
林愛果1st ワンマンライブ『mahoroba』
林愛果さん、Second Roomsスタッフだった当時にお店で会ったときに雑談する程度の仲ですけど、筆者に親近感を抱いているという話をご本人からも他のスタッフからも聞いておりまして、こんな得体の知れん女になにをやねんな、と思ってたんですよ。
……考えてみれば、趣味が妙なところで近似値を叩き出している。
例えばCAPRICEの最新アルバム『Ode』のジャケット、飯島誠さんという画家の手によるものなのですが、前からTwitterをフォローしていて存じ上げていたんですよね。
今回のワンマンも、開演待ちでSEをボケーッと聞いてたら、急にカミナリグモの『ローカル線』が流れてきたときに変な声でそうになりました。林さんカミナリグモ好きそうだなあと思ってて、話題にしようと思っててすっかり忘れてたんですよね。
あと、雷鳴るとテンション上がるという習性もだ……
そんなことってある?
深堀りしたらもっと出てきそうで面白いような、怖いような。
で、ワンマンライブの感想ですか?
筆者は物書きなので、言葉を使い慣れている人間です。だからこそ思うのですが、本当に良かったことなんてね、うだうだ語らなくていいんですよ。
泣いた。
以上! 終了! 解散!
……いや、ここからマジでオタクがうだうだ語るんですが、結局上の3文字に集約されるんで、載せとくけど読まなくていいです。
元自宅警備のプロが語る、林愛果の魅力とは
タイトルはノリだけで付けてるので気にしないでください。
本来は2020年4月に彼女のバースデイワンマンとして開催されるはずだったこのライブ、未曾有の事態により中止となってしまいました。それが2daysとなって、ほぼ当初のメンバーのまま開催されたということで、本当にそれだけで奇跡ですよね。
筆者が見に行ったのは二日目の2月14日の公演。ミュージックルーム出入り口付近にいて、引きから横顔をみる形で鑑賞しておりました。ハイボールを飲みつつ。
林さんはフライヤーと同じワンピースを来て登場。ギターの色合いともマッチしていて、いい感じの雰囲気。さて、どんなステージが始まるのか、とワクワクしていたところ。
初手『自宅警備員、コンビニに行く』て!
もっと軽いジャブからくると思ってて完全に油断してるじゃないですか。ツイートを参照すると、一日目は『Until now』だったそうで、そのくらいの塩梅でくると思ってたんですよ。
約10年ほど自宅警備の現場にいた筆者には刺さる。遮光カーテンのくだりとか。この歌の自宅警備員さんはそんなに年季入ってないと思いますけど。
これは気を引き締めていかないと殺される(この人は何と戦ってるのこんな平和な現場で)とか思ったら、畳み掛けるように『マリー』と『悪者』がくるわけで。
もう白旗降伏でございますよ。どうにでもな〜れ。本日の涙点は営業を終了いたしました。いや、二曲目の『すみれのように』の時点で仕事してなかったけど。
『マリー』は初めて聴いたときに最初の部分でオチまでわかって「はは〜ん……」ってなったけど(作家の悲しい性)、それでも泣くね。なんなら泣けるシーン待ってるまであったね。二回目以降わかってても泣くよね。
ちなみにこの曲、彼女自身の手による絵本が存在して(買ったよ)、マリーちゃんは絵本では黒髪黒目の素朴な少女なんですが、筆者は脳が耽美趣味なので、曲だけ聴いてると碧眼で金髪巻毛の少女に変換されてしまいます。果てしなくどうでもいいですね。はい。
序盤は演奏や声に硬さを感じて、「私はガチプロとしてやっていきますので」という決意を見せようとしてるのかな、と善意的に解釈してたんだけど、徐々にいつもの表情が戻ってきたので、ただただ緊張していたんですね。微笑ましい。あのキリッとした感じも凄く良かったですが。
『悪者』はいろいろ考えちゃいましたよねえ。人がやらかしてしまうのって、根本的には自尊心の問題だと思うんですが、それが上手に機能するように育ってこなかった人ってけっこういるんですよ。
筆者自身もそうなので、そっちの視点で物事を見ると「世の中ってあなたが思うほど悪くないよ」みたいな考え方がすごく癪なのもわかるんですよね。「どうせお前はぬくぬくと幸せに生きてきたからそう思うんだろ!」とか思っちゃうわけで。難しいよなあ。
それはそれとして、歌詞の中で頑なになった心が、ネジ穴がナメて駄目になっていくことになぞらえていたけど、あれ、軽度だとゴムシート噛ませて緩ませたりするんですよね(元工場勤務の経験談)。
正論というドライバーで強引にゴリゴリ回すんじゃなくて、フィクションを噛ませることで緩むものって実際にあるし、林さんの歌はそういうものになり得るのではないか、と筆者は考えております。
かなり色の濃い曲が続いたあと、『恋するいぬのおまわりさん』『ぬかづけ』とようやく箸休め的な曲。
箸休めとはいいましたが、こういう素朴な曲をきちんと作れる人って強いですよね。今ってDAWでいくらでも色んな音重ねてあれこれできるけど、やっぱりシンガーソングライターって、歌メロが強くないと駄目なんですよ。人が好きになるのって、聴いてすぐ歌いたくなる歌だと思いますし。
『橙』には、たびたびコラボしてる尾上陽さんの影響を色濃く感じたんだよなあ。メロディとか曲の構成に。
てな感じが一部でした。
レポっていうかもうただのオタク語りやねん!! 自重して己!!
そうそう、音響もプロの方(徳竹敏之氏)が入っていて、いつもと音が違いましたね。クリアで入り込みやすい音でありながら、アコースティック的な手触りのあるふくよかさもあり。より林さんの人間的な魅力が引き立っていたなあと思います。
二部では白いワンピースにお召し替え。バンドメンバーを従えて再登場。仲間もいるということですっかりリラックスした表情になっていましたね。
普段ソロの人が弾き語りの曲をバンドセットにすると違和感がでることけっこうあるんだけど(こっちが弾き語りを聴き慣れすぎてるのもある)、全然そういうのがないなあと思ったんだけど、よく考えたらCAPRICEもあるし、ソロでも音源ではオケが入っている曲もあるし、それでかもしれなかった。
とくに『ループ』のアレンジがすごく好きでした。ウォーキングベースでジャジーな感じがめっちゃ良かったですねえ。
皆さんとても良い表情で演奏されていて、延期したことによって、より結束が高まったんじゃないかなあなんてことも感じましたよ。
前半に比べて感想が明らかに失速しているのは、筆者が気持ちよく酔っていたからです。まだお酒が回ってない一部のときは色々考えながら聴いてましたが、酔ってるとまるでだめですわ。
お酒好きの林さんですから、彼女のライブもこういう風に楽しむのがお作法かもしれませんよね。などと供述しており。
いやー、音と酒、二重に酔い痴れる時間は最高でございました。
ライブも終盤に近づいて、今回のワンマンについて話し始めるシーン、初日には色々と内容が事故ったとの噂ですが、それは聞かなかったことにして(笑)。
場所を変えることも周りから提案されたけれど、どうしてもこのSecond Roomsでやりたかった、やるべきだった、という流れで、イベントタイトルが「住みよい場所」という意味の”まほろば”ってのは胸アツですよね。
筆者もSecond Roomsではいろいろなドラマを経験してきましたが、本当、面白いハコですよここは。演者として出入りしてこそ面白みのわかる場所かもしれませんが。
まー、単純にライブだけ見たい勢からすると会場なんてどこでもいいんでしょうけどね、ぶっちゃけ。わかる。最低限の音響とスタッフが揃ってて、ビールでも飲めりゃ御の字だよと。わかる。
でも、ステージに立つ人間として、ちょっといわせてくれ。
人が奏でる、という本質を失わない限り、演奏者にとっては場所や、その空間を作るスタッフっていうのも大事な存在なんですよ。バンドメンバーやお客様と同じくらい。
林さんはそういう「場」をとても大事にしている人だと、普段の言動から感じるんですよね。彼女の作品を理解する上では、そういう考え方を理解するのも大事なんじゃないかしらん。
いやしかしさー、林さんの不思議なところは、活動歴は十年超えてて、色んな方と繋がりがあって、実力も認められているのでしょうに、謙虚すぎるというか、自分を小さく見せようとするところですよね。
というのも、一曲目、二曲目のときの緊張感みなぎった状態が終わりまで続いてたら、それはそれでめちゃくちゃ凄いライブだったと思うんですよ。
それだけのポテンシャルを秘めているのに、ド真剣なのが照れくさくなって、「私ってそんなのじゃないです」って途中でポシャるのが、魅力でもあるんですけど、同時にもったいないなあとも感じてしまいます。
林さんには大人の魅力は求めてないんですよ、永遠の少女でいてくれっていう方も多そうですが、筆者はそうは思わないんです。だって、実際話していると、かなりの骨太系ですよ。決して可愛いだけの人ではないぞ。
自分の思いに照れたり逃げたりしないでまっすぐ伝えられるようになったら、その優しさもより説得力を持って響くのではないかなと。そんな十年後、二十年後の姿を筆者は夢見ております!
……なんだこれ、どこぞの癖つよブッカーみたいになってきたな。やめよやめよ。
そんなこんなで、アンコールにて思いがけなくステージに登場したビールを嬉しそうに飲んでいるのを見て、何よりでございますと、思わずこちらもニッコリ。
みんなが笑顔でいられる世界にしたいといったあと、「なんか宗教臭い」なんて付け加えたけど、彼女の歌の下に流れる等身大の人間のもつささやかな祈りこそ、あらゆる宗教の根源じゃないかと筆者は思っているのです。
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