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短編:『いつかの』 #シロクマ文芸部


  (本文650字)


 12月だったか・・・星が降ってきそうな夜だった

 トイは思いのほか楽しげな表情で、ハーフケットを私の肩までずり上げた

 「今は何処にいるの、あついとこ?」

 トイは口の端に力を入れて、涼しいだろうTシャツ姿でカラになりそうなポテトチップスの袋を逆さにして目を細めた


 ーいまねー 

 一言、咳払いが半分混じる聞き取りにくい小声を呟くと、天井を仰いで適切な返事を探していた


 「あ、思い出した!
むぅちゃんが、初めて大使館に資料を請求した国だよ」


 「えー‼︎‼︎ いいなぁ、行きたかったのに、先越されたか」

 骨ばった右手でゴミ箱に菓子袋を投げ入れたトイは顔だけ近づけて、わかりやすく口をすぼめる

 「くっさ、辛子が入ってるポテチじゃダメじゃん、私、熱出して寝込むよ」

 スパイスでアレルギーが出る体質を持て余す台詞とは別の気持ちに、泣きたい気持ちで喉の奥がぎゅっと締めつけられる感覚に襲われていた


 「けちんぼ、むぅちゃん。
チュウくらいいいじゃん、歯、磨いてくる」

 うん

 ーの二文字が言えなかった


 トイが歯磨きから戻って、私たちは二人、
大きなガラス窓から見える流星群を一緒にいつまでも眺めた


 私が星座の蘊蓄を語る間に、トイは私の肩に寄りかかり、気がつくと寝息を立てていた


 次の日、トイは小学生の遠足に出掛けるみたいなテンションで、東の方の国へ戻って行った


 キス、忘れちゃった


 その三年後には、日本の知り合いの連絡を断って、誰も彼を捕まえられなくなった


  トイを思うと、
 夜空の流星群だけが目蓋の裏で光り続ける



おしまい



締切は12/1(日)23:59
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