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親知らずを抜いたので,5

下顎の親知らずを抜いたために晴れた顎。それが痛いのに食意地が張ってたから食べたものを書き留めていたのだが、顎がある程度治ったがために、何となく熱が冷めた。そんなわけで気まぐれにこれを「親知らずを抜いたので」の最後にする。

2月5日金曜に抜歯をした。

2月9日、抜歯4日目。頬の腫れ具合は3日目の朝をピークに、かなり引いてきたかに見えた。しかし相変わらず口があかない。噛む動きが痛い。口があかない理由の一つは、どうやらここ3日口を開けてこなかったことで筋肉が緊張しているからに思えた。慎重に開くと開かないことはなくて、ただ筋肉がミシミシと凝りを解すような感覚があった。

そんな中チャレンジして敗北したのは「しろくま」だった。正確にはヘッダーのいちご白くま。

シロクマなんて氷菓なので、つぶの細かい氷が口に入らないわけが無いとチャレンジしたのだが、いちごが意外と大きかった。下手に唇につくと、そのまま唇といちごがくっつきそうなのも怖くて、溶かしながら食べるほかなかった。少しぬるくなった練乳は、いつもより猛烈に甘くて、なんだか手厳しかった。

時系列は遡るがシュークリームも食べた。シュークリームは、柔らかくて、優しい味がする上、コスパがいい。世界の食べ物の中でも、つらい時に救ってくれるランキングだと上位だろう、などと私は常日頃思っている。

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このシュークリーム。ケーキ屋さんで買ったのだが、生クリームのみのタイプでないのが計算外だった。

この生クリームの下、生地のした側がくり抜かれていて、そこに少し硬めの、卵の香りが強いカスタードがしっかりと詰まっていたのだ。

ちぎれば何かしらのクリームが溢れ零れる。下手に切っても同じ結末が待っている。大口を開ける?口があかない。

答えはただ一つ。クリームを吸う。そのほかに余地はなかった。 

私はクリームを吸っては食べられそうな場所の生地を食べ、自分に暗示をかけた。シュークリームを解体して食べたって、また胃の中に入ればシュークリームだから。

ぽてぽてとした甘いカスタードの幸せを噛み締めつつ、私は、幸せの根源はシュークリームの形をしているこのクリームの方なのかもしれないと認識を改めた。顎が治ったなら、またきちんと大きな口を開けて食べよう。

2月10日 腫れはほぼ引いた。痛みだけが残っている。

2月18日 抜歯を終え、傷もおおよそ治った。歯のなくなった空間のさみしさだけが、この不思議な食い意地の虚しさのように、私の中に残った。

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