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私が中国でコーチを行う心構え

こちらでは12月中旬頃に張家口(2022北京オリンピック開催地)というところで国内大会が開催されるためそちらに向けて陸トレだけですが順調にトレーニングを行っているところです。昨日の早朝からかなり冷え込み目の前のヤブリスキー場も人口降雪機をフル稼働しオープンに向けて準備しているところが伺えます。

私が今回、中国黒竜江省のコーチを9月から契約し11月1日から2ヶ月の間コーチングを行いますが、それを行うこととして様々な条件や状況があるのだと感じました。私は初めて中国を訪れた8月下旬から9月の約2週間、河北省淶源というところで彼らの合宿に参加し顔合わせをしましたが、そちらではコーチや選手共にコミュニケーションは順調に行えたのではないかと今振り返ると感じました。
しかし、更に向上するためには様々な課題を解決するために準備や心構えが必要でした。

私たちがいつも使用する体育館。ジムなどは豊富だが、スキージャンプのバランス力などを強化するトレーニングはまだ道具が足りないが、ある環境で工夫することは私を成長させてくれる。

コーチと選手について

今回2度目の再来ですが、新たなコーチとの出会いや選手たちの雰囲気が少し変わったお話をしたいと思います。

選手について

前回お話ししたように、ここで競技するほぼ全ての選手は与えられたメニューを全力でこなします。中には怪我や病気をしているのに練習に参加するくらい彼らは一生懸命で、私が計画する練習メニューをこなします。
しかし、皆さんもご存知のとおりこれは良くないことなのでその選手には無理しないよう、時には休みオーバーユースにならないよう休憩を促しますが、1回でも無駄なく練習に集中し参加したい想いはしっかり伝わります。スキー経験がなくこのスポーツを始める選手も珍しくありませんが、スキージャンプやノルディックコンバインドの魅力に取り憑かれそこに自分の労力などを投資する想いは何度も申し上げますが私も大変感銘を受けているところです。このようなチームや選手に出会えたことは本当に嬉しい限りです。

9月に撮影した集合写真。私が帰国する際に皆が見送っていただいた。

実力の方はまだ大会参加していないので何とも言えませんが、地元コーチなどから聞くところによるとナショナルチームに男子1名、女子1名選出された選手はいたものの、代表に選ばれてからは結果が出ずナショナルチームから外れ今は省のチームに戻り今私たちと練習をしております。
現ナショナルチームのコーチはフィンランド人とスロベニア人がコーチしていることもあり、そこに所属していた選手の中には知識はもちろん、簡単な英語でコミュニケーションを取ることができるものもおりますが、こちらの省では現状は殆どの選手は通訳を通して会話をしているのが現状です。

さて、コーチと選手間の関係ですが現段階では省の専門で指導しているコーチと選手の差があるそうでそこに溝が少しできているそうです。あるコーチからは選手達に「臆病だ」とコーチングしそこが原因だから技術が向上していないと伝えているそうです。
しかし、選手は恐怖心はないようでそれ以外に問題があると考えているためそこに焦点を置かなければいけないが、それだけで技術など話をまとめてしまため別な論点になってしまい解決策が見出せずにそれらの溝ができてしまっているそうです。

ある程度勇気が必要なスポーツではありますが、根性だけでは通用しないと私は考えています。スキージャンプは特に不安定なスポーツなのでその不安定が時に恐怖心となることもあります。勇気を振り絞ることが必要な場合もありますが、その勇気が自信と変わる瞬間、即ち安定がこのスポーツには特に重要だと私は思っています。安定が安心に変わり勇気を持って思い切ったジャンプができるからと思っています。
その理解が選手もコーチもない限り常に恐怖心と戦わなければいけずこのような状況は時に技術を停滞する場合もあります。もし恐怖心の問題であるならば選手にどんな時も前後左右の安定を強化し続けることが重要だと理解し、私は伝えなければなりません。

強度の強いゴムバンドを使用し腰が持ち上がる模擬体験を体験する。
彼はまだ上半身の力みが強い。
この運動で左右均等に蹴り、
また前後の調整を行いながら安定する感覚を獲得する。

コーチについて

黒竜江省では専門に指導しているコーチが4名おります。
ジャンプの育成に1名、強化に1名、コンバインドの育成に1名、強化に1名。
その他に、怪我や病気など治療中の選手が2名おり、その方が専門のコーチアシスタントとして指導しており、私含めて合計で7名体制でコーチングをしております。

指導の知識については私が語れるほどのものではありませんが、彼らはもう少し選手の成長に合わせた練習ができたらと良いと思っています。

例えば、成長段階でのダンベルを持ったウェイトトレーニングやタイムレース後の長時間のランニング、怪我に対しての心身のケアや、技術に対してコーチ&選手間コミュニケーションはもう少し改善があれば面白いチームになると感じました。また、私がコーチをしていた前チームと怪我について比較した場合、こちらの方が多い感じがします。特に幼い頃からジャンプのみ行っていた選手の膝に対する怪我が少し多い感じがしました。こちらの競技は途中で転向も可能のようで、中には陸上の走り幅跳びサッカーはもちろん、スカイダイビングからスキージャンプへ転向するものもおります。もしかすると怪我した彼らも幼い頃から年齢に合っていない運動をしていたが故にこうして怪我にもつながっているのではないかと身をもって経験しているところであります。

その原因として、もしかするとコーチを育成するシステムに問題があるかもしれません。

それと、コーチ達の人間関係です。
私は通訳のチーさんと常に一緒で仕事はもちろんプライベートも一緒でとても充実した生活を送っております。
彼は27歳と大変若い方ですが、賢い方で「スキーをするとは何か」や中国の社会やそれらでスキーをする情勢についてなど「スキー哲学」についてよく話をします。時には口論となることもありますが、それだけ互いが一生懸命この現状をよくしようとしている証拠だと私は思っています。

右側が通訳のチーさん。いつもおしゃれな服装で日本でも有名なコムデギャルソンとノースフェイスが好きだそうです。


専門コーチ達についてですが、同じ省なのに別々で練習することが多々あります。他のチームの選手の指導が必要な場合でも殆ど行いません。私も彼らが持っていないこうした育成方法や技術、道具の使い方や指導方法など情報共有も行いたいと思ってるので皆で力を合わせて育成&強化できる日が来たら嬉しいです。
そのためには選手達のために必要なコーチ像やスキー哲学など明るい将来に向けていつか皆でお話など行えたらと思っております。

私も含めてもう少し互いにコミュニケーションを取れば解決できるのではないかと思いますが、今は来週から移動するだろう張家口へ向かうためにその準備に徹したいと思います。

技術の話について

選手たちなど今までの練習や経験など聞き私も勉強にさせていただいていますが、もっと重要なことが他にもあるのではないかと感じこちらに来ております。

例えばナショナルチームに所属していた選手から足裏のどのあたりに乗ることが良いのか重心位置の話になった際、とても興味のある話を聞かせていただきました。彼が教わった重心位置は足裏の50%の場所だそうですが、私が考えるにはつま先が0%だとしたら35〜45%のところにあるのではないかと考えております。今は彼らにはざっくりと1/3の場所としか今は伝えておりませんが、手脚の長さや足のバランス(指が長いor甲が長い)、頭や首の大きさや太さ、姿勢など体型や動きなどの得意不得意などのテクニックによって重心位置の調整が各個人必要ではないかと考えており数字の範囲を持たせてます。

台の上から飛び降り、細い板の上にバランスよく降りることができるか。
細い板が乗っているローラーボード。こちらを用いて私たちはよくイメージ練習を行う。
右手前の彼の降りる場所だと少し前すぎになり、また後ろになってしまうと
ひっくり変えるようにバランスを崩す。足裏の約1/3の場所に着地を目指し練習を行う。

また、私たちアジア人しか持っていない特徴などあるかと思います。特にスキージャンプでは飛び出しで重要な足の裏で全て踏み込む「ベタ足」が基本ですが、個人やその者が持つポテンシャルなどで個々それぞれ若干違うポジションで行うベタ足や、滑った時や蹴った時の良い感覚を個々に合わせて探すのが今回私の仕事かと思っておりその試行錯誤するのが今は大変やりがいを感じているところであります。

また、ランニング技術も用いております。
最近では厚底ソールでクッション性を高め、カーボンプレートを内蔵して反発性を高めたランニングシューズが流行っているかと思います。その反発をより大きくもらうことによってより早く走れるそうですが、そのためにも足首を固める練習をしているランナーもいるそうです。
その練習方法を用いてスキージャンプ同様、足裏や足首が固まっていないと不安定になり、R1でGがかかった時に姿勢が崩れて正確な飛び出しができない場合があります。「スキージャンプ」という競技なので、ジャンプをする前に先ずは上手に且つ正確にスキーに乗りそれを操作しなければなりません。ですので私は力強さはもちろん必要ですが足裏や足首の固定は更に重要かと思い、最近ではそれらを強化したり安定させるためのトレーニングを行なっております。

ハルビンのカフェで飲んだアメリカンコーヒー。
アメリカーノ(エスプレッソのお湯割)を注文すると稀にアメリカン(ドリップコーヒーのお湯割)
の時がありますが、カフェが少ない中国では注文が間違っていたとしても
こちらで飲むコーヒーは私にとって大変貴重なためどのような種類でも飲めることは嬉しい。

中国でコーチをする価値が少し見つかった話

私が彼らに実際ここで伝えられる時間は本当に限られていますが、今できること全て伝えることができたらきっと私もコーチとして経験も豊富になりコーチ人生も更に豊かにできるのではないかと考えています。

こちらのコーチら大人が言う「もう年齢だから…」「成績がないから」ももちろん理解できますが先ずは私たちの心構えとして可能な限り選手の人生そのものを支えていけるコーチを目指していくことが、私がここでコーチする目標と考えています。

もっと「スキー哲学」について自分なりに深掘りできたらきっと今までとは違う自分が生まれるのではないかとその日を楽しみにそれらに労力を投資したいと思います。

皆さんの今、熱中することや人生の貴重な時間に投資するものとは何ですか?

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