ちょっとニッチな児童文学⑨『ぼくたちはまだ出逢っていない』
継がれていく3人
こんにちは。maemichiです。今回は八束澄子さん作、『ぼくたちはまだ出逢っていない』をご紹介します。本書でフォーカスされている題材は「金継ぎ」です。
中心となる人物は3人です。
イギリス人の父と、日本人の母を持つ中学3年生の陸。彼は金色の髪と日本人離れした体格で目立つ容姿のためかいじめの標的になっている。
陸の親友の樹。生まれた時から腸に持病があり、陸とは正反対のおとなしい見た目。背も小さく、体力がない。陸からの信頼が厚く、樹も陸のことを信頼している。見た目と違い、陸よりも大人びた考えをしている。
中学2年生の美雨。母親の再婚を機に、岡山から京都に引っ越してくる。新しい家族の形には馴染めていない。骨董屋で見つけた茶碗『月光』に惚れ込んで、金継ぎや漆の世界に入り込んでいく。
通っている学校は同じでも全く接点がなかった陸と美雨。2人が別々の場所で漆によって肌をかぶれさせ、診療先の皮膚科で出逢うことになる。金継ぎを習う教室で樹も含めた3人で会うようになり、美雨と樹は互いに心を寄せていく。美雨は、体調を崩しがちな樹に「壊れても…わたしがなおす」と言い放つ。
感想 金継ぎから想いを馳せる
日本古くからの修繕技法である金継ぎは、現在では外国人の間で人気の体験プログラムになっている。割れたり、欠けたりした陶器を漆で繋ぎ合わせていく過程は、『ぼくたちはまだ出逢っていない』で、バラバラだった人間関係が修復されていく様も重ねています。
とある出来事があり、樹と美雨が引き合わされ、仲が深まっていくのですが、詳細は本書を読んでのお楽しみということにしてください。
「壊れたものにふたたび命を吹きこむ」。それこそが昔から受け継がれてきた日本独特の文化である、と物語に出てくる骨董屋の亭主がいっています。
ウルシの木は生長するのに10年かかり、幹を刃物で傷つけられ、樹液を採取するそうです。これが漆の原液で、一本の木から取れるのは約180cc……。あまりにも少ない。
そして樹液を取られたウルシは伐採されてしまいます。これを殺し掻きというそうです。漆を採取するための職人や漆農家は減っており、今日本で使われている漆は中国やベトナムからの輸入品がほとんどなんだとか。
日本の文化なんですが、知らないことがたくさんありすぎてスマホ片手に読んでいました。人間模様ももちろん、漆や日本独特の文化を知ることができる、奥深い児童文学でした。最近の児童文学って質が高い。
また同年代の中学生が興味を示さなさそうな金継ぎやウルシに興味を示す美雨や陸は、同年代の子から見ればちょっと変わった子と思われるかもしれません。
だけどその道の人、例えば陶器修復師の方や漆掻き職人たちはとても喜んでくれる。もしかしたら陸や美雨のような子たちが、自分たちが守ろうとしているものを引き継いでくれるかもしれないから。
国やその地方の文化を受け継ぐということは壮大だなぁ、ロマンだなぁ、と思わされました。これから漆塗りのものを見るたびに、名も知らない職人さんたちに思いを馳せることになりそうです。
トップの画像は、うるしばたみかさまの金継ぎした盆栽鉢の写真をお借りしました。私のイメージしていた金継ぎ画像そのものでした。感謝です。
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