり間に合うわけです。授業を2本受けて終電までギリギリまで勉強する。それでも9時半には電車に乗らなくてはなりません。それで家に帰り着くのが午前1時30分。ここでようやく夕食にありつけるわけです。
今、考えても、「ちょっと無理!」というのが常識的な考えですよね。
伸学社は、年中無休でやっています。学校が終わったらすぐ塾にやってくるのが決まりです。そして、終電まで勉強に明け暮れるのです。聞いただけでもとてつもない勉強量です。
伸学社の入塾説明会に行くため、母親が帝塚山まで行って、説明を聞いたわけですが、あの疲労たるや相当なものだったろうと思います。伸学社は毎日やっていて、月謝が2万円というのは破格でしたが、これと定期代だけでウン万円というお金が毎月かかってしまうのですから、普通の経済状態ではちょっと無理――今の私は理解できましたが、こんなこと、想像だにできませんでした。
結局、伸学社に通うことは断念し、代わりに英学塾というところへ通わせてもらいました。英学塾は、通称、「楠戸(=くすど)」と呼ばれています。一学年は2クラスで定員30×2=60人。たったそれだけで、兵庫方式のトップ高校・長田高校へは40人が合格するという、一般の人にとって憧れの名門塾なのでありました。
私は地元・神戸で高校に入ろうというのですから、もちろん英学塾に入ることを考えます。灘高は定員60人と狭き門。難関中の難関校で、どんなに勉強して成績優秀でも絶対合格するとは言えない状態。兵庫方式と難関私立高の受験を天秤にかけたら、そりゃあ兵庫方式が確実に優先されるべきなのです。
幸い私は英学塾の塾テストをパスし、英学塾に通うことになりました。週2回で、20時~23時の3時間コースです。これもけっこうキツイと言えないこともないですが、週2回なんでまぁ我慢できるというレベルです。
かくして私は、新中学生活を、地元・舞子にて英学塾に通いながらスタートさせることになったのです。今日、英学塾はなくなっていて、残念なのですが、写真は元・英学塾のあったオフィスに建っている工事会社のものです。(続く)