愛によって生むもの
透矢は驚くほど細い癖に大食らいで、その上すぐお腹を減らす。だからおれが用意した晩ご飯を食べて一度は満足しても、夜中眠る前、零時を過ぎた頃に言ってくるのだ。
「ハル、大事な話があるんやけど」
深刻そうな難しい顔。身構えたおれに透矢はこう言った。
「どうしよう、俺お腹減った」
「やだ何も作らないよ」
すぐさまそう言ったおれに縋り付く透矢。
「お願い、何でもいいから」
夜中お腹を空かせた透矢におれが何か作るのはいつものことだ。いつものことだけど、いつものことにしてしまったのはおれにも責任があるけれど、それでも今日こそは嫌だった。
「いーやーだ。今日はほんとにやだ」
こうやって甘えて縋られて、ラーメンやらホットケーキやらをいつも作らされるのだ。でも太りやすい体質のおれはこんな時間に一緒に食べることは出来ないし、透矢が一人で美味しく食事してるのを指を咥えて見てなくてはいけない。それも辛くて、こうやって抵抗する。
「お願い、ハル。俺ホットケーキ食べたい」
「んんん…」
でも結局、こうやって透矢にお願いされたらおれはそれを聞いてやるしかないのだ。
キッチンに立って、ホットケーキミックスに卵と牛乳を入れて混ぜながら考える。でも結局、これは愛の行為だ。
どうしても、と頼まれて夜中にホットケーキを焼いてやること。
お風呂に行く時、透矢のパジャマやバスタオルを一緒に用意しておいてあげること。
透矢の予定に合わせて目覚ましをかけて、透矢が予定に間に合うように起こしてあげること。
その他諸々、たくさんのこと。それらは全部、愛ゆえに生まれる行為だ。
熱したフライパンに生地を流し込むと、ほんのり甘い香りが立ち込める。端から徐々に固まってきて、ふつふつと気泡が浮かび上がってくるのを見ながら思う。
これは愛の行為だ。そう思わないとやってられない、というのももちろんあるけど、でもその反面、事実愛の行為なのだ。
「はい、ホットケーキ」
「めっちゃ美味しそう!ありがとうハルだいすき!」
だって、この笑顔でホットケーキを作る手間とか今からしなくちゃならない洗い物の面倒とか、そういう全部が帳消しになってしまうのだから、これはやっぱり、愛の為せる技だ。