はんなり???!!!着付師物語 第6章③ブレイクスルーのきっかけ
未来は、集客のためにブログを始めた。毎日一つは必ず投稿することを決めて記事を書いた。最初は、これって本当に仕事になっていくのか、読んでくれてる人がいるのかと虚しくなるような日々だった。それでも毎日着付けのことや着物のことについて投稿し続けた。ブログでつながる人は、あえて異業種の人が多かった。実際、未来は同業者には興味がなかった。自分ができないことをやっている人の話が面白いし、そのほうが自分の枠が広がるからだ。
集客がままならない状態の時、未来の師匠から連絡が来た。
「未来ちゃん、着付けのお仕事上手く行きそう?」
「それが、こっちに知り合いが元々いないから、なかなか厳しくって、、、、」
「そうなの?それなら、私のおすすめのカウンセラーのところに行って来なさい。その人はとてもすごい人なの。あなたの強みと弱みを見抜いて的確なアドバイスがもらえるから絶対おすすめよ。しかも、今なら特別価格でセッションが受けられるから、すぐに申し込んであげるからね。」
未来は、カウンセリングにも占いにも全く興味がなかったけれど、師匠の強い推しに負けたのと、義理のため渋々行くことにした。
個人カウンセリングだと思いきや、グループセッションだった。未来を含めて四人集まってる中カウンセリングが始まった。順番に幼少期のことについて質問されて、未来も覚えている限りで10分以内ぐらいで話した。それぞれの話を聞いた後、カウンセラーのアドバイスが始まり、それぞれの強みと弱みについて教えてくれた。感心したように感想を述べている人もいたけれど、未来は全くもって納得出来なかった。元々、未来は他人に自分のことがわかるとは思っていない。例えば、カラーコーディネートだって、初めて会うコーディネーターの主観で結局選んでる訳で、似合う色なんかお母さんに聞くのが一番だと思っている。だって、生まれた時から、可愛い我が子に似合うものを選んで着せてくれた人だから間違いないと未来は言う。
セッションが終わり帰宅した未来は、夫にその日の愚痴をこぼした。
「ほんの5分前に会った人が、初対面の人たちの前で話した私の幼少期の話を10分聞いただけで、一体何が分かるって言うんだろ。全然納得いかなかったわ。例えばあなたなら、私のことわかると思うけどね。だって、私のことを理解してくれてるから結婚までしたんだもんね。、、、、、あっ、そうか!あなたが教えてよ!私の強みって何かしら?」
夫は即座に答えてくれた。
「そりゃ、お前の強みって言ったら、フットワークの軽さだろ。普通じゃないぜ、お前のフットワーク。」
その答えは、未来に取って目から鱗だった。自分はずっと世界を股にかけて生きていくと決めていたはずなのに、すごく狭い範囲で仕事をしようとしていたことに気づけた。ブログを見返してみても、関西圏をターゲットにしている投稿しかないし、交流しようと試みたブロガーも関西圏の人に絞っていた。
「何やってんだろ私、、、、」
未来の枠が夫の言葉一つで一気に広がった。
まずは、ブログの投稿は、全国どこへでも参上する着付師をアピールした。友達になるブロガーも全国に枠を広げた。
そんな風に目線が変わると、別のところからも入ってくる話が変わった。
未来の着付の師匠の門下生同士で会った時に、未来オリジナルの半衿つけの仕方を教えてあげた。半衿とは襦袢の襟に縫い付けるのだけれど、和服というものは洋服と違ってしょっちゅう洗うものではないから、汚れやすい襟元だけほどいて洗えるように半衿を手縫いでつける。とはいえ、ほどいて縫う作業は面倒臭い。そこで、未来は、ポイントだけ押さえて、あとは超簡単につける方法を編み出した。
この縫い付け方を教わった門下生の友達たちはものすごく喜び、これはお金をとって教える価値があるよと言ってくれたのだ。
未来は、自分が面倒臭いから手を抜く方法をあみだしただけなのに、これはお金が取れる価値があるんだ、、、と感心していた矢先に、東京の同士から連絡が来て、「未来ちゃん、この前の襟付けレッスン、東京までやりに来てくれないかしら?」と言ってくれたのだ。
フットワークの軽い未来にとっては、東京に襟付けレッスンで行けるなんて願ったり叶ったりだった。
「五人以上集めてくれたら行くよ!」
「えっ?でもそれじゃ交通費しか出ないわね。」
「いいのよ。交通費払ってもらって東京に遊びに行けると思えばそれだけで嬉しいから。」
未来は、本気でそんな風に思っていたし、動けば何か次につながることを知っていたから、赤字でなければその何かを求めて動くべきだと考えていた。
そして実際、この半衿つけレッスンが未来の着付師としてのキャリアのブレイクスルーのきっかけとなったのだ。
半衿つけレッスンは安価でとっかかりやすい上に、着物を持っている人なら、着付は美容室でやってもらう人でも、半衿をほどいてつける作業は自分でするしかない。それが簡単につけられるならと、教えて欲しい人は予想以上にたくさんいた。集客してくれる人も、それをきっかけに集まった人たちが、自身の着付教室に通い出すことにつながるから一生懸命集客してくれた。
そしたら、そこに集まった人の中に他府県の人が混じっていて、自分も集めるから来て欲しいと依頼されることがあった。もちろんフットワークの軽い未来は二つ返事だ。例えば、横浜で半衿付けレッスンをやれば、またそこに来ていた人が千葉でもやって欲しいと依頼してきたという具合に、集まっては散り、そこでまたちがう人が集まり、また散りという風にどんどん広がっていった。なんと半衿つけレッスンは本当に未来を日本全国全都道府県に運んでくれた。しかも、最終、未来がニューヨークまで行くことにつながった。
『集散の法則』を見事に活用できた未来だ。これは、”遠い”という概念が未来にはなく、どこへでも喜んで行くということを徹底した結果だろう。
その始まりは、夫の「お前の強みはフットワークの軽さだ。」という一言だった。
そして、一見何の役にも立たなかったカウンセリングに行ったことが、その言葉を引き出すきっかけだったということになる。
人生は、面白いもので、何がきっかけで変わるかは分からないものだ。けれど、未来のように見方を変えると行動パターンが変わり、運気を自分の味方につけることができるのかもしれない。
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