行き着いたのは「子育てライフプラットフォーム」 幼児食スタートアップhomealの挑戦
こんにちは、千葉道場ファンドです。
2022年3月、千葉道場ファンドは、幼児食に特化した宅食サービス『homeal(ホーミール)』の事業展開を行なっているhomeal 株式会社(以下、homeal)に対して出資しました。
2019年の9月に創業したhomealは、同年10月のクラウドファンディングサイト「Makuake」での先行販売を皮切りに幼児食宅配サービスを展開。2020年の1月に公式オンラインストアをオープン以降、サービス開始2年足らずで販売実績42万食に達するほどの事業成長を遂げており、まさに「幼児食サービスのパイオニア」とでも言うべき企業です。
今回の記事は、homealの代表取締役・鬼海翔さんと、千葉道場のキャピタリストである廣田航輝の対談の後編。前編では幼児食サービスに取り組むに至った経緯を語ってもらいました。
後編は幼児食に対してのこだわりの源泉、千葉道場のキャピタリストの立場から見たhomealの魅力、homealが描く未来像などを語っていただきました。
出資の決め手は「美味しさ」と「ビジョンの明確性」
ーー千葉道場とhomeal、両者がつながった経緯について教えてください
廣田「2020年12月開催のアクセラレータープログラム『Original Lab by FABRIC TOKYO』の発表会にhomealさんが登壇した際に、千葉さんが審査員を務めていたことが、最初のきっかけですね」。
「発表会でのhomealさんの第一印象は、プロダクトがとても分かりやすいなと思いました。会社が描いているプロダクトのストーリーテリングがシンプルでしたし、先ほど鬼海さんが言ったとおり、会社のビジョンも明確なんですよね。それで私も千葉さんもhomealさんに興味を持ったんです」。
鬼海「プログラムの主催者だった森さんから『千葉さんがhomealに興味を持っているみたいだからチャンスだ!』とお知らせいただいて。それで発表会の翌日に千葉さんにDMを送ったんです。そこから何度かミーティングをさせていただき、今に至ります」。
ーーhomealに対する投資は千葉道場でどのように議論されたのでしょうか
廣田「homealさんが取り組んでいる幼児食という事業領域が今後伸びるのかという点は、投資前も今も常に議論をしていますね。それとD to Cの事業といいますか、要は幼児食という『プロダクト』を作られているので、それは実際に購入して食べてみて、投資対象としての議論の材料にしました。homealさんに限らず、千葉道場は製品やサービスは基本的には必ず試してみるスタンスを大事にしています」。
ーーhomealの幼児食はいかがでしたか?
廣田「それが、とても美味しかったんです! 私と奥さんで食べてみたんですけど、幼児食ということで正直『大人が食べても美味しいのかな?』と思ったんですけど、もうhomealをメインディッシュにして食べても良いんじゃないか、というくらい美味しかった」。
「それと味以外にも、幼児食が届くまでのプロセスや、冷凍庫に入れる際の利便性など、そういった購入体験の満足度も高かったんです。食品業界はいわば『冷凍庫のスペースの取り合い』ですから。その点、homealの幼児食は薄いパック詰めになっていて本のように並べて収納できるので、それがとても良かったです」。
ーー幼児食というプロダクトの質以外に、homealを投資対象として評価した要素は?
廣田「先ほども話したビジョンの明確性ともつながる話ですが、homealが取り組む社会的課題が明確だったこともポジティブな要素です。鬼海さんが言ったとおり、幼児食に悩みを持っている保護者の方は多いですし、なにより『親と子が一緒に食べる』という点にこだわられているのが、率直に言って凄いなと感じました」。
「つまり、ただ単に保護者の手間を無くすだけでなく、親子での会話を生み出せるプロダクトになっているんです。そういった点も含めて、社会にある根深いペインにきちんとアプローチできるプロダクトとして評価しています」。
「それと、幼児食は約5年にわたって食べられるという観点から、リピート購入を含めたライフタイムバリューが大きく見込める点も評価できます。私自身、実際に試してみて『これは何度もリピートしたくなる』と感じました。既存のお客さんがどんどんリピート購入してくれるというhomealの特性は、投資対象という観点からは魅力的に映ります」。
鬼海「なんだか照れくさいですね(笑)。でも嬉しいです。僕としても、評価してもらいたい点をしっかり見てもらっているなと思いますし、その上で投資していただけたことには、本当に感謝しかありません。というのも、投資いただく前のhomealはまだ月商が200~300万円ほどしかありませんでしたから。その時点のトラクションよりも、事業のビジョンや将来展望を見てくださったのが、とてもありがたく感じます」。
千葉道場は「秘密結社」かと思ったけど、違ったんです
ーー千葉道場という場所や千葉さんに対しては、鬼海さんはどのような感想をお持ちですか?
鬼海「千葉さんに関して印象に残っているのは、投資前のミーティングの際に『鬼海さんのキャッチ・ザ・スターを教えてくれ』という宿題をいただいたことです。そんなことを投資家の方から問われた経験はなかったので、真剣に『自分は何を成し遂げたいんだろう』と考えたのを覚えています」。
「僕たち起業家はどうしても月商とか、リピート率とか、CPAとかの数字を追いかけてばかりになってしまうんです。もちろんそれらも大事ですが、それだと登山でいえば山の2合目、3合目あたりしか見えなくなってしまいます。それに、頑張って登って仮にIPOのような山頂に見えるものに辿り着いたとしても、それが本当に人生のゴールなのかと言われると、実はそうではないとも思っていて。もっと次元が違う、後世に残るような『何か』を自分は成し遂げたいのではないかと徹底的に考えたり、homealのみんなで議論したりしたんです」。
「その時の経験が今のhomealの事業戦略にも生きていると感じますし、千葉道場に参加する前、ミーティングの時にそういった機会をいただけたことを感謝しています」。
ーー千葉さんの宿題に対して、鬼海さんはどのように答えたのでしょう?
鬼海「『子育てライフプラットフォームを作りたい』と答えました。要は、今は僕たちhomealは幼児食という観点から家族の課題を解決するプロダクトを提供していますが、子育てって食事だけではありませんよね。食事以外にも色々な面で子育てには楽しさと苦しさがあります。そういった部分も含めてサポートしていける仕組みづくりをしたい、ということをお話しさせていただきました」。
ーーその一環として立ち上げたのが「homeal Park」ということですか?
鬼海「そのとおりです。homeal Parkというのは、各ご家庭の幼児食に関するアイデアや豆知識などをシェアしたり相談しあったりできるSNSで、今年の2月に立ち上げました。僕たちは幼児食をプロダクトとして扱っていますが、小売業者としてやっているわけではありません。あくまで、幼児食にまつわる課題を解決して、幼児食を通じて得られる体験をサポートしたいという考えで事業に取り組んでいます。この考えに基づき生まれたのが幼児食のコミュニティという発想であり、その舞台装置として提供を始めたのがhomeal Parkです」。
ーー千葉道場という場所に対しては、どのような感想をお持ちですか?
鬼海「僕たち起業家にとっては、千葉道場に参加することに対してある種の『憧れ』という感覚がありつつ、一方で秘密主義というか秘密結社のようなイメージも強かったのが正直なところです。あるいは、いわゆる世間一般が「起業家集団」に対して想像するような、きらびやかな場所でハイセンスな話をするような集まりかな?というイメージもありましたね。でも実際に参加してみると、むしろ真逆で」。
「千葉さんも折に触れて語られている『雄弁で紳士な陰キャ』というフレーズがまさにピッタリで、真面目でシャイで実直だけど事業の話は熱量がこもる、みたいな方ばかりです。自らの成果や実績をひけらかすのではなく、1個1個のプロダクトを磨き込むことに心血を注ぐ、職人のような人たちとも表現できます。そういった人たちと同じ目線で、起業家同士の話ができる。そういった千葉道場の空気感が僕自身はとても居心地が良いです」。
ーー逆に千葉道場からは、homealに対してどのようなサポートを心がけていますか?
廣田「幼児食という分野はまだ開拓が進んでおらず、千葉道場の中にも専門的に分かる人材が多くいるわけではないので、専門的なアドバイスはなかなか難しいのが正直なところです。その分、例えば事業計画のひな型を作ったりとか、専門的なことを助言できる人物を紹介したりとか、そういったリソースで埋められそうなポイントに対してのサポートを心がけています」。
幼児食を定番商品として、いかに安定供給するか
ーー最後に、homealの将来のビジョンや今後の事業展開について教えてください
鬼海「将来的なビジョンは先にお話したとおり、幼児食以外にも様々な面で子育てをサポートできる仕組みづくりを目指しています。今後の事業展開についてお話できる範囲で言うと、homealの幼児食をいかに定番商品として安定的に供給し続けるかが大事だと思っています」。
「要は、他社の食事宅配サービスを見ていると、毎回異なるメニューを供給できるような仕組みになっていることが多いですが、実はメニューが頻繁に変わってしまうことに対しては『この間、子どもが食べてくれたのと同じやつが欲しいのに』と感じる親御さんが多いんです。それならば、子どもが喜んで食べてくれる定番のメニューを開発してあげた方が、保護者にとっても喜ばしいですよね。そういった意味で、『家族みんなが大好きな定番商品を数多く生み出す』ということを目標のひとつとして取り組んでいます。あとは、homealの幼児食の『手軽さ』『簡単さ』といった強みも、引き続き磨いていきたいです」。
「それと、今まさに物価の高騰が社会的な問題になりつつあり、homealのメニューの中にもかなり影響が出ているものもあります。食材を扱う企業は、こういった外的要因による影響は避けて通れませんから、そういったことがあってもきちんと耐えられるプロダクト開発を進めていく必要性を感じており、今取り組んでいるところです」。
「他にも、定期購入ユーザーを増やすための取り組みをデジタルで展開することも今、進めています。親御さんが欲しい情報を適切なタイミングで届けられるCRMの仕組みづくりだったり、メニューやお届け日時の変更がしやすいUX・UIの改善をしたりとか。幼児食というプロダクトを磨きつつも、それをより広範囲に広げていくための活動に今取り組んでいる、という状況ですね」。