リポート 最新石拾い ❸
北海道某所。また石を拾いに来ている。「また」と書いたのは去年も同じ場所で拾ったからである。
最寄りのバス停を降り5分程度歩くと橋が見えてくる。その下の川原が今回の拾い場だ。公共交通機関から近いとはなんと石拾い環境に恵まれていることだろう。このバスは2時間に1本だが私が拾う場所としてはユーザーフレンドリーだ。
人生の予測困難性にいつも驚かされる。橋が見えたら人も見えた。交通整理をしている。こんな地方の橋の端で何事かと思えば、近くで工事か何かをしているのか大型車両(トラック)が頻繁に出入りするらしい。嫌だな、私は石を拾うところを他人に見られたくない。ましてや一人で草をかき分けて川原に降りていくところなどは見られるのをとても避けたい光景だ。いかんせん怪しい。
瞬時にいくつものおかしな人に見られない対策を思いついた。まずは橋を渡っている途中に川の写真を撮る。これで川に興味がある奴を印象付けられるだろう。その後に大型車両がきたので交通整理の人は私に手で対向車線に行けと示す。何食わぬ顔でその通りにし、品行方正な奴アピールに利用させてもらう。交通整理の人はその後私にお礼を言ったので私も「はーい」とすっとぼけた返事をした。第一の作戦は成功したように思う。
しかしここで問題が発生する。去年も来たはずなのに川原に降りる道が一見してみつからない。交通整理の人がいなければ多少うろうろしたとしてわりとすぐに川原に降りたと思う。なぜなら正解の道は彼のすぐ後ろにあったからである。優柔不断な私はそこから川原に降りるのを避けたかったため川沿いを歩いてみた。どんどんジャングルになって行きとても降りられたものじゃない。結局引き返し橋の反対側の道を探った。後ろを見てはいないが交通整理の人の注目の的だったに違いない。大型車両も私の後ろを通った。結局激しい草の群れに阻まれそこから降りるのを諦めた。
まともな人の演出はあまりうまく行かなかったのでもう堂々と交通整理の人の後ろの道を行くことにした。道路越しに私の行動は見られていたはずだ。川に降りたい奴であることは理解しているに違いない。最初は激しい草の襲撃にあったがそれを通り越すと生え方は穏やかになった。ここは釣り人も来る場所だから川は人を拒まない。
拒まれていないのは動物も同じだ。川原に無事到着すると動物の足跡が泥の上に残っていた。こういうのが生還化石になるんだなとひとり納得していざ石拾いへ。人が近くにいるだけで石拾いの序章はこんなにも長くなる。
さて、ここの石は有珠山に近いことから火山石の可能性が極めて高い。去年の記憶がかなり薄くなっていたので改めて石を見てみると驚くほど私の作品に適している。しかも柔らかそうである。この場所は真性の穴場だ。
今回は石選びに際し私は強い視座を持って挑んだ。目的は形の良い石を拾うことだ。それ自体で作品になるくらいが望ましい。この川原にある石はざっと見て9割は溶けるだろう。つまり、作品に適しているかどうかで選別する労力を省くことができる。石の形にこだわる余裕が生まれている絶好の機会を逃してはならない。
では、形の良い石とは何か。私が今求めているのは自立する石である。今までは比較的丸くて平たい石を拾ってきた。川の石だからそういう形体が必然的に多くなる。しかし、そういった石は横たわることしかできない。
大学で彫刻を学んだ経験が影響をしているのかもしれない。重力に対し立ち上がる姿は何であれ美しい。石は小さくても良い。というか、最近は疲れていて大きな石を持って帰る気になれない。最終的には小ぶりの石を8個、4kgに満たない、もしかしたら3kgかもしれない程度を拾った。川原にはたくさんの石が落ちているが、いざ求めている形のものをみつけようと思ったら苦労した。
川原から戻る途中、また交通整理の人に出くわすのは憂鬱だった。この道は彼の後ろに通じている。さっき入って行った奴だとわかられていても、急に出てこられたらやはり驚くだろう。そんなことを考えていたら豪快に転んだ。まっすぐ生えている茎だけの植物(名称不明)に躓いたのである。石を背負っているがノーダメージ。体が横倒しになっていなかったらしかし内臓に負荷がかかったかもしれない。下は柔らかい土なのでパンツ(ズボン)が汚れたくらいだ。これでまた怪しさが増してしまったが無傷であればそれで良い。
怪我はしていないが怪我の功名で、転んだことで心が強くなった。草をかき分けて橋の袂まで上がったとき交通整理の人は私に気がついた。同時に大型車両が近くにいることに私も気がついた。立ち止まり車両が行くまで待つ間に日傘を開いた。車両が通過した後は土埃なのか煙が立った。交通整理の人がこちらを振り向いたのが微かに見えたが、私は彼を見ないようにし立ち去った。日傘も目隠しに役立った。橋を渡る途中に先ほどとは反対側の川原の写真を撮り川に興味があるふりをした。
石を拾ったら持って帰らなくてはならない。バスは12時20分頃だったと思うからあと1時間ほどある。さて何をしようかと思いつつも心配性が高じてGoogle Mapsでバスの時間を確認したら14時台のものしか表示されない。現時刻の11時半過ぎから1時間時間を巻き戻して調べたところ、18分前にバスが出ていたことが判明した。何が何だかわからなかったが、バスを待つか石を背負って歩かなくてはならないことだけは明白だった。未来はいつも予測困難である。いや、これに関しては事前にちゃんと調べれば良かっただけだけれども。
壮瞥町のわくわく広場(命名:私)まで行き、ゆーあいの家の湯に浸かることにした。モンベル会員になった記念であり、バスを逃した記念である。モンベル会員は100円安く入浴できる上に時間も潰せるのなら行かない選択肢はない。
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