天使と悪魔と人間と─アルストロメリア流幸福論─

まえがき


 こんにちは。千葉マスのらーくです。今日はアルストロメリアの話をします。今日は? 今日も……。
 先日、シャニ公式の企画として、自分のイチ推しのイベントシナリオを紹介する「#イチ推しシナイベ」が行われていました。タグを漁るとオタクの思想が見れておもろいです。ちなみに、シャニマス(enza)は2024/12/10時点でイベントコミュがコラボ含め78本あるらしいです。マジ?
 そんな中、2024/12/09の運営レター内で発表された結果は、1位が「YOUR/MY Love letter」、3位が「薄桃色にこんがらがって」と、(区分としては)アルストロメリアのコミュがふたつもランクインすることに。(区分としては、と言うのは、YMLがアルストロメリアのコミュではないと思っているからです。面倒くさいオタク)。そうだよね。薄桃色もYMLもすごくおもしろいよね。

 でもさぁ! そもそもアルストのイベコミュは全部最高なんだよなァ!

 そんな公式企画全否定厄介オタクが全方向威嚇を始めてしまったので、アルストイベコミュ紹介記事を書こうと思います。現時点でも全部で9つ。9もイベントあった?!!?! ありがてえ話だな。頑張るか。頑張れなかったらすみません。
 今回は記念すべき初回イベント、「満開、アルストロメリア流幸福論─つなぐ・まごころ・みっつ─」についてです。なお、読み終わった後の異論も大いに歓迎しています。対戦よろしくおねがいします。
 なお、記事の性質上、コミュの多大なネタバレを含みます。


アルストロメリアについて


 まずこの3人のことを語らなければ始まりません。それぞれのプロフィールは公式のリンク(ここに3人のリンク)から見てもらうとして、ここでは「WING(STEP)-幸福論時点での」もう少し踏み込んだ話をしていこうと思います。とはいえだいぶ端折っているので各自読んでいただけると嬉しいです。アルストロメリアWINGをよろしくお願いします。

大崎甘奈 天使
:姉である甜花のことが大大大大大好きな元気はつらつ高校生。甜花のかわいさなどを世に知らしめるべくアイドルになった。ふたりでキラキラ輝きたい、という純粋な願いでアイドル活動をしていたが、甜花が成長するにつれ、今までの関係でなくなってしまうことに不安を抱く。しかし、「仲良しのライバル」という言葉を胸に、双子座よりも輝くアイドルになることを目指す。根本的に自分への自信がない。

大崎甜花 悪魔(堕天使)
:妹である甘奈のことが大大大大大好きな小動物系高校生。割と結構ダメ人間の類で、頻繁に休みたがったり徹夜でゲームをしたり赤点課題を甘奈にやってもらったりしている。対人が特に駄目で、千雪相手にも若干怯えている。
 アイドルになってからもダメ人間ぶりは健在だったが、「誰でもない甜花を見てもらえる」ことや「甘奈の隣に並びたい」という願いのもと、ちょっとずつ成長していくようになる。根本的に自分への自信がない。

桑山千雪 人間
:かわいい小物と雑貨づくりが大大大大大好きな覚悟ガンギマリ成人女性。道案内が特技(どういうこと?)で、おそらくは困った人を助けるのが好き(Pにスカウトされた経緯も、Pのシャツのボタンが取れかけていたのを直してあげたから)。「大人であること」「将来の不安定さ」「大好きな雑貨の道を捨てるのか」などに苦しみながらも「誰かを笑顔にする」ためにアイドルになる。なお、特にPに相談なく雑貨屋をやめたり、せっかくのタテニシキを切ってしまうなど、ひとりで抱え込んだ上、ひとりで取捨選択をする傾向がある。双子の間に入り込むことに躊躇いがある。根本的に自分への自信がない。

 初期甜花ちゃんが初期千雪に若干ビビっていたのは【283プロのヒナ 大崎甜花】などでも垣間見ることができます。いまでこそ「千雪さん千雪さん」と懐いて普通に(家族相手と同じくらい!)話せるようになっていますが、初期も初期は本当に悲鳴とかあげててちょっとおもしろい。ちなみに、千雪のほうは特に気にすることなく(傷つくことなく)甜花ちゃんに接しています。優しさ。

オープニング 私達の目的地


 ある程度キャラを紹介したところで、さっそくコミュの内容に移っていきます。
 オープニングでは、楽しそうに会話を交わすアルストロメリアの様子から。
 
 千雪の持ってきたタテニシキ(経錦)できゃいきゃいはしゃぐ大崎、かわいすぎる。
 昔ちょこっとタテニシキを作ったとかいう千雪、やばすぎる。
 
 常々思っていますが、千雪の手芸(雑貨づくり)スキルってなんかレベル100みたいなとこにある。どこでそれが培われてきたのかが非常に気になる所ですが(高校生の時は美術部だったらしい&将来の夢は画家だったらしい)、そんなアルストのもとへ新しい雑誌仕事が舞い込みます。「街のおすすめスポット紹介」と「縁日の取材」です。(なんかいつも雑誌仕事してるな
 各々の行きたい場所を考えるのが宿題となり、その日は解散します。
 

大崎が楽しそうに考える中、意味深な間を持つ千雪


第1話 パールホワイト


 宿題発表の日。街のおすすめスポットとして「レトロなゲームセンター」を提案する甘奈。「新しくできたブックカフェ」を挙げる甜花。
 
 最高過ぎ!!!!!!!! 

 すみません。いやでもここ! これです。これに大崎姉妹が詰まっている。みなさんはお気づきですね? 

千雪も気づいてる

 そう、つまり甜花も甘奈も「お互いの行きたい(だろう)ところ」を言い合っているんです。ちなみにこれの詳細・前提の話は【幸せのりんご飴 大崎甘奈】で描かれているので、イベントを読み終わった後にぜひ。ショップ→イベント→チケット交換→シナリオイベントから交換できます。
 話を戻します。
 そうしてどちらを選ぶか悩む大崎姉妹に対し、千雪は「どちらも行ってみない?」と提案します。いろんなコミュを見て思うのですが、千雪って折衷案を出すのがうまいんですよね。(そして折衷案が出せないときに思いつめてバグる)。
 プロデューサーの許可も下り、雑誌に載せる前の下見、と言うことで、3人でブックカフェとゲームセンターに行くことになります。
 ……千雪の行きたい場所は? こちらをご覧ください。

 ここ初期桑山おもろポイントです! ちょっと最悪の紹介過ぎるかも。
 や、でも真面目な話、まだ関係性の深まっていないアルストロメリア(とまだ「大人である」呪縛のある千雪)の出汁。初期特融の遠慮。現在軸のアルストロメリアであれば、千雪は真っ先に行きたい場所を提案するでしょうし、露骨な遠慮も見せません。遠慮しない女になったので。シャニマスのおもしろさってこういうとこもあるなと思います(明確な関係性の成長・それに伴う態度の変化)。
 

第2話 天と地、屈折


 前話で話した通り、まずはブックカフェへ。甜花の思惑通り楽しそうにする甘奈と、会話を交わす千雪。小物を見つけて大はしゃぎする千雪。大はしゃぎしてからハッと反省する千雪。

現在なら提案される前に買ってる
甘奈にもバレてら
サポートSSR【先生のお時間】より
最初から雑貨屋が目当てなら誰にも何にも遠慮しない女 甘奈も若干引いてる


 初年度コミュとしてはたぶん満点なんですが、現在から見ると本当にちょっとおもしろいためこの千雪を見るためだけでもぜひ読んでください。あと“お姉ちゃん”の甜花ちゃんを見てください。あとあと甘奈の本質がちらっと見えるので見てください。

第3話 甜花の敵じゃない


 続いてはゲームセンターへ。甘奈の思惑通り楽しそうにする甜花と、シューティングゲームに翻弄される千雪。甜花ちゃん、世の中にあるすべてのゲームの才能がある? 天才か?
 ゲーム中は生き生きと千雪に教えていたものの、甘奈がいなくなって熱も冷めたころにスンとコミュ障に戻ってしまうのってあるある過ぎる。テンションバフが消えちゃうね……。けれどそんな甜花にも変わらぬ様子で声をかけ、コミュニケーションを取ろうとする様はさすがに“大人”と言ったところ。

「チャームポイント:場に溶け込むことが上手い」女の本領発揮


 ブックカフェとゲームセンター、どちらも楽しかったけれど、記事にするのはどちらかのみ。そんなルールをぶち壊すのがこの女。

いつだってルール無用
いつだって戦いが好き


 大崎姉妹の賛成もあり、アルストロメリアはこのテーマで行くことに。──結局、最後まで千雪の行きたい場所は挙がりませんでした。


第4話 私をもっと知りたくて


 お互いがお互いのための場所を提案していたことに笑い合い、「おんなじだね」と喜ぶ大崎姉妹。けれど、結局千雪の行きたいところに行けていないのがひっかかるふたり。優しさすぎる。


 甜花の提案と甘奈のひらめきで、「千雪に髪飾りをプレゼントして、それをつけて縁日の主役になってもらおう!」ということになります。髪飾りを買うために浴衣レンタルのためのお小遣いが消えることになりますが、千雪が大好きだから、千雪にも主役になってもらいたいから、と当然に受け入れます。愛? ここ、大崎姉妹から千雪に対しての“憧れ”が見えて本当に良いです。このふたりはこの先ずぅっと千雪を憧れだと思っているため(ここでいう憧れとはアイドル的な部分ではなく、もっと根本の、人間的な魅力に関してです。いまはまだ、憧れだけ)。
 一方そのころ。千雪は、甜花と甘奈だけの居場所を自分が侵食してしまっているのではないかということに悩みます。(千雪って結構大崎のことを神聖視していてすごい。これって本当、第5話でも出てきますが、徹頭徹尾、桑山千雪は大崎甘奈と大崎甜花のことを守り慈しむべき愛し子と思っているし、天使だとも思っているので)。

桑山千雪の大崎好きすぎポイント


 そんな悩みを察したプロデューサーから「想いは伝えないとな」「千雪と甘奈と甜花でアルストロメリアなんだ」と諭された千雪は、(いまいち理解していないなりに)甘奈と甜花と話し合ってみようと考えます。

千雪の“大人”規範


 
 これはSTEPや【サマーハニー・シーズン】の話にもなるのですが、桑山千雪って意外と自分の気持ちを言葉にすることに慣れていないんですね。意見は言えても、気持ちは言えない。意見は仕事などにも強く関わってくる部分ですが、感情はそうではないからです。千雪はあまり自信があるほうではなくて、というか割と謙遜しいなタイプなので。プロフィールカードでも「アイドルになって驚いたこと:自己表現をすることへの寛容さ」となっていて、現在軸に至るまでの千雪がいかに抑圧されてきたか、というのが察せられます。
 【サマーハニー・シーズン】ってガチの名作なので本当にマジで心の底から読んで欲しいのですが、限定なので簡単に勧められないのがつらいところ。ということで、コミュ内容を一部抜粋。

What should I say? より
プロデューサーと別れた後
独り言でさえ「なんて」と冗談めかないと言えない
もしも夕日が綺麗だったら より

 自信はないけどプライドはあって、自分の感情は押し殺すけど意見はどんどん言って、懐古するけど新しいことに挑戦するのが好きで、負けず嫌いだけど誰かを蹴落としたいわけじゃない。人間~~~。まあ桑山千雪が桑山千雪の感性を持ったまま23まで生きてこられたのってだいぶ奇跡ですからね。STEPとGRAD見るとめちゃくちゃ思う。

第5話 まごころ・みっつ重ねて


 初期特有の背景無さすぎ問題の為、早朝の事務所で徹夜で小物を作る千雪with目覚ましというおもろ場面にはなっていますが、ここは千雪がタテニシキを使って甘奈と甜花のために髪飾りを作る最高のシーン。……ところが、材料がタテニシキであるせいで、千雪は浴衣を着られなくなってしまいます。

うっかり千雪


 そして、前話を受けて意気揚々と事務所へやってくる大崎姉妹。これを受け取った千雪がどれだけよろこんでくれるだろう! とわくわくしながらプレゼントを差し出しますが、千雪はついさっき大崎姉妹のための髪飾りを作ったばかり。そのうえ、大崎姉妹も千雪の髪飾りを買うためにお小遣いを使い果たしたので、浴衣を着られません。
 つまり、大崎姉妹も千雪も、「お互いの(浴衣の)ために」と用意したものが見事にから回ってしまったのです。

 賢者の贈り物、という話があります。
 クリスマスプレゼントの為、夫の大事な懐中時計のチェーンのために自らのうつくしい髪を売ってしまう妻と、妻のうつくしい髪を梳かす櫛のために大事な懐中時計を売ってしまう夫の話です。一見彼らの愚かさを皮肉った話のように見えますが、「互いを思いやる深い愛」と「相手のために自らの大事なものを手放すことも厭わない献身」が描かれています。
 そう、アルストロメリアですね。
 
 互いに同じように思い合っていたことを知る3人。千雪はプロデューサーに言われた通り、自分の考えを話します。

桑山千雪の大崎好きすぎポイント2
いつだって「誰かを笑顔にしたい」人
天才の甘奈
天才の甜花
千雪の”大人”規範2


 こうしてアルストロメリアは、“ひとりとふたり”から“3人でひとつ”のユニットになったのです。(余談:アルストロメリアは大崎姉妹がダブルセンター、ふたりに挟まれた千雪が実質のセンター、という形の立ち位置なのですが、“3人で主役”はここにもかかっているのかなと思います)

第6話 私達の幸福論


 縁日当日。人混みに弱った甜花を休ませ、ふたりで屋台をめぐる甘奈と千雪。たくさんの食べ物を抱えながら、甘奈が射的屋に目を止めます。──いつか、遠く幼い日の思い出。甜花がずっと甘奈の姉であった話。
 その話を聞いた千雪は、射的に挑戦してみてはどうか、と提案します。はるか昔であったなら、確かに失敗していたかもしれません。けれど、今の甘奈は変わっているはずです。今なら撃ち落とせるかもしれない。
 そうして甘奈は、イベコミュ3話で甜花が千雪に与えたアドバイスをもとに、見事、ぬいぐるみを撃ち落とせました。千雪が誘って、甜花のアドバイスがあったから、甘奈はかつてから変わることができたのです。

 ここ、ほんまにめーっちゃ良い話なのですが、ある種蛇足的な“結局”を言わせてください。
 とどのつまり、甘奈はひとりで成長/変化することができなかった、という話。
 人はひとりじゃ成長できないよ、ということが言いたいのではありません。そういう話ではないです。大崎甘奈の根っこの話をしたいです。します。
 もしも甘奈がひとりで縁日を回っていれば、射的屋の前で足を止めても挑戦しようとは思わなかったでしょう。昔を思い出して、「あのとき“も”駄目だったな」と始める前から諦めていたでしょう。
 あるいは、仮に甘奈が挑戦できたとして、甜花からアドバイスを受けていた千雪がいなければ撃ち落とすことはできなかったでしょう。あの日のような失敗を重ねて「また駄目だったね」と苦笑するでしょう。きっとそれ自体も思い出にはなりますが、彼女の変化にはなり得ません。
 甘奈本人も言っているように、千雪が引っ張って、甜花が支えてくれたからこそ、甘奈は変わることができたのです。

 大崎甘奈は停滞の人です。大崎甜花は後退の人です。桑山千雪は前進の人です。
 それらはWINGで、感謝祭で、GRADで、いたるところで描かれます。彼女たちがどれだけ成長を重ねても、本質が変わることはありません。この書き方、ともすると大崎姉妹の悪口のように捉えられる可能性がありますね。
 けれど、甘奈の停滞は変化を受け入れられない人間のことを肯定してくれますし、甜花の後退は前に進むことに怯える人間を優しく抱きしめてくれますし、千雪の前進は傷つきながらも歩みを止められない危うさを秘めています。
 そんな3人がバランスを取りあうからこそ、アルストロメリアは成立しているのです。

 話をイベントに戻します。
 ぬいぐるみを戦利品に甜花とプロデューサーのもとへ戻るふたり。甜花も多少回復したということで、また縁日を見て回ろう──と。


 
これを見てもらうためにこの記事を書きました。
 本当に俺これの話がしたくてこの記事を書いています。アルストロメリアと楽園追放の話を。

 ここまでのコミュ解釈で突っ込みどころが多々あったとしても、アルストロメリアのモチーフが宗教・哲学・恋愛であることに異論はないと思います。宗教がなにである、と具体的に明言されてはいなかったはずですが、まあキリスト教であることは確かでしょう。大崎姉妹の誕生日もクリスマスだし。 
 さて、聖書の中でも失楽園というのはかなり有名な話だと思われます。蛇にそそのかされ、禁断の果実を手にしたイヴとアダムの話。知性を手に入れ、代わりに無垢性を失った人類は楽園を追い出されることになります(果実の種類は諸説ありますが、りんごであったというのがキリスト教圏では有力です)。
 原典では、楽園を追い出されるのは人類に与えられた罰とされています。まあなにもせず楽に生きていられる世界から追放されて労働の義務を負うのって罰以外のなにものでもない。悲しい話だ。
 けれど、アルストロメリアはどうでしょう。
 
  大好きな雑貨達に囲まれて、穏やかな日々を送るだけの世界。
  大好きな姉妹とふたりきり。互いを慈しみ合うだけの世界。
 
 そこは確かに紛れもない楽園で、アイドルになる前の彼女たちは幸せな日々を過ごしていました。アイドルにならない彼女たちも、きっと満足のいく生活を送っていたことでしょう。
 でも飛び出した。自分の意志で、楽園の外へ一歩踏み出した。
 楽園に背いて、楽園に反抗して、たどり着いた先は楽しく幸せなことばかりではない、苦しみも悲しみもある世界。ただ幸福を享受するだけではいられない世界。──そこで生きる、と決めた世界。
 だからこそ、彼女たちは分かち合いました。楽園に背いてしまった罪を、楽園の外で生きるための覚悟を、あなたとわたしがひとつであることの証明を。アルストロメリアは楽園を追い出されたのではなく、自らの意志でここにあるのです。
 
 ここでもうひとつ、アルストロメリアと切っても切り離せない話をします。みなさん、アルストの紹介文で名前の横に変な単語が書いてあったのを覚えていますか? タイトルにされていたことは?
 天使の甘奈。悪魔(堕天使)の甜花。人間の千雪。
 これらのモチーフは、本当にいたるところで描写されています。甜花のサポートSR【楽園に背く】、ユニット衣装の「ウィッシュフルリリー」、「オポーズ・パラディーソ」、「ガルディエーヌシリーズ」。ガルディエーヌの千雪は厳密には人間ではありませんが、羽の色から見て大崎姉妹からひとつずつ翼を貰ったと考えられます。さらにいうと、アルストの初期位置は甘奈千雪甜花の並びであるため、大崎姉妹が千雪の羽であるんですね。デビ太郎とエン次郎もかなりわかりやすいと思います。あとこれはこじつけだろと言われてもおとなしく受け入れるのですが、「“あま”な」「“てん”か」「“ち”ゆき」なので、千雪だけは羽を持っていないんですね。
 通常、天使と悪魔と人間が共存することはできません。それぞれにそれぞれの世界があり、そこで身の丈に合った生活をすることが正しいことだからです。
 でもアルストロメリアは楽園に背いているので、そんなことはまっっっったく関係ないんです。というよりかはおそらく「甘奈と甜花と千雪が3人でいられる楽園=アルストロメリア」なんです。楽園から飛び出してその罪を3人で共有して、3人だけの楽園を作り上げた、ということ。
 アルストロメリアって実は排他的なユニットで、これは態度など目に見える部分の話ではなくて、“どこまでを身内と数えるか”の話なんですね。在り方としてはノクチルに似ていると思っている。
 ノクチルはノクチル4人だけが身内でそれ以外はすべて他人、だから態度が露骨に変わっていくのですが、アルストロメリアはその“身内”の線の範囲が大きいので一見すると世界中みんな家族! みたいな感じになっているんですね。文字上で理解してもらえるかわかりませんが、まず一番外側に「ファンではない人々」がいて、その内側に「ファン」がいて、その内側に「友達・283プロの人々」がいて、さらにその内側に家族がいて、いちばん内側にお互いがいて……というようになっているわけです。それでもって「ファン以外の人々」まで愛を向けているから博愛ユニットみたいに見えるんですが(いや博愛であることは間違いないのですが)、ただそれってただ“アルストロメリア”の愛がアガペーなだけであって、大崎甘奈と大崎甜花と桑山千雪個人の愛はまた異なってきます。
 誰かを拒絶する閉塞ではなく、受け入れながらも不可侵の線を引く。
 3人の愛は身の回りの人間にだけ向いていて(それはもちろん人間として正しい愛の在り方)、特に強いのがお互いへ向けたそれなんですね。だからアルストロメリアは博愛のユニットであり、かつ排他的な3人でもあるわけです。アルストロメリアはアルストロメリアをいちばん愛しているため。この辺の話、アンカーボルトソングとかおはこんばんストロメリアでもしていきたいなと思います(おはこんばんストロメリアって本当に最高だったので読んでくださいね)。
 なんか馬鹿みたいにだらだら書き連ねていますが、「アルストロメリアは楽園から出た先で自分たちだけの楽園を作り上げた」ことを理解してもらえれば大丈夫です。ここまでの9000字って全部無駄?

エンディング 花ざかり、これからも。


 傘でガンシューティングごっこをする桑山千雪(百発百中の千雪フラグ)(興味のあるものに対してのアクティブさはこの頃から変わっていない)とかいうおもしろかわいいシーンを挟みつつ、3人は出来上がった記事を読ませてもらいます。ブックカフェVSゲームセンターがそのまま使われているあたり千雪のコラム力の高さを感じる(事実、千雪の仕事の割合としては雑誌記事がいちばん多いと思う)。
 縁日でのりんご飴の写真を眺めながら、千雪は改めて「甜花と甘奈と千雪、3人でアルストロメリア」であることを理解します。
 なんどもなんどもなんでども言うのですが、アルストロメリアはこのとき初めてひとりとふたりから3人に成れました。
 その基礎アンカーボルトは崩れることなく、永遠に彼女たちを支え続けるのです。

あとがき


 アルストロメリアは、初めはひとつではありませんでした。彼女たちの優しさや愛情は元来持っていたものですが、“それゆえにすれ違ってしまうこと”が描かれたのが今回のシナリオです。
 双子の間に入ることも、自分たちの間に受け入れることも、きっと想像もつかないほどの躊躇いと勇気があって、けれど彼女たちはそれを乗り越えたので、このイベントから先、「3人でアルストロメリア」という根底が崩れたことはありません。崩れたことはない、どころかそれが進化して「1+2」から「1/3×3」になります。うれしい! 最高! 
 わからない人は「薄桃色にこんがらがって」と「流れ星が消えるまでのジャーニー」と「アンカーボルトソング」を見たほうが良いです。

 大きく端折りながらのシナリオ紹介でしたから、実際にすべてを読み、すべてを聞き、彼女たちの優しさと思いやりを直に感じていただければと思います。
 アルストロメリアがアルストロメリアになった日のこと、3人がひとつになった日のことを、どうかよろしくおねがいします。

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