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連絡橋からの視線

 サエは一人大阪駅の連絡橋に佇んでいた。ここからの眺めは専ら、電車の発着だ。四六時中発着する電車から降りる人、電車に乗る人。そんな光景をサエは眺めている。

 ある日、サエは環状線の内回りの電車を天王寺から乗った。環状線の東側は乗換駅が多い。鶴橋で近鉄線からの人で車内が混む。京橋でも京阪線からの人で更に混む。外回りの方がよかったかな、と少し狼狽した。電車は桜ノ宮、天満と止まって大阪駅に着く。

 大阪駅は連絡橋の改札口から出る。南北に架かる連絡橋も人通りが多い。サエはその流れを横切るように窓辺に進む。窓辺にはベンチがある。休みの日はこうして一人の時間を過ごすことが多かった。一種のパワースポットみたいな感覚で。

 弟のサトシはそんな姉の後ろ姿を撮っている。普段は新快速電車に乗って京都や神戸に遊びに行くのだが、たまにサエについてきては撮影している。サエのことがカッコいい女と思ってる。姉さん彼氏欲しい?とたまにサトシに聞かれるが、今は要らない、と返す。ごくごく普通の女性なのだが、キラキラし過ぎることが苦手なサエは独りを好んだ。

 サトシと別れて、梅田の地下街を回ったり、阪急に入ったりして気分転換を図る。サエはそれだけでも十分満足して帰路に就く。そうだ父さんに何か買ってあげよう、と天王寺で降りて寄り道。父親を超える男性が現れなきゃ恋愛も無理、とサエは自覚している。父さんが大事にしてくれるという思いに勝る男性はまだいない。

(おわり)

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