見出し画像

上野へ。

上野の赤札堂が閉店するらしい。78年もあったのだと知り、5年通ったこの街に何となく思いを寄せた。

国道と高架、高速。
線路、線路、地下鉄、地下鉄。

朝は澄んだ空気に生ゴミの匂い。カラスが我が物顔で闊歩する。雨に濡れた吸殻を踏みながら夜より暗くなった細道を抜ける。

演歌のレコードを売る店の電気は多分まだ蛍光灯だと思う。海苔やお茶、魚にチョコレート。豚足やピータン、コチュジャンにサリ麺まで。ビルの隙間の通路をぬけて向こう側へ行こうとすると、中にも店が並んでることに気づく。鍵のかかったケースにはエアガン。隣の店はミリタリージャケット。それからアップルミュージックなら「E」のマークがつきそうな言葉の書かれた謎のTシャツ。

昼、いや昼前から夜までこの街は酔っている。夕刻すぎれば道を塞ぐほど外まで広がった丸椅子とべニヤのテーブル。 光で劣化したビニールの庇。外で飲む客を相手にした流しはアコギとカントリーファッションの女性2人。
大衆居酒屋のエリアとパブのエリアに分かれているような顔をして、広く覇権を握ってるのはもしかしたら焼肉屋かもしれない(笑)
酔っぱらいを捕まえるタクシーが白山線に列を成す。この時間はもう客引きを牽制する巡回もいない。気だるげに立つ外国人女性は私の前にいる男性にカタコトの勧誘を無視されるとまた壁に重心を返す。

池之端口から出てコンビニへ向かう駅員は居酒屋とカラオケの看板に疲れた顔を照らされてる。草にまみれた二体のパンダ。サンリオショップのディスプレイもパンダ。UENOの白く光る文字を通り過ぎて中央口に着くとまた。

上野の景色は変わるような変わらないような。この汚さに少しほっとするようになった私の5年。

私が赤札堂の前を通るのはいつも開店前や閉店後か、閉店の曲の流れる頃だった。休日上野に用があったので覗くとあまりの靴の安さに驚かされた。散々眺めてきっと一度も履かない靴になるだろうと、時間を無為にする決断をして店を出たのを思い出す。いつもするビアードパパの魅惑の残り香。唯一買い物をしたのは確かイベント用の安売りのお菓子くらいだ。
閉店すると聞いて何となくまた店に足を踏み入れる。仕事の合間の休憩中だったが、所用で電話が鳴り仄暗い二階の階段の踊り場でパソコンを開く。店の表は賑わっていたが奥にある階段は不思議なくらい静かだった。パソコンを閉じ、階段を下りる。靴売り場には安売りの靴がさらにセールになっている。スニーカー、サンダル、パンプス。やっぱり、買う靴はなかった。

街は少しずつ変わる。いつかなくなるこの世の全てが愛おしい夜に。さようなら赤札堂。また堀切菖蒲園か町屋で(笑)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?