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受注者と発注者はなぜわかりあえないの? 話し合ってみた【前編】「初めてのWeb制作依頼」は怖くない!?
「三方良し」となるWeb制作を目指して
サイボウズWebチームは、コーポレートサイトなどの運営を担当するとともに、製品関連サイトなど50以上あるWebサイトの担当者と、各制作会社さんとの橋渡し役を担っています。
Web制作を行う際に、受注者に意図を上手に伝えてスムーズに仕事を進めてもらえるようになり、発注者は目標としていることをうまく達成でき、ユーザーには使い勝手がよく目的に到達しやすい!と喜んでもらえるにはどうすればいいか考えて、取り組んでいます。
長年この仕事に就いていても、発注者の考えていることと、受注者の考えていること、それぞれ推し量ることはできても、本当のところどうなのかは、知るよしもありません。ならば、このような「三方良し」、いや、今回は発注者と受注者なので「双方良し」となる秘訣は何なのか、Webチームの千葉と制作会社のディレクターさんとで語り合ってみるという企画を考えました。
サイボウズ側の千葉のプロフィールはnoteを参照していただくとして、対談をお願いしたのは、千葉やサイボウズの各部署が以前からお世話になっているWeb制作会社である株式会社ペップの有江さんです。以下、対談形式でお届けします。
Web制作依頼を円滑に行うために
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千葉:今回は対談を引き受けていただいてありがとうございます。お会いするのも久々ですが、事務所に伺うのはなんと初めて。おしゃれな、いいところですね
有江:コロナ以降はフェーストゥフェースの会議も激減しており、なんだか対面も新鮮でいいですね。
千葉:最初に、有江さんの仕事内容についてご紹介をお願いします。
有江:Web制作全般の業務として、Webディレクション、制作、プログラミングなどを幅広く担当しています。デザイナーは社内にいるのでデザイン以外のところを担当している感じです。他にも映像制作や3DCG、イラストなどを外部に依頼する場合のディレクションも行っています。
千葉:サイボウズの社員も他社さんもそうだと思うのですが、有江さんは発注の意図をうまくくみ取ってくれたり、相談しやすかったりと、仕事をお願いしやすいと思うんです。お人柄や技術力があるからこそかもしれませんが、どうすれば自分たちもそのようになれるかと思っています。そこで、初めてお願いする制作会社さんともうまくやり取りできるように、有江さんの視点からアドバイスを伺えたら、と思っています。
有江:発注者さんと受注者さんとの架け橋的なお手伝いができたらうれしいです。よろしくお願いします。
千葉:私が発注者となったばかりの頃は不十分だった視点なのですが、お仕事を依頼するときに、受注会社にとってもハッピーになれる依頼の仕方をしたいと考えるようになりました。それは、サイボウズの他の社員が発注するときもよく気を付けてほしいと考えているところです。
有江:サイボウズからの発注では困ることは特にないですが、心配ですか?
千葉:弊社は、ここ4、5年で社員が倍増しまして。Webサイトに関わる方が膨大にいます。さまざまなバックグラウンドの人がいますし、取引先との接し方もさまざまです。さらにWeb制作の経験値もばらばらなこともあり、適切なコミュニケーションができているのかが、気がかりになります。
有江:一人一人に説明して回ることもできないですものね。
千葉:はい。勉強会も随時開催しているのですが、必要な方に必要なだけお伝えするのも限界があります。そこで、今回のように、お話をnoteで公開することで、Web発注のコツを社員の皆さんに知っていただきたいですし、世の中の発注者の方にも何か参考になったらよいなと思っています。
初めてのWeb発注、失敗談
千葉:私がペップさんへ初めてWeb発注をしたときのことなのですが。当時、新しいことをサイトでやってみたいという思いがあって、ペップさんなら作ってくれそうだと思ったんです。その割に予算がなくて、「でもあまり予算がないのですが……」とお願いしたら「いいですよ…」って言っていただいてうれしくて(笑)
有江:予算がないのであれば予算に応じた制作をする会社です。
千葉:今にして思えば、とんでもない頼み方です。内心、怒ってなかったですかね?
有江:それはないと思いますよ。ところで、どんなサイトでしたっけ?
千葉:採用サイトだったんですが、僕がてんこ盛りの原稿を書いてお渡ししたエクセルファイルを、本日、掘り出してきました。
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有江:あ、あっ〜〜! これですね!(笑)
千葉:会社の仕事の進め方を紹介するのに、人物相関図みたいなものを作りたいな〜と思って作ったのがこの図です。1ページ内にタブ切り替えもあって。当時はPCサイトがメインだったこともあり、複雑なことを考えたりしていました。
有江:ボリュームも多かったですよね。ビックリしたのを思い出しました。
千葉:この図も大変なわりにメインビジュアルでもなんでもなくて、詳細ページに入れるものでしたし。このサイトは初めての依頼だから特別やっていただいたのかもしれないのに、また調子に乗って、次に製品サイトのほうでボリュームの多い原稿をもっていったら、「さすがにこれは…」って、当時のディレクターさんからしっかりと指摘されたたんです。
有江:私の上司ですね。(笑)
千葉:そこから、アワアワして調整し直しました。
有江:そういうこともありましたかね(笑)
千葉:自分が受注者側だったら嫌だと思うんですが、なぜかお願いできそうという謎の信頼感がありました。今振り返ってみると、当時は「とにかくいいものを作りたい」という思いだけが強くて、長期的に良いチームとしてやっていく、という考えが芽生えてなかったんだと思います。
依頼段階で発注者から知らせるべきこと
千葉:今の体験談は悪い例になってしまいましたが、こういった「プロジェクト開始時に双方が持っていた作業ボリュームのイメージが異なる」などは、制作案件ではありがちなトラブルだと思うんですね。
そういった齟齬が起こらないような依頼方法を考えるのも、私たちWebチームの仕事だと思っています。ペップさんにはいろいろな企業から依頼がくると思いますが、どんな感じで来ますか。
有江:担当者の方が独自にサイトの目的や制作内容などをまとめた依頼文書を作ってこられて、それをもとに確認を進めることもありますし、フワッとしたご依頼の時もあって、その際はヒアリングなどで要求定義、要件定義からやらせていただきます。
依頼書の段階では、どこまで何をする必要があるのかがあまりハッキリしないことは多いので、その点、サイボウズさんからはWeb制作依頼書に沿った情報を渡していただけるのが、実はとても助かっているんです。
千葉:そう言っていただけると、とてもうれしいです。
有江:Web制作依頼書の中でも、「プロジェクトに含まれないもの」という項目で、求められる作業の責任範囲が示されているのが助かりますね。
千葉:「プロジェクトに含まれないもの」では、案件に応じて、「デザインガイドラインは不要」と書いたり、「サイトの公開作業は不要(サイボウズで実施)」といったことを書いたりしています。その他、「サイボウズが提供するもの」として「画像素材はすべて提供します」などと書くこともあります。
有江:画像素材は、どちらが用意するのかわからないことはよくありますね。制作会社ではもちろん手配できますが、工数や費用もかかりますから、どちらが何を担当するかわかっていたほうがいいですよね。「これは誰がやるのかな?」「どこまで作ることが期待されているのかな?」ということがわかる依頼内容であれば、業務の規模感や工数も検討がつけやすく、見積も正確なものを出しやすいからです。
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参考:サイボウズの「Web制作依頼書」テンプレ公開。過去10年の失敗を反映
ミスマッチを防ぐため、依頼先を見極める
千葉:ペップさんへ依頼して来られる会社は、実績などを見て問い合わせて来られるんですか。
有江:制作実績のある企業の方の紹介を通じてなど、人づての紹介が多いです。リピートでの依頼や運用契約などいただいている企業様も多くいらっしゃいます。
千葉:お願いしやすい制作会社さんにリピートでお願いしたくなるのはわかります。ちなみに、これは困ったな、請けなければよかったと思う時は、ありますか。
有江:公開までのスケジュールが厳しいときとかですかね。なんとか間に合わせることも仕事のひとつなので、できる限り対応していますが、現実的に無理なものはご相談していますね。
千葉:仕事が始まってから困らないための最初のステップとして、発注者は、制作会社とのマッチングをよく考えることが重要だと思っています。
有江:マッチングという意味では、制作会社ごとの得意不得意や、規模的なものはあるかもしれませんね。弊社でいえば、少人数の社員と外注協力者で回しているので、極端に大規模なサイトはお請けできないかもしれません。逆に、1,000万円以下の仕事は絶対に受けられない、といった都合のある会社さんもあると思います。
千葉:そうですね。制作会社さんのタイプをできるだけ理解して、依頼を打診するのがマッチングのポイントだと考えています。例えば、Webサイト以外のこともお願いする可能性があるなら、それに対応できそうな広告代理店などを検討する、大規模な案件には配置人員にも余裕がありそうな会社、デザインやコーディング、CMSなど特定分野に強みがある会社、小規模な案件を受けて柔軟に対応してくれる会社、安定した更新をしてくれる会社と…などなど、いろいろなタイプがあります。
また、費用感については、その制作会社さんのサイトの事例一覧からクライアントが掲載されているので、そこから推し量ることもある程度できると思います。それで試しに打診したら、ぜんぜん予算規模が違ってだめだったこともありましたけど(笑)
有江:あとは事例で公開しているサイトのジャンルとかですかね。このジャンルは得意そうなのでマッチングしそうとか。弊社でいえば、コーポレートだったり製品サイトだったりキャンペーンサイトだったりといろいろなサイトを作りますが、大規模なブラウザゲームなどは実績がないので不得意かもしれません。
千葉:有江さんから制作会社選びのアドバイスはありますか?
有江:まず、事例は役に立つと思います。あとは担当者の方の雰囲気が自分と合うかとかでしょうか。
千葉:やはり、人、担当者さんとの話しやすさは重要ですね。 以前、依頼の打診のために面談した会社の担当者さんが仕事の内容のご説明をしてくださったのですが、どうしても理解ができず、自分とのコミュニケーションが難しいと判断して依頼しなかったことがありました。それも一度話してもみないとわからないですよね。
Web制作を依頼する前に社内で決めておいてほしいことは?
千葉: Web制作依頼書のテンプレートも、必要があれば、更新していくつもりなのですが、何かほかにも、依頼時知りたい情報はありますか。
有江:そうですね、どんな目的があってサイトを作りたいのかを共有して頂けると一緒に考えやすいです。
千葉:Web戦略とかの説明ですかね。
有江:そうですね。例えば「製品サイトを作る」ときも、その理由はさまざまです。電話やメールでの問い合わせが多いので、その問い合わせに答えられる内容にしたいとか。その場合なら、どんな問い合わせが多いか、電話件数はどのくらいか、Webを運用することでどのくらい対応コストが減少することを期待しているかといったことが聞けると、サイト目標も提案できますし、目標に向けた提案ができるようになると思うんです。
千葉:わかります。依頼内容の資料を見せてもらうと、戦略の記述が十分でなかったり、自社視点にプランが偏り気味だったり、既存の他の施策と重なって見えることもあります。
有江:お金をかけて目的が達成できないものを作ってももったいないですから、そもそも何のためというのはよく理解しておきたいところですね。Webでの戦略や戦術がはっきり決まっていなくても、目的が共有できれば、戦略から一緒に考えていけると思います。
千葉:「なぜこのWebサイトが必要なのか」については、発注者がしっかり説明できるようにしておきたいですね。
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千葉が10年前に作成した鬼のエクセル原稿は、有江さんも覚えていました! その節は(認識していませんでしたが)、大変ご迷惑をおかけしました(笑)
そのころから早10年、制作会社の皆様に指摘されたことや認識違いがあったことは、その時の反省に留めず、現在運用しているWeb制作依頼書に反映したり、社内で共有したりして、私が繰り返さないだけでなく、他の社員さんの参考になったらと努めています。
それでも、新しい問題だったり、もうちょっとうまくいかないものか?といったことは、起こるものです。私の「Web制作の発注者と受注者の双方がハッピーになれるチーム作り」はまだまだ道半ばです。
次回は、「嫌な発注者」にならないために必要なことを、有江さんに伺っていきます。
構成:宮崎綾子(アマルゴン)
【前編】「初めてのWeb制作依頼」は怖くない!?(この記事)
【中編】「嫌な発注者」にならないために
【後編】良いものをつくるためのコミュニケーションとは