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川の博物館で川をどっぷり楽しもう

前泊・熊谷


2025年2月某日、ついに念願の埼玉県立川の博物館に行ってきた。事前にXで送ったメッセージに回答をいただき、イベントを全て体験するには朝一に入館するのがスムーズだろうということになった。そうなったら前泊が必須。いつもモタモタしてるのに、こういう判断は我ながら迅速だ。千葉からだと始発で間に合うかどうか微妙だからだ。ということで、最寄り駅の寄居で前泊しようとホテルを物色した。でもどうもピッタリのプランがなく(直前だし)、結局は熊谷駅前のホテルサンルートを予約した。ここなら寄居まで秩父鉄道一本で行けるし、いくら熊谷と言っても今の時期なら暑くはないだろう。

熊谷は荒川の流域だ。そして嬉しいことに、荒川西遷の時に切り離された元荒川源流が徒歩圏内だ。しかし仕事が終わってから向かったので到着は夜、源流を拝むのは次の日の早朝にしよう。日高屋で夕飯、ホテルの部屋で軽く飲んで早めの就寝。もうちょっと工夫がほしかったと、あとで思った。

サンルートは駅前で便利

早朝・元荒川

朝は5時にセットした目覚ましで起き出し準備を進める。が、この時期の5時は完全に夜中だ。そうだよな…。外は真っ暗で何も見えやしない。あーあ、迂闊だった。仕方なく二度寝して、今度は6:30のホテルの朝食を食べて、それからすっかり夜が明けた熊谷市内へカメラを持って繰り出した。乗りたい電車まで約1時間、いつもより速足で元荒川の源流点に向かった。

途中で旧熊谷堤を見つけた。偶然だったんだけど、この堤の跡は明治時代の今昔マップにも描かれている。ここ以外にも数々の堤らしきものが見えるのは、荒川が改修前で洪水の危険があったからだろう。暴れ川の荒川の近くで暮らすのは、当時としてはかなり大変なことだったに違いない。

旧熊谷堤

ホテルから歩くこと15分、元荒川を発見した。サラサラ綺麗な流れに目を奪われ、水鳥たちを驚かせつつ少し下流へと歩く。もうちょっと時間があればもっと見たかったんだけど仕方ない。看板によると元荒川は世界で唯一、ムサシトミヨという淡水魚の生息が確認されているのだそうだ。雰囲気は用水路っぽいけど

、間違いなく元荒川だ。ここを源流に、河口がある中川まで60km!かなりの長流の最上流を満喫(?)した。

元荒川

そしてGoogleMAPが示す源流点へ。ここか!ふーむ…。ここなのか、むー…。ちょっと期待が大きすぎたかな。でもここが源流点だ。きっと荒川から取水して水質を整えてから水を流しているんだろう。大きな施設(排水機場?)が隣にある。

元荒川源流点

源流点のイメージは山奥、チョロチョロと湧水が流れ出している森の中なんだろうけど、都市河川はこういう源流点も多い。千葉市でも葭川や坂月川、草野水路なんかはコンクリート製の穴から水が出てくる箇所が源流点だ。でも、こういう人の手が加わった流れ出しも悪くない。ここから水の旅が始まることには変わりないわけだから。

そしてすぐ近くの荒川本流の堤防の上に登り、荒川の流れを眺めながら速足で戻る。と思いきや、それはできなかった。荒川は河川敷が広すぎて川を眺めながら歩くことはできない。川面がまったく見えないのだ。広い河原は素敵だけど、川が見えないとただの野原だ。でも荒川は大河なのでこうなってしまう。何しろここの少し下流の御成橋付近は川幅日本一(2,537m)と認定されているくらいだ。そう簡単に水面に出会うことはできない。結局わずかーに見えた川の姿を望遠で撮って熊谷駅に向かった。

荒川の堤防
かすかに水面が拝める

さぁ寄居駅へ

さぁ寄居駅へ
予定どおり8:11発の影森行きに乗る。影森ってどこだろう?土地勘がないので、影森に行く途中に寄居があることをもう1回確認した。逆方向に乗ってしまったら計画は白紙になっちゃう。それにしても2両編成のせいなのか、この電車はけっこう混んでいる。みんな長瀞や秩父方面にハイキングに行くのかな。そんな風情の人で混雑して座れない人もたくさんいた。僕は運よく座れて窓から景色を見ながら約30分、過ぎてゆく初めて聞く駅名をゴモゴモ復唱しながら(隣の人はきっと不気味に思っただろうな…)、寄居駅に到着した。寄居は秩父鉄道、東武東上線、八高線が集まるターミナル駅なんだ。そんなことも初めて知った。

寄居駅からかわはくへ

埼玉県立川の博物館(通称かわはく)は、全国でただひとつ川に特化した博物館だ。博物館といえば、各地にある郷土博物館のように地域に特化したものがある一方、テーマに特化した博物館も数多い。僕たちが大好きな地質標本館のような専門的なものから、海の博物館とか歴史民俗博物館のような入門的なもの、さらには印刷博物館みたいな業界を絞ったものなど様々だ。埼玉県はここ以外にも自然の博物館というのもあって、これはなかなかの充実ぶりだ。千葉にも川テーマの施設があるといいのにな。あるといいな。ほしいなぁ…。

川の博物館はちょっと交通の便がよろしくない。最寄り駅は東武東上線の鉢形駅(初めて聞く駅名)だけど、そこから徒歩20分となっている。僕は寄居駅前からタクシーで向かうことにした。若い頃だったら鉢形まで電車で行って歩いたんだろうけど。

寄居駅前ロータリーにはタクシーが何台もいて、博物館まで走行約10分、お値段は1,400円だった。この日は寄居町主催の駅伝大会があったんだけど、交通規制の前に着くことができた。これも計画どおり。だったんだけど、着いたのが8:50、開館の9時まで少し待つことになった。すぐ隣に荒川の流れがあるんだけど、やっぱり川面は見えない。歩けば見える場所もあるんだけど、ここはじっと待つことにした。

川の博物館前

いよいよ川の博物館へ

さぁ入場。入場券(410円)+アドベンチャーシアター(430円)のチケットを購入した。少し割引になっていたけど金額は忘れちゃった。ちなみにアドベンチャーシアターは1回430円で回ごとの入れ替え制だ。この日はライン河と荒川と2つのプログラムだったので両回とも購入した。席数は44だけど、2回とも観客は僕と家族連れもう1組だけだった。

アドベンチャーシアター券売機

9:30から「ライン河1320kmの旅」。ヨーロッパの国際河川であるライン川は、スイス、リヒテンシュタイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダを流れる。その源流の激しい流れから中流下流のゆったりした流れを、ガタガタ揺れるボートに乗って、空と水中を移動しながら下るという超刺激的なアトラクションだ。ライン川は見たことないけど、いかにも大河で悠然と、流域の中世っぽい美しい景観とマッチした艶姿に何度もため息をつきながら堪能することができた。6か国を経由して大西洋に注ぐ巨大な川だけど、荒涼としたところがないスマートな川。これ見たら行ってみたくなるよね。

そして10:00からは「荒川 森と海を結ぶ旅」。関東の大河荒川の源流に降った雨粒が主役で、彼と一緒に河口まで旅をするという物語だ。ボートはライン川より激しく揺れ、荒川上流域の荒々しい急流がよく表現されている。もちろん人々の暮らしや流域の紹介もふんだんに盛り込まれていて、そして関東平野をゆったり流れて東京湾に到達する。下流だけ見ていると味気ない人工河川だけど、こうしてビジュアルに川のストーリーを体験できるのは素晴らしい。もちろんドローンが大活躍だったろうけど、撮影も編集も大変だっただろうなぁ。マジ綺麗だったよ。

揺れる臨場感は、昔だとUSJのバック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライドみたいな感じ(今はやってないようだ)。シートベルトをしていてもけっこうな振動が気持ちいい。たまたま飲んでなかったけど、お昼過ぎでビール飲んでからだったらちょっと酔ったかもね。でも子どもも絶叫しない程度のスリルなのでご安心を。

その後は展示解説が3本。第1展示室の「パノラマ上映あさぎ」は、巨大なスクリーンいっぱいに荒川の姿が映し出される映像アトラクション。そして木材を下流に運搬するために造られた鉄砲堰イベントは、実際に小さな堰モデルが用意されていて、そこをドーンと開放して水を一気に流すという実演(動画あり)。さらにかつて物流の主役だった荷船の映像と乗船体験と続き、これは爺でも子でも大いに大いに楽しめると思った。こういう工夫を凝らしたイベントがあるのは大事なことだ。展示だけだと次にまた行くぞー、という動機が芽生えにくいからね。

パノラマ上映あさぎ
鉄砲堰イベント

それからは常設展示をまわる。荒川の流域図についつい見入る。荒川のことはだいぶ調べたけど、今でも未知の支川は数多い。しかし河川改修や流路変更などを重ねてきた荒川は、いつの時点でどう流れていたのかがまとまらない。それをすべて時系列で把握したいのは川マニアとして正直な気持ちだけど、それより利根川や主な支川もこの目で見てみたいし、元荒川もたどってみたい。市野川や入間川も味わいたいし、もうキリがない。見れば見るほど気が遠くなる。これはさらっと見るべきものだったかもしれない。川マニアには危険だ。

荒川の流域図

扇状地域のコーナーにある水車小屋は実際に動いていて楽しい。水車はかつての主要動力で、江戸時代には市中にもたくさんあったそうだ。そういえば数年前に新宿の玉川上水にも水車があったという話を聞いて感動したことがあった。そこでは水車を利用して火薬を作っていたそうで、その工法は明治時代まで続いたとのことだ。この荒川の水車は、小麦の製粉とかに使われたのかな。埼玉は小麦の生産地だし。

水車小屋模型

日本一の川幅を誇る荒川。通常時の写真と洪水時の対比写真はド迫力。遊水池としてこの川幅がキープされていることを実感できる。今朝歩いた荒川の河川敷も広大だったので、これならいくら台風がきても、堤防を越えることはないような気がする。でもそれはどうなんだろう。最近は記録的な豪雨が多いし、氾濫したら大災害になっちゃうな。そんなことが起きませんように。

通常時の荒川
川幅いっぱいに水が!

年表を見たら、この川の博物館も何度か水没しているようだ。ま、堤防が決壊したらそれどころじゃないんだろうけど、博物館じだいが河川敷にあるわけだから、これは仕方ないのかな。

荒川といえば、僕は上流の長瀞とか下流の隅田川をイメージしていたんだけど、その展示はあまりなかった。でも埼玉県内の荒川といえば、水との戦い、そして交通インフラなんだろう。できれば、最上流の地形や治水や開削とか、荒川の全流域を網羅する詳しい展示も見たかった。でもそこに興味を持つのは僕みたいな川マニアだけかもしれないな。

ウォーターミルランチ

そしてランチは館内にある、レストラン「ウォーターミル」。船頭膳というテーマ性のある定食もあったけど、僕はカラアゲ定食にした。ダムカレー的な川カレーとかあるのかと思ったけど、それはイメージが湧かないかな。川のイメージジャストだと流しそうめん??は真冬は厳しいか。なるべく軽く食べたかったんだけど、それにしてもカラアゲは多かった!!なんと10個くらいのカタマリがあった。ここは、若い夫婦と子どもという組み合わせが多いから、若いお父さん用に量が多いのかもね。でも、この定食はありがたいことに付け合わせが充実しているので、味変もできて完食できた。でもさすがにコーヒーは注文しなかった。オナカイッパイ…

カラアゲ定食

屋外施設の数々

ランチの後は屋外施設へ。屋外の圧巻は荒川大模型173だ。甲武信ヶ岳の源流から東京湾に注ぐまで、荒川173kmを歩いてたどれる1000分の1サイズの立体模型だ。源流の強烈な高低差から関東平野の大平原を流れる様が実感できる優れものだ。ガリバーウォークという解説付きツアーもあるのだそうだ。ホントこんな大がかりな川の模型は見たことがない。こういうのを見ると、ほかの川も作ってくれーーーなどと思ってしまう、それほど見事な巨大模型だ。家族連れも見学していて、子どもが大喜びしてたけど、この凄さをわかってるのかな。将来は立派な川ラーに育って、幼少期に出会った荒川の模型を見て川が好きになりました!などと言ってくれると嬉しいな。

荒川大模型173
荒川大模型173

お隣にある、遠くから見てもよくわかる直径24.2mの巨大水車はこの博物館のシンボルだ。近くで見るとマジにデカい。よく造ったなぁと単純にそう思う。さらに埼玉県に残っていた水車2棟を敷地内に復元していて、こちらではそのメカニズムを目の前で体験できるようになっている。

巨大水車

荒川わくわくランドというウォーターアスレチック施設は冬はお休み。ここはきっと夏休みになると大賑わいなんだろうな。ここは埼玉だから気温が高すぎるかもしれないけどね。

そして最後はお楽しみミュージアムショップ。もっと川関係のグッズがあるといいんだけど、とりあえず「かわはくパック」という缶バッジとキーホルダーのセットを購入した。このキャラクターはカワセミの「カワシロウ」=川知ろう、という意味だそう。そしてこういう博物館には必ずある図書コーナー。僕は必ず本棚を撮影してあとで参考資料を探す。こういうところにはあまりめぐり合う機会のない本たちがポツンと置かれていることが多い。次の執筆の参考資料としてリスト化しておくと便利だ。ざっと見ただけでも読みたい本を10冊以上見つけちゃった。いずれ会おうぜ!

かわはくパック
充実の図書コーナー

帰路につく

帰りはやっぱりタクシー。受付でタクシー会社の電話番号をおしえてもらって、裏口の方に来てもらうように頼んだ。寄居駅からなので10分ほどで来るようだ。しかし次の電車の時刻を調べていたら、がーーーーん!ナント高崎線が止まってる!!!ありゃまぁ…。

仕方ないので、タクシーの行き先変更で東武東上線の鉢形駅に行ってもらって、そこから池袋を目指すことにした。鉢形駅は、両隣の駅もまったく聞いたことのない駅だった。あーあ、帰りは熊谷からグリーン車でゆっくり帰ろうと思ったのにな。ま、散財しなくて済んだから良しとするか。普通運賃もJRより東武東上線の方がお安いし、かかる時間もさほど変わらないし。乗り換えは面倒だけど、こうなったからには仕方ない。結局、鉢形→小川町→池袋→新宿と乗り継いで千葉に向かった。

この2日間、それほど現地に長居したわけじゃないけど、充実した実り多い旅になった。思い立ったら即行動!ふう。

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