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中国国内大会に向けて

今週末にはコンチネンタルカップ男女が、来週末にはワールドカップ女子の大会がこちら張家口で開催されます。昨日から各国が現地へ入りジャンプ台もいつも以上に賑わってきました。
ところで、こちら中国ジャンプ競技ではナショナルチームはもちろん、各省等は私のように他国のコーチがコーチングするチームが日本や他国と比べて大変多いです。ナショナルチームにはフィンランド、スロベニア、ロシアのコーチがコーチングしており、四川省はロシア、吉林省はスイス、そして黒竜江省では私、日本人がコーチングしております。もしかすると私の知らないところで他国のコーチが在籍しているかもしれませんが、今のところ私が知っている状況はこのようになっております。ですので、こちら中国では「コーチバブル」といってもよいのかもしれません。
ある省では日本人コーチを探していると聞いたことがありますので、もし中国でコーチングをしたい方や興味のある方は竹本までご連絡ください。

中国ナショナルチームのシミュレーションジャンプのお手伝いをさせていただきました。左のローマンコーチ(ロシア)。右側が中国ジャンプ代表選手。まだ荒削りな部分はあるものの、跳躍力はものすごい。

大会までの準備について

国内大会までの間に、ワールドカップなど世界大会が開催されます。黒竜江省の選手らも滅多に見れない貴重な経験かと思います。私も偶然ここで契約した期間にこうした大会が開催されるのも何かの縁かと思っております。
しかし、こちら中国国内選手だけでもジャンプ台が混んでいる状況ですので、更にヨーロッパ選手など国外の選手との練習時間が重なってしまうと練習時間や回数など制限されることが予想されます。大会の事前の準備がかなり重要かと考えているため、今後どのように知識や技量、練習、体調、道具などの調整を行なっていくのか、お話をしたいと思います。

ローラーボードに乗り、加速をしながらシミュレーションジャンプ。選手がテイクオフ後、ローラーボードが後方に動いていないか確認中。仮に後方に戻るような動きはこねている(つま先で蹴っている)且つ、飛び出し角度が前方になりすぎている証拠。ローラーボードのスピードが前方方向に且つ変わらないよう、ボードを正確に踏み潰すような感覚やイメージが重要。

知識について

特に上記に添付した画像のとおり私たちはローラーボードという練習道具を使用したシミュレーションジャンプを中心に練習を行っております。私が当初、ヤブリで行っていた合宿の際はこの種目でシミュレーションができる選手がほんのわずかでした。スリップする状況の中で力を分散しながらテイクオフをしていた証拠です。これはよい知識と技量では無いため、スリップしないようヤブリでは様々な練習方法の紹介と多くの道具を使用して踏んでいる感覚を養うような踏み方を徹底して練習を行いました。

練習と体調管理について

ヤブリでは陸上トレーニング(陸トレ)を中心とした練習を主としていたため、普段の運動量より多かったかと思います。また、細かなバランストレーニングも行なったためかなりの集中力など使ったかと思います。そして、ヤブリの標高は1000m、張家口では1500mの準高地ともあり、張家口に向けてよいトレーニングであったかと思います。
しかし、練習中の水分補給や練習後のダウンなどのコンディショニングトレーニング(コントレ)や寒い環境に適した服装、例えばニット帽や手袋、ネッグウォーマーや防水のランニングシューズなど練習に対しての衣類などの道具の調整や体調管理などは徹底しておらず、ヤブリにいる期間で行えるようにアドバイスを行いました。

運動神経抜群のチョーくん。彼は右膝が内側に入ってしまい、左右均等に乗ることができない場合がある。そうなった場合、テイクオフ後に右のスキー板の先端を下げてしまい、空中フォームの完成を遅らせてしまう。そのようにならないよう、ウォーミングアップからこのようなバランスを整える練習を取り入れる。

ジャンプスキー・ジャンプスーツの準備

ジャンプスキーの滑走面にはストラクチャーという細かな傷のようなものが均等に入っています。スキーを滑らせるためにはこの細かな傷がとても重要です。しかも、いろいろな種類がありその時の雪質によってストラクチャーを変えて大会などに臨みます。もちろんワックスも重要ですが、さらに重要なのがストラクチャー(ストーンフィニッシュ)なのです。

ジャンプスキー競技では遠くに飛ぶためには助走路でたくさん加速することがとても重要です。その助走路は氷の溝の中を滑るのですが、アルペンスキーやクロスカントリースキーなどの雪上で滑るストラクチャーとは違い、立体的なパターンが施されております。この立体型のストラクチャーが多くの本数などたくさん飛んだり、またワックスでアイロンなど行うと削れたり熱で薄くなる場合があります。薄くなってしまうと、加速に影響が出る場合があるためストラクチャーの模様などがはっきり残っている方が結果にも大きく反映する場合もあるくらい重要です。
私たちは夏に使用したジャンプスキー板を冬にも使用する場合があるのですが、その際は薄くなったストラクチャーを専門の工場へ持って行き再度復活させる工程が、特にサマージャンプに使用したスキーには重要です。

しかし、こちら中国国内ではアルペンスキーやクロスカントリースキーに施すパターンのストラクチャーはあるものの、立体に入れるジャンプスキー専用のストラクチャーはどうやらないようです。因みに黒竜江省のコーチや選手にこのようなことを聞いても知るものがいなかったため、中国ナショナルチームのスロベニア人コーチに聞いたところ、そのような場合は新たなスキーを購入するか、スロベニアの専門工場があるためそこにスキーを持っていき冬に向けてそれらを施すようです。
ですので、もし中国の選手がジャンプ専用のストラクチャーを施すとなればヨーロッパか日本に持っていかなければならないのが現状です。

それらの知識が彼らにはなかったためそれらの工程を行っていない状況の我がチームなのですが、中には壊れたスキーを使用し続けている選手もおりました…

また、スキージャンプで着用するジャンプスーツも破れてたり生地が劣化しているものも使用しております。百歩譲って練習では仕方ないものの、大会用のジャンプスーツも同じように劣化が酷いものを使用している選手もいる為、この時点でライバルたちに大きく水を開けられている状況となっているのが現状です。知っていてこのような状況なのか、または知らないでこのような状況なのかは皆さんもご存知の通り、勝負では時間が経てば経つほど雲泥の差になるのです。

道具は省から提供していただいているようですが、年間どのくらいの予算をもらい、いつどのような配分でその道具などを購入しているかが不透明なためなんともはっきりは言えませんが、言えることは、こちらに来る前に道具などを置いてあるハルビンの寮に行った際、新しく使っていない同じような長さのスキーはたくさんあるものの、選手に適したジャンプスーツはほぼ無い状況で使い回しのスーツのためこのような状況になっているのでは無いかと感じました。
特に、スーツは縫い方などある程度調整することによって飛距離を大きく伸ばすことのできる反面寿命が短く、世界で活躍するトップの選手の中には一試合でしか使用しないジャンプスーツもあるそうです。それくらい劣化が激しくまた重要なアイテムなのです。もちろん、スキーやブーツ、金具も大変重要なアイテムですが、これらと比べて大きく飛距離に影響するため、どの道具をどれだけ買わなければいけないかのマネージメントが重要と考えます。

左臀部につぎはぎが施されているジャンプスーツ。転倒などでスーツが裂ける場合がある。破損など酷い場合は他のスーツに変えるのが通常。替えのスーツがないのかつぎはぎをして使用しているところがなんとも言えない…

今やらなければいけないこと

しかしながら私たちが出場する大会は待ってくれません。日々一刻と近づいているわけですが、道具は仕方ありませんので怪我はしないように細心の注意を払いながら今できる準備をしっかり行いたいと思っております。
特に、このような知識でそれに対して何が必要か各自の技量や練習課題など限られた時間の中で目的を明確にし、個人に合った練習メニューや調整方法を提供しなければならないと考えております。

通訳のチーさん。私のコーチングを中国語に正確に翻訳し選手に伝える。難しい専門用語や細かな状況も迅速に且つ正確に伝えてくれる。時々言い争いなど喧嘩もするけれど、彼がいないとこの仕事は務まらない。彼には感謝してもしきれないくらい重要なパートナー。多分、私の一生で重要な人物の一人となるでしょう。

明日からジャンプ台や小さなジムなど混むことが予想されます。いろいろな選手たちやコーチたちと同じ時間帯で練習したい気持ちは山々なのですが、ライバルたちの差を少しでも埋めるためには練習量や質を優先して午前中はジムに行き陸トレを行い、ジャンプ台が空くだろう午後の時間帯にスキージャンプ練習を今週は予定しております。

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