Web制作コンペの新しい開催方法――提案ナシ、担当者の実績で選定
サイボウズWebチーム千葉です。
事業会社でWeb制作を発注するとき、どの制作会社に依頼するかってけっこう迷って、コンペで選定することがありますよね。でも、コンペを開催してみたとしても、どのように選べばいいかわからない……なんてこともあるのではないでしょうか。
今回は、お薦めしたい「Web制作コンペの開催方法」と、「Web制作会社選定のポイント」について、発注者の視点で実際に使った資料(ダウンロード可)を含めて書いていきます。
コンペ経験は、サイボウズでの開催側、制作会社での参加側の両方の経験があり、その中でコンペの弊害に気が付く機会がありました。そこで、あまり一般的ではないかもしれないコンセプトをご提案したいです。それは、こちら。
提案コンペに潜む、様々な弊害
Web制作のコンペではデザイン案などの提案を求めるケースが多いのではないでしょうか。私が制作会社で働いていた当時も、提案書やデザイン案を用意し、プレゼンの練習をしてコンペに臨んでいました。
コンペ開催の目的は、プロジェクト成功の可能性を高めるために最適なパートナーを選定することかと思います。
しかし、実際にサイボウズで発注側としてコンペを開催してみて、デザインや提案を募るコンペは必ずしも最適な方法ではないと考えるようになりました。
1.「短期間、議論なし」では制作の精度を高められない
Web制作のプロセスの変化もあります。Web戦略の検討など上流工程の重要度が年々高まるなかで、短期間で議論なしで最適なデザインや提案をしてもらうコンペは無理があります。初めてお付き合いする会社ならなおさらです。実力を見極めるためのコンペなのに、提案が当たるか当たらないかは運次第になってしまいます。
理解に時間がかかるBtoBの分野では特にそうです。
2. 制作会社の負担が大きい=参加障壁=機会損失
制作会社がコンペに参加するには、調査や、デザイン、資料作成などの作業工数(=コスト)がかかります。いい提案をして勝ちにいきたい案件は特に。そのため、受注のメリットと負担を天秤にかけて、コンペを受けるか、受けないかを検討します。
サイボウズでも、社内のサイトオーナーから時々「Web制作会社を決めるためにコンペをしたい」という相談を受けますが、予算と求める品質次第では難しいですよ、とお伝えすることも。
制作会社のメリットが少ないからです。コンペには参加しないことを明言している会社も増えてきました。つまりコンペは参加障壁になり、よい会社が依頼を受けてくれないデメリットになりえます。
3. 想定と異なる視点で提案が来て評価が困難に
10年以上前ですがコンペを開催した際に、提案依頼書に記載した仕様自体を改善するご提案がありました。前提がずれて評価軸が変わってくる提案でありながら、とても魅力的。どう評価すればいいのか混乱しました。
迷った末、結局その魅力的なご提案をしてくれた会社を選定しました。ただ公平性の面で理想的ではない選定方法になり悔やまれます。なお、これがコンペ運営、見直しのきっかけになりました。
4. 提案いただいたデザインを大きく変更しにくい
そんな意見も社内でありました。コンペに勝ったデザインなのでそうなりますよね。
提案に依存しないコンペの開催方法はなんだろう?
提案内容で判断するとコンペが破綻したり、いい提案をしてもらいにくかったり、機会損失になってしまいます。他の方法はないかと考えるようになりました。
どんな方が担当するかがポイントに
コンペに限らず制作会社の候補選定にあたっては、制作会社のWebサイトに掲載されている事例(実績)を参考にしていました。いざ打診すると、始めはエース級の優秀な方が素晴らしいお話をしてくださるものの、プロジェクトを開始する時は別の方が担当するケースが時々ありました。それで品質が想定とは違ってしまうことも。
そんなとき、上司の「やっぱり会社じゃなくて、人だよね」ということばにとても腹落ちしました。会社だけで選ばない方が無難だと。それ以降「このサイトを担当した方にご相談したい」と指名をして問い合わせしたりするようになりました。
実績で選ぶという考え方
Web制作会社ベイジさんの下記の記事もヒントになりました。
デザインでWeb制作会社を選んで大失敗!よくある失敗例×7(2013年の記事)
コンペでは制作会社の実績で選ぶ、という考え方ですね。そこで2016年のコーポレートサイトのリニューアル(以下、2016年のリニューアルと略します)の際に、新しい方法でコンペを行うことにしました。
実際に担当するメンバーの実績と面談で決めるコンペ
提案なしで大丈夫?と不安かもしれませんが、リスクに対する基本的な考え方は「過去によい実績がたくさんある方が、今回に限って失敗する確率は低いだろう」です。
コンペの進め方
ぶっつけ本番で実績を伺ったり面談をしても見極めは難しいです。そこで、しっかり準備をしましょう。
まずはオリエンシートでどういうコンペかを伝える
コンペの説明をするオリエンシートを用意。そこにあらかじめ、実績と面談で選ぶコンペであること、そして、どんなお話を伺いたいかを書いておきます。
紹介いただく事例についても、そこでどんなことを確認したいと考えているのかも参考までに書きました。
面談で伺うことは?
軸を決めて質問内容を考えると効果的です。その軸とは選定基準。これはコンペ開催前に決めておきましょう。
例えば、①実績、②コミュニケーション、③費用、といったものです。選定基準が決まったらそれを、下図のような「評価シート」に落とし込みます。
上図のように、評価基準①、②、③それぞれについて、さらに細かく評価項目を設定。また、各項目について重要度に応じて評価点を割り振っておくと客観評価しやすく、社内にも説明しやすくなります。
ここまでやってから、質問内容の検討を開始します。質問内容はヒアリングシートにまとめておくと便利でしょう。
具体的な質問内容はケースバイケースになりそうですが、事例については、ディレクターさんには解消できた課題や、KPI、効果だったり、デザイナーさんにはデザイン案の狙いを伺ったりします。
コミュニケーションについては、窓口となる担当者や、利用するツール、プロジェクトやデザイン案作成の進め方、役割分担などを伺います。そんな話を聞いていると、例えば、ディレクターさんは説明がうまい方だな、とか、あれ・・・デザイナーさんデザインの説明が苦手そうだな、うまくコミュニケーションできるか少し不安かも、とかが見えてきます。
また、エース的な方が顧客にとってベストとも限らないので、相性も大事ですね。先方も自分も含めてよいチームになれそうか。心理的安全性を確保できそうか。
制作会社さんが提案活動をする必要はないとはいえ、質問項目が多いと回答するのが大変かと思います。上記の図の例は規模が大きめの案件のものですが、そこまでの規模でなければ、質問も評価項目も簡易にして負担軽減するのがよいと思います。
どなたにヒアリングするのか?
実際に担当するメンバー。ディレクター、デザイナーは必須で、できればコーダーさんにも。要件次第ではライターさんやカメラマンにも必要です。できるだけたくさんの方に聞いたほうがよいです。人数が多いとご負担が増えるので、これも案件の規模次第ですね。
どこでお話を伺うか?
コロナ前は、制作会社さんのオフィスに伺いました。そうするとご負担を減らせますし、雰囲気もわかります。でも、いまはリモートなのでオンラインですかね。
進め方の例
準備:オリエンシートを用意
発注の目的、範囲、スケジュール、など概要を記載準備:評価シートを作成
コンペの評価項目と配点を記載したもの。準備:ヒアリングシート
評価シートに合わせて質問項目を設定。実績について詳しく質問を設定制作会社に打診、オリエンテーション
コンペ概要をメールなどで伝えて、コンペに参加を検討いただけそうであればオリエンシートを送付見積もり受け取り
実績一覧受け取り
実際に担当する方の実績(ディレクター、デザイナー、コーダー)担当者面談
ヒアリングシートの内容をベースに質問評価・契約・発注
評価シートを元に発注先を選定。参加してくださった各社にご連絡。契約、発注へ
評価シートサンプルのダウンロード
2016年のリニューアルコンペで作成した評価シートをご参考までに添付します。最近では、項目をずっとシンプルにして、客観性を高めるため評価者を複数人にしたバージョンも利用しています。案件に合わせて作成してみてください。
ご利用にあたって:無償で商用利用可能です。ただし使用によって生じた問題についての責任は負いません。
そのほかの注意点
制作会社さんには、コンペだと当初から明確に伝えること。伝えないと、トラブルになってしまう可能性もあります。メインとなるディレクターさんが、プロジェクトの途中で入れ替わる可能性があるかどうかも聞いたことがあります。その他、評価とは関係ありませんが、サイボウズへのリクエストを聞いたこともあります。
なお、サイボウズのWeb制作のコンペがすべてこの考えで行われているわけではありません。あくまで私が推奨する考え方として書いております。
最後に:理想はコンぺなしの世界
今回は2017年にイベントでお話した内容をベースに書いてみました。その後も何度かコンペを繰り返していますが、それなりにうまくいっている印象です。それでも発注後に想定していたより不得手な分野があったことに気が付いたケースもありますが、それは次回以降のヒアリングに活かして精度を高めていけばよいと前向きに考えています。
そういえば、選定後に先方から断りのお話があったことがありました。とても残念でした。コンペは決して、一方がもう一方を選ぶだけではなく、あくまで双方向のマッチングのイベントだということを改めて認識しました。様々な理由でミスマッチになりえますが、コンペ開催側もまた評価されているのだと、謙虚に望むことが大事だと思います。
ここまで読んでいただいたとおり、コンペは開催側、参加側、双方の負担が大きいものです。どんな種類の案件でも、いつでも、負担なく、最適な制作パートナーと取引ができる状態が理想です。それが実現できればコンペの開催自体が不要になります。普段から様々な制作担当者の方とお付き合いをすることで、そんな「コンペ不要」の理想的な状況を目指していきたいです。
読んでいただきありがとうございました。