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中国スキージャンプ大会

先週の金曜日から中国国内大会が張家口で開催されました。中国国内唯一の大会のようで、次の大会はどうやら1年後だそうです。

今回は国内大会で感じた様子をお話ししたいと思います。

2024-2025シーズン全国スキージャンプチャンピオンシップ 大会結果

2週間前からCOCがこちらで始まり、先週はワールドカップ女子大会、そして先週の金曜日から中国国内大会が開催されました。

結果は下記のとおりです。

ノーマルヒル女子大会成績 参加選手18名
「1枚目」ノーマルヒル男子大会成績 参加選手48名 1本目予選 2本目本番1本目 3本目本番2本目
「2枚目」ノーマルヒル男子大会成績
「1枚目」ラージヒル男子大会成績 参加選手28名 1本目試技 2本目本番1本目 3本目本番2本目
「2枚目」ラージヒル男子大会成績

12月21日(土)ノーマルヒル競技

この日のスケジュールは9時からノーマルヒル女子組が行われました。その後は男子組が行われ、男女混合団体も続けて行われました。私は日本で団体戦を経験したことがなかったため大変貴重な体験となりましたが、この日はホテルへ戻ってきたのが午後8時過ぎ。食事を終えて部屋に戻った時間が午後9時前でした。約12時間ジャンプ台に滞在するほどの長時間の大会となりました。

私はジャンプ台が好きなので全くストレスはありませんでした。また、午前9時から午後5時までジャンプ台上にある展望台のカフェで久しぶりのコーヒーを飲むことができたので大変リラックスし、私も集中力を維持し続けながらそれと同時に指導にも力が入りました。

しかし、目まぐるしく変わる風と、とても気温が低い環境では、私たち同様、特に選手たちには物凄くたくさんのストレスがかかったのではないかと感じました。

長時間になった原因

大会では結果のとおりゲート&ウィンドファクターも導入されていました。

しかし、選手がスタートするための合図を出す信号機が選手たちが見えるスタート付近にはあったのですが、私たちコーチが合図や指導する中腹にあるコーチングボックスには信号機など確認できるものが一切ありませんでした。

その為、競技委員長とコーチたちとの連絡などやり取りをするアシスタントTDがコーチングボックスにいるのですが、彼らの無線機で競技委員長が特段危険と指示がない限り、私たちは良い風が吹くまで待つことなど自由にスタートすることが可能でした。中には10分以上も待つチームもありました。このような状況のため何度か速やかに出発してくださいと競技委員長から指示があったり、他のコーチから不満の声が出たりしていたのですが、権威のある試合ともあり不満の声を出したコーチでさえ良い条件のために長時間待つことでさえあったのです。

私はこの日、選手たちは大変寒い中長時間の待機を強いられた為、各選手の飛ぶ様子を見た際、体が動いていないのに気づきました。ですので、良い条件まで待つのも大事ですが、私は選手のパフォーマンスを優先したく、空中を一望できる場所にいた黒竜江省専任コーチの航コーチに「体が冷えてパフォーマンスが下がっているチームがいる。きっと我がチームもそうだろう。だから多少風が弱くても我が選手たちはスタートさせたいので、そのような空中の風の状況を教えて欲しい」と伝えました。

青がジャンプ台中腹にあるコーチングボックス。赤がジャンプ台着地上部。緑が選手。
青の場所にいるコーチから緑の選手までの視野に赤のジャンプ台の形状が遮ってしまい、空中中盤以降選手やプロペラなどが見えなくなる。

女子選手は思った以上の成績とジャンプ内容の結果であったため十分に頑張ったと感じましたが、男子選手の結果は想像通りでした。こうして目の当たりにすると想像していたとしても特にラージヒルは落ち込みました。

12月22日 ラージヒル競技 公式練習

前日の日は公式練習という名の自由練習でした。ルールでは2本を各チームが飛べるとのことでしたが、制限時間いっぱい飛ぶことが可能だったようでしたので男子チームは4本飛ぶことができました。

しかし、この日のホテル出発直前に女子たちが参加しないと言うことを聞き、私は何か航コーチの作戦でもあるのかと思いましたが、既に出発しなければいけない時間であったり、また、男子選手の指導に集中するため気にしないようにしました。

ホテルへ戻った後、通訳の元さんに尋ねたところ、女子選手でラージヒルに出場する者が他チーム含めて少なかったため女子競技を中止したと聞きました。

私は正直「えっ?」と…

どうやらこちらの大会申し込みは事前ではないそうで、その後競技を実際に実施するか競技委員長が直前に判断するそうです。

私たちは大会があると聞いていたし参加する予定だったから事前にラージヒルの練習をしていたり、その為に様々な準備を行なっていたりして計画していたのですが、なぜこうなるかと大変疑問でした。

もし、事前に知っていれば女子選手はノーマルヒルのみ練習し大会に向けて調整することも可能だったはずですが、この大会だけではなく先を見据えた指導を考え、また女子選手のレベルを上げるにしてもラージヒルでの練習は貴重なためこれらは必須かと思いました。

12月23日 ラージヒル競技 本番当日

この日はノーマルヒル競技と違い、コーチも選手と同様の信号機を確認することができました。

しかし、私たちコーチのみ目に見えるものではなく、アシスタントTDが無線機を持っているのですが、そこから信号機の色が変わるのを数字を数えたり色が変わったりする声での指示でした。

アルファベットが書いてある建物がジャッジタワー。こちらで選手の飛型を審判する。
屋上に空中の様子を見ている航コーチがいる。
審判員と別の部屋に競技を仕切る競技委員長や競技委員長の補佐をするテクニカルディレクター(TD)がいる。こちらからアシスタントTDに向けてシグナルのカウントや指示など無線で入る。


信号機(以下シグナル)は下記の通りの内容で行われました。

🟥赤色 10秒 スキーをはく階段のようなところで準備して待つ。

🟨黄色 60秒 スタートゲートに入ることができる。特に風が安全かつ公平な状況になったらその後約10〜60秒以内に青信号になる。しかし、安全が確認できなかったりなど不公平な条件が60秒続くと再度赤色の信号へ変わり、選手はスタートゲートから一旦階段へ戻らなければならない。

🟦青色 10秒 10秒以内にスタートできる。その後は赤信号に変わるがその状況でスタートした選手は失格になる。

ラージヒル競技では細かなこと含めて多々問題はありましたが…

ノーマルヒル競技に比べてこのように対応していただき、大会はスムーズに行われたと感じ、また改善が見受けられ大変嬉しく思いました。せっかくオリンピックが開催されたところなのでこうした機材などは普段から全てではないにせよ、準備していただけると私たちも安全かつ安心して競技に集中できるのではないかと感じました。

女子ワールドカップの様子を撮影。
シグナル・ゼッケン番号・スピード&飛距離

上段左は赤色の数字のカウント中、中は黄色で左が青色
その下の段、左はゼッケン番号、右は飛距離であるが、選手の飛距離が出る前に助走路スピードを掲示する。

スイスタイミングという会社が国際大会の際にこのようなシステムを設置する。
こちら張家口や淶源のジャンプ台ではスピードメーターすらない。
ジャンプ台に吹く風を上部から下部まで可視化できる装置のモニター
国際大会の事前準備で設置されていたモニターを使用させていただき練習することができた貴重な機会。

大会の感想

3週連続で大会に参戦や観戦し、今までにない経験を味わえたのではないかと私自身この機会に感謝しています。特に先週のようなトップレベルを見ることによって今まで行なっていた練習や技術があっていたかどうかの確認もできますし、このような大会を参考にしその後の指導計画も立てることが可能です。

先週から行われた中国国内大会のレベルをイメージすると、特に男子は日本で例えると高校生くらいのレベルなのかと感じました。もちろん、日本の高校生も大変レベルが高く、COCでポイントを獲るくらいのハイレベル国ですが、中国のトップ選手が同じレベルと考えるとワールドカップに出るには少しハンディがあるような気がします。私は、このような環境でコーチとして育成し、また今回のように戦うには下から這い上がるという不屈な状況にとてもやりがいはあるのですが、それと同時に情報など入りづらいこちらの環境では私自身コーチ力など向上に必要な情報やそれらを確認するスキル、特に見極める目が鈍る恐れがあるのかとも感じています。

元サッカー選手日本代表の本田圭佑さんが環境にこだわれとおっしゃっていたかと思います。もちろん環境を活かすことのできる選手など高いレベルが条件かと思いますが、私もこのおっしゃっている内容に大変共感しております。

なぜなら、選手同様私たちコーチも環境が人を育てるからです。

体幹に力が入っているのかどうかを実際選手のお腹を触り確認する。
また、脚を広げることによって体全体が前傾しやすくなることを体感させる。
それがどのように変化するか選手を持ち上げた際に見上げて選手の様子を確認する。


中には悪条件でもその環境を跳ね返し強くなる選手もおります。

例えば、先日お話しさせていただきました内藤選手や今女子選手で活躍する一戸選手は雪のない環境に育ちながらこうして世界で活躍しております。親御さんの育成や教育、また家族などの理解や協力、本人の絶え間ない努力などがこうして結果に表れているのではないかと思います。

また、世界で活躍する舞台に立つことができるとワールドカップなど国際大会で経験するそれらの経験値の向上、また、コーチの指導能力、スキーやジャンプワンピースやブーツ、金具などの道具の選択や細かな調整、世界で最新に行われている技術や練習内容やそれらの道具、トレーナーなどから学ぶ体の使い方などスポーツ生理学など知識の構築などなど、このような素晴らしい組織や環境に出会い、逆境を知っている選手は更に開花する場合をよく見かけます。

こうした悪条件の環境はスポーツによって金銭的に負担がかかるものもあれば時間の負担が多いもの、精神的や肉体的に負担が多くなるものなどそれぞれの競技やスポーツの特徴があるのも確かです。

また、こちらとは逆に、幼い頃から良い環境で育った選手がそれらが当たり前と感じるものもいます。例えば自宅近くにジャンプ台などあり、指導者も豊富で道具も情報も何でもある環境でもそれらを自分の肥やしにできない場合もよく見かけます。

こちら中国では若干後者な感じがしますが、それらは選手はもちろん、大人やコーチ、各組織の方々が他国と比べてどのような長所や短所があるか調査し、必要なものを選手やコーチ含めて教育など育成でき、またこうしたことを戦略的に機能すればこの国のジャンプなどノルディック競技ももっと面白くなると感じました。

私が日本を出国する前に知人や友人に中国でスキーのコーチをすることを伝えると「中国ってジャンプ強いんだっけ?」と…

そうなんです。それが今の事実なのです。

こちら中国では現在、女子はワールドカップ常連選手2名おり、男子はCOCでポイントを獲れる選手がおりますが、例えば今後、女子選手がワールドカップで優勝する、また、男子選手ではワールドカップ常連選手を強化&育成するとなれば、私たちコーチ陣含めてもっと話し合い、大会運営含めてもう少しできることはあるのではないかと感じました。

スキージャンプ練習前のウォーミングアップの様子。
彼らは幼い頃から毎日練習する環境を国や省から与えていただいている。
道具も遠征の際のホテル代も移動にかかる経費なども全て省から支払ってもらえる。
このような素晴らしい環境下で、自分の努力が更に開花できるかをコーチ含めて正しい教育が必要だと考える。強いチームだけが強くなるのも大事。しかし、なぜかそうではないような気がするが、中国の組織がどこまで考えているかが一番重要な鍵になると感じた。

改革が必須かつ急務ですが、多分国単位では大変難しいと思いますし、もちろん、省単位でもかなり難しいと思います。育成や強化が上手くいっている層の厚いチームもおりますが、世界と比べるとまだまだ大きく水を開けられている状態です。

私は残り約1週間で中国を離れ一旦帰国し荷物の入れ替えなど行うために1週間ほど自宅に滞在し、1月8〜3月30日までの間、再度ノルウェーへ渡欧します。

きっと中国チームなど彼らもノルウェーのトロンハイムで開催予定の世界選手権やオスロで開催予定のワールドカップなどにも参戦すると思いますが中国人コーチも同様、中国と契約している海外コーチ陣などがどのように強化し改革していくのかが、今後の変化に大変楽しみです。

強い国や強いチームだけ強くなるのも競技発展にはもちろん大事ですし必要なことですが、特にマイナースポーツ的雰囲気がある国や地域では、それら様々な国やチームが大会に参戦することでこの競技が更に興味を持っていただける人が増え、スキーなどウィンタースポーツが幅広く盛り上がり発展するかと私は考えています。

各国はもちろん、地域やチームなど組織がどのようにこのスポーツを考えているのか、それらの雰囲気はとても重要かと感じました。

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