1/fゆらぎは癒し?
大学時代に音楽療法分野で著名な教授と「1/fゆらぎ」について議論をしたことがあります(というか言いがかり)。
「じゃあ機械的なテクノ音楽では癒されないということですか?」という質問を皮切りに手に負えない対立を生んでしまい単位を4つも落とすハメになりました…。
はじめに、いわゆる巷で言われている「1/fゆらぎ=癒し」という等式について私は懐疑的です。言葉の意味も性質も理解していますが、あまりに広義すぎるため、いわゆるそれが「癒し」とか「脳波」「α波」に直結するのかというと「それはないのではないか」と考えています。もちろん、1/fゆらぎというものが全く存在しないとか、意味がないという気は毛頭なく、実際に家電用品なんかにも応用されることにより快適性が向上していますし、「癒しの要素の一つ」ではあるという認識はありますし、多くの文献、論文が発表されています。
ただ、こと音楽においては計測方法がそれでいいのか、、という疑問は常々持っています。私が最も美しい歌声と推している歌手の石垣優さんの声には「現状の科学的測定」において1/fゆらぎは多分に観測できました。ただ、それ以上に石垣さんにはゆらぎ以外の箇所が極めて秀でていたことが「最も声が美しい」と言及するに至り、故にお会いさせていただいた時にも1/fゆらぎについては「計測方法への疑問」が払拭できないため、まだまだ科学的に曖昧であるという弊所の認識から触れませんでした。科学的に中途半端なことをお伝えすることは避けたかったためです。
方々の研究者に喧嘩を売ることになりそうなので私としては触れないでおこうと思っていたのですが、ほんの少しだけ、大学の偉い先生からクレームがこない程度にほんの少しだけ書いてみようと思います。
1/fゆらぎとは
まず読み方ですが「えふぶんのいちゆらぎ」という方と「わんえふゆらぎ」という方がいます。私は大学の教授が「わんえふ」と読んでいらっしゃったので今も「わんえふ派」です。どちらも間違いではないですが、「えふぶんのいち」の方が広く浸透しているようです。
さて、1/fゆらぎを聞くと癒される、ヒーリングミュージックに多用されている、クラシックは1/fゆらぎだ、というようによく耳にしますが今回はそもそもそれは何なのかというところから書いてみたいと思います。
1/fゆらぎの「f」は周波数の英語表記「frequency(フリーケンシー)」の頭文字です。超簡単に言いますと「規則性があるようで不規則なもの」「適度に予想を裏切る」という理解で良いと思います。1/fゆらぎについて文献を見ると、たびたび「心音」について触れられています。人間の脈は常に一定ではなく、リラックス時や緊張時によって変動します。また、川のせせらぎも同様に、さらさら流れる音においても規則的っちゃ規則的ですが不規則っちゃ不規則です。
これら文献に登場してくる1/fゆらぎの代表的なものとして自然界のものの他にモーツァルトがいいとかドビュッシーがいいとかありますが、この1/fゆらぎは何にでも置き換えられるわけで、交通騒音だって1/fゆらぎと言えますし、オフィスの環境音だって1/fゆらぎといえば1/fゆらぎです。
ですから、「1/fゆらぎ=癒し」なのではなく、癒される数ある要素の中のひとつが1/fゆらぎなのだ、という理解の方が正しいと思います。川のせせらぎや夏のそよ風に吹かれたら誰だって癒されるし、そこに1/fゆらぎがあるのは理解していますが、1/fゆらぎのあるパチンコの騒音が嫌な人は多いはずです。それが全てじゃなく、ハーモニーや周波数などの要素の中でほんの一つに過ぎないということです。「1/fゆらぎがあると音楽的だ」という文献を読んだことがありますが、じゃあそれが観測されにくいテクノは音楽的ではないのか、ということになります。テクノでは癒されなくてR&Bだと癒されるって言ってるようなもんです。
wikipediaには「1/fゆらぎを持つ歌手」という欄があり、他のweb記事を見ると「大御所にはみんな1/fゆらぎがある!」なんて書いてありますが、その計測手法で考えると売れてないけど1/fゆらぎがあるボーカリストもたくさんいるわけで、ビブラートは不規則で音程もたまに外すアタクシの音痴な歌唱もある意味1/fゆらぎです。そもそも計測手法がおかしいと思いますし、「1/fゆらぎがあるからスゴイ」「1/fゆらぎがないと癒されない」ということではありません。
私の見解と近い記事を見つけましたので、ご紹介いたします。
https://mahoroba.logical-arts.jp/archives/78
かなり冷ややかな事を書きましたが、これ以上は問題になりそうなのでやめときます。
ただ、今はボカロに癒される若者もいるわけで、こと音楽においては人々の多様化によってこの「1/fゆらぎ=癒し」という等式はもう成立しないのではないかと考えています。
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