雨柱を見た日
雨の季節がやってくると10年以上前に経験した不思議な出来事を思い出す。
それは梅雨の晴れ間が広がる夕方のことだった。
仕事場から家に帰ろうと自転車で走りかけて、ふと前方に目をやると大量の水が空まで噴水のように吹き上げているのが見えた。
水道管の破裂にしては規模が大きすぎるが何だろうと一瞬躊躇した途端、頭から叩きつけられるように大量の水が落ちてきた。
それまで晴れて明るかった辺りが急に一変し、恐ろしいほどの勢いで雨が降ってきたのである。
滝のような雨とはよく言うが、もう前が見えないぐらいの降り方でまさに滝行をしているようだった。
幸いにも仕事場を出てすぐのことだったので慌てて戻ったが、ショーツの上に一枚だけ着ていたワンピースは身体に張り付いて裸同然の状態になってしまった。
余りのことに混乱して「服を着たまま泳げばこんなものか」などとボンヤリ考えていたが、やがて我に返って家族に電話をし、着替えとドライヤーを持って来て貰った。
それ以来同じ光景に出会うことは二度となく、他人に話しても誰も理解してくれなかったが、恐らく雨雲と晴れた空の境目を見たのだろうと自分で納得していた。
ところが最近天気予報の番組内で何と私の見た光景と同じ映像が流れたのである。
予報士の人は「極めて狭い範囲の集中豪雨で起こる現象の雨柱である。」と私の想像に近い解説をしていた。
当時は殆ど知られていなかった「雨柱」も、最近の異常気象で集中豪雨やゲリラ豪雨が多くなり、テレビでも照会されるようになったのかも知れない。
イラスト(粘土 アクリル)