『ヤングケアラーってなんだろう?』ポプラ社
日本国際児童図書評議会(JBBY)が主催するノンフィクションの子どもの本を考える会の課題で「多様性について子どもに伝えるノンフィクションの本」をひとりずつ1冊紹介することになった。「多様性」とはなにか。案内には、「多文化共生、バリアフリー、生物多様性、いじめ、差別、ジェンダー問題等々、さまざまな切り口が考えられる」と書いてある。「多様性」を辞書で引いてみると、「いろいろな種類や傾向のものがあること。変化に富むこと」(デジタル大辞泉)とある。ほかの人と違っていて、子どもたちが悩み、一見わかりづらく、大人の手助けが必要と思われることとして、わたしは「ヤングケアラ―」になっている子どもについての本を選んでみた。
え? それって多様性? と思うかもしれないが、ふつうの子どもと同じように見えて、家庭の事情で子どもらしい生活を送れない子や、相談するほどのことでもないと問題を自分で抱えてしまったり、家族のことだから話すのが恥ずかしいと相談することを諦めていたりする子、ケアが必要な子どもなのに自分自身がケアを提供する側になり勉強や進学に影響がでる子などがいる。見た目にわかりやすく周りから配慮される「多様性」とは異なり、ほかの人とは違うのにふつうに見える、自分自身もふつうに接してほしいと思う気持ちもあり、助けを得られない小中学生がいることを考え、このテーマを選んだ。
今回選んだのは、ポプラ社から2023年4月に刊行された『ヤングケアラーってなんだろう?』(監修 濱島淑恵、協力 黒光さおり)だ。〈みんなに知ってほしいヤングケアラー〉シリーズの第1巻だ。全4巻あり、そのほかに『きみの心を守るには』『きみを支える社会のしくみ』『ヤングケアラー先輩たちの体験談』がある。
簡単に本の内容を説明しよう。「ヤングケアラ―」とは「家族の世話(ケア)や家事をしているおおむね18歳までの子どものこと」(p2)と書いてある。それってお手伝いじゃないの? と思う人もいるだろう。では「お手伝い」と「ヤングケアラ―」の違いはなんだろうか? 負担が大きかったり、勉強をしたり友だちと遊んだりできなかったり、心や体に不調を感じたりするようになると、それはもうお手伝いではないと同著は説明している。家族の世話をしている子どもはどのくらいいるのだろうか? 2020年度に始まった調査では、小学6年生の15人に1人、中学2年生の17人に1人が家族の世話をしているという(p14, p15)。ケアの対象は主にきょうだい、次いで父母、祖父母である。半数以上のヤングケアラ―がほぼ毎日世話をしていると答え、小学6年生は1日平均2.9時間、中学2年生は1日平均4時間をケアに費やしている。世話を始めた時期は、小学校高学年が多い。相談をしたことがあるかという問いには、約7割がしたことがないと回答している。相談した人はだれに相談したのだろうか。主に家族、友人、学校の先生とのことだ。本著ではその他の相談相手として、保健室の先生、ホームヘルパーやケアマネジャー、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、医師や看護師、役所や保健センターの人、近所の人、親戚を挙げている。家族、友人、学校の先生に相談しても解決しなかったら、ぜひ家族以外の信頼できる大人に相談してみてほしい。ではなぜ相談しなかったのだろうか。相談するほどの悩みではないと答えた人が7割以上を占めている。また家族の世話をしていることでやりたいのにできないことは? という問いには、半分以上が「特にない」と答えている。本来であれば大人がするような家族の世話や家の仕事を子どもがすることで、勉強したり友だちと遊んだりという子どもらしい生活を送るべき時期を逃してしまう。やりたいけれどもできないことは特にない、という言葉に安心してはいけないと本著は警鐘を鳴らしている。
本著では子どもの権利についても紹介している。まずは1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」。その中で定められている4つの権利を説明している。生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利だ。またイギリスにおけるヤングケアラ―の権利も取りあげている。ヤングケアラ―という言葉は日本ではまだ馴染みがないかもしれないが、イギリスでは1993年に論文が発表されており、日本よりも対応が進んでいる。イギリスにおけるヤングケアラ―の16の権利のなかには、「ケアをすることをやめる権利」というのがある。少子高齢化が進み、共稼ぎをする親も増え、家族の世話に毎日3、4時間を費やし、友だちと遊んだり、部活に入ったり、勉強したりという子どもらしい生活ができない子が1クラスに1、2人いる。本著は、特別視が必要なのではなく、ひとりではない、隠す必要はない、相談できる、と思える子どもが増えるように、大人も学べる1冊だろう。ぜひ手にとってみてほしい。