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ラブホの正社員10日目

してはいけないことほどしてしまいたくなるのは人間の心理だ。小学生の頃は教室で遊戯王をしていたし、中学の頃は禁止されていた自転車通学をしていた。学年が高校に上がると部室で気になる子とヤったり、煙草を吸ってみたり、思い返すと黒歴史と呼ばなきゃいけない思い出に溢れているが、当時はそういう事を積極的にしたい年頃であった。僕は高校生活の終わりとともにそういった毒気は抜けていって、自分の欲求を自分で抑えることのできる健常者として生きていたのだが、世間にはそれがいくつになっても難しい人達がいる。今回はその人種がラブホで起こした最低の事件に焦点を当てていこうと思う。

僕らが事務所や休憩室にいる時には、防犯などの観点から廊下に設置されているカメラで撮影されたリアルタイムの客の姿を見ることができる。誤解のないように注釈を挟んでおくが、部屋の中にはもちろんそういったものはないのであくまでフロント前と廊下だけだ。その映像を見て例えば客にあだ名をつけたり、リネン室から何かを盗まないか監視したりしている。前者は完全に悪行だが、同業にならわかると思う。そういうものなのだと目を瞑ってほしい。

いつものようにカメラの映像を見ていた時のことだ。男女のカップルがフロントを通過して廊下を歩いていた。しばらく歩いた後、女性が立ち止まってスカートに手を突っ込んでいる。ローターか何か仕込んでいるんだろうな、よくある話なのでなんの疑問もなく彼らが出てくるまでの数時間、他のフロアの清掃をしたり休憩して忘れ物の週刊少年ジャンプを読んだりしていた。問題は清掃に行くエレベーターを降りた先の廊下だった。ビッチャビチャである。そして廊下に充満したアンモニア臭。ローターを突っ込んだタイミングで漏らしやがったな、溢れる殺意と共に清掃を開始した。まず廊下のカーペットを全部取り替える。全長が長い廊下なので数枚用意しなければならないのだが、これが結構重い。シューターと呼ばれる穴に全てを投げ入れ、屋上にある新しいものと取り替えた。そのあとは窓と緊急避難経路を全て開放し、風を通したあとにファブリーズを連射した。客をこの中に通したりしたら、またGoogleのレビューが下がって社長が怒りに燃えてしまう。そうなる前になんとかしなければとスタッフ総出で必死だったがついに間に合わずフロアに客が降り立った。その時の絶望感は17歳の時に彼女と初めていった初詣で、間違えてもらったばかりのバイト代の1万円札を賽銭箱に突っ込んでしまい、ラブホに泊まれなかったあの時のそれと同じであった。社長はやっぱり激怒していたし、出禁の客リストを更新していた。

してはいけないことほどしてしまいたくなるのは人間の心理だ。それは性的な事象に対しても当てはまるものだろう。友人の中には、「僕はアダムだから!!!」と付き合っていた彼女と梨園で青姦をし親に勘当された男や、ゲームセンターの駐車場でカーセックスをしている最中に職質された奴もいた。愛すべき馬鹿だと思っていたが、この日だけは彼らにも何かしらの天罰が下ることを祈った。例えばそうだな、浮気がバレればいい。彼女を放っておいてミキちゃんと浮気しているの、僕は知ってるんだからな。

甘いもの食べさせてもらってます!