見出し画像

ラブホの正社員1日目

ラブホに必ずと言っていいほどいる人種がいる。噂が大好きなおばちゃんだ。面接後に僕の年齢や前職の情報をいち早く嗅ぎつけ初日からガツガツくる。皆さんの周りにもきっといるだろう。彼女はいるかとか、なんで会社が倒産したのかとか、どこ出身なのかとか根掘り葉掘り訊いてくる。アレのサイズを訊かれた時にはやめたくなった。琵琶湖ぐらいだと答えておいた。滋賀県民に深く謝りたい。

そんなおばちゃん達だが、新人に必ずする質問がある。「ここは腰掛けなんでしょ?いつまでいるの?」だ。なぜこの質問をするか考えた上で僕は「1年ぐらいで資格取ってコロナの消滅と共にやめますよ〜」と答えた。まあ嘘だけど老眼にはわからない嘘なので問題はない。

当初はこう思っていなかったのだが、おばちゃん達のこの質問の意図は自分達の快適な居場所に長く僕のような若い異分子を置くことで自分たちの居心地が悪くなるんじゃないかというある種の恐怖とか怒りとかマイナスの感情からくるものだと考えた。実際僕に会う度に髪型や容姿をからかい、BTSの曲を踊らせ爆笑したりしていた。昭和か大正の人はこれに耐えてたんだなと思いつつ、死んだ魚の目で踊り続けた。1日目からキレッキレな職場だ。せめてもの抵抗におばちゃんの煙草をまだ長い状態で消してやった。年金から負担する煙草税が増えてよかった。

煮え繰り返ったハラワタとは裏腹に僕の頭の中は冷静沈着、冴え渡っていた。仕事が見つかったのだからこのぐらいは仕方ない、初日だし我慢できなくなったらその時考えようという謎の余裕が生まれていた。感性が死んでいて正常な心はなかった。実際一緒の日に入った台湾人の男の子は昼ごはんを買うと言ってそのまま戻ってこなかった。寂しいな、一緒にBTSのダイナマイトを踊った仲じゃないか。戻ってこいよ、またダイナマイト踊ろうぜ。

その日の夜、一人で酒を飲んだ。すごく酔っ払った。

翌日僕のスマホには「台湾にも忍者はいた。人情はない。」という謎のメモが残っていた。


甘いもの食べさせてもらってます!