はんなり???!!!着付師物語 第三章❸未来のアメリカンライフ
未来のアメリカでの生活がスタートした。トムの家に住まわせてもらいながら、トムの仕事を手伝った。ご飯は食べさせてもらえるし、お小遣い程度のアルバイト代ももらった。
未来は、全く英語が話せない。中学から学校も行かず、もちろん勉強なんかしたことがないのだから当然だ。トムやマミー(トムの妻)が何を言ってるか全く分からない。これでは、不便すぎるからと、マミーは、なんとか未来に英語を覚えさせようと、毎晩、未来に語りかける時間を作った。
「私は、先生じゃないから、英語を教えることは出来ないけれど、とにかくあなたに色々お話しする時間を作るから、覚えて行ってね。」というようなことを言われた気がする。でも、未来は正直、しばらくの間マミーが何言ってるか全く分からなかった。元来、未来は、物事を習得する時、視覚からの情報で記憶するのが得意で、耳はあまり良くなく、聞いて習得するのは難しいのだ。
それでも、さすがはティーンネイジャーだから、脳みそも柔らかいし、未来には持ち前の好奇心があるから、あっという間に習得していった。しかも、未来は、ピクチャーメモリータイプで、見ている画面ごと覚えるので、一度見るとその場面をそのままインプット出来る。だから、アメリカで生活していれば、目に映るものは全て英語で書かれているわけだから、興味と好奇心さえ持っていれば、スポンジのように吸収できるのだ。
英語にも慣れ、コミュニケーションが取れる状態になった未来は、仕事がない時は色々なところに出かけて行った。外出先で壁なく人に話しかける未来にどんどん友達が出来て行った。
けれど、その時代のフロリダ州の田舎、つまりはアメリカ南部地方は、人種差別がまだまだ色濃く、未来のような黄色人種は、露骨に差別された。特に同年代のティーンエイジャーは、歯に絹着せず罵った。
「イエローモンキーの触ったもんは汚いから、お前の触ったもんなんか捨てるしかないだろ!弁償しろ!」とか本当に酷い言葉を投げられた。
でも未来は、そんな言葉に負けてはいない。
「じゃあ、お前の持ってるもの全部舐めてやる!」
と言って、舌を出して追いかけた。白人たちは、悲鳴を上げて逃げていった。
そんな未来を見て、有色人種たちが周りに集まってきた。
「お前気に入った。あいつら、ほんとムカつくからせいせいしたぜ。一人じゃ何にも出来ないくせに、固まって貴族ヅラしてる白人野郎たちには一泡吹かせたいよな。」
未来の周りにはいつしか、ちょっと柄の悪めの黒人たちが取り巻くようになった。
日本でヤンキーの先輩たちと過ごした時のように、少し危なっかしいことを楽しんだ。さらに、やはりアメリカ、日本よりももっと大胆なことが未来の行動に加わった。好奇心の塊みたいな未来は、教えてもらった吸える物はなんでも吸ってみた。何を吸ったかは想像に任せるが、きっとご想像通りのものばかりだ。
けれど、日本にいた時のように喧嘩に巻き込まれたりすることはなく、とても平和に過ごせていた。
どんなビザでアメリカに住んでいたのかは、未来本人は分かっていなかったけど、とにかく1年で帰らなければいけないことは念押しされていた。
1年が経とうという時、ある問題に気づいた。日々のお小遣い程度のお金は、トムの仕事の手伝いでもらっていたけれど、帰りのエアチケットを自分で買うほどのお金はなかった。父親から与えられたのは、アメリカ行きの片道チケットと五千円だけだったし、「あとはなんとか自分でしろ!身体を売ってでもな!帰りのエアチケットも自分で買って戻ってこい!」と言われてたのを思い出した。
もう1週間ほどでビザが切れるし、困ったなと思った未来は、母親に電話をした。
「お母さん、もうすぐアメリカを発たないといけないけど、エアチケット買うお金なんか全然ないから、いよいよお父さんが言ったように体で稼ぐしかなさそうなんだよね。」
「未来ちゃん何言ってるの。そんなに若いうちから、簡単にお金を稼ぐことを覚えちゃいけません。ちょっとお父さんに相談してみるから、、、、」
「お母さん、電話代が高いからもう切るね。ありがと、、」
未来は、電話を切ったあと、母親の言葉を反芻してみた。
そして「体を売ってお金を稼ぐことって、簡単に稼ぐことなんだー、、、」と呟いた。
未来の母親の感覚は、なんとも変わっているというかズレているのだけれど、十代の未来はある意味素直にその言葉を受け取った。
〜お母さんが言うように十代から簡単に稼ぐことを覚えず、コツコツ仕事して稼いで、コツコツ貯めなきゃいけないな。けど、ビザが切れるから間に合わないし、
トムにお金を貸してもらうしかないかな。〜
こんな風に結論づけた未来は、翌日マミーにその旨を話した。
マミーは「分かったわ。私からトムに言っておくから、また返事するけど、あなたのお父さんにもトムから頼んでもらうわ。チケット代を出してくれるようにね。」と言ってくれた。
「うーーん、、、お父さんには頼んでも無理だと思うけどね、、、でもありがとう。マミー。」
そして、そのまた3日後いよいよエアチケットの手配をそろそろしないといけない日に、トムが未来に伝えたのは、こんな答えだった。
「未来、お前のダディから連絡があって、あと半年ビザを更新したから猶予をやる。ちゃんと自分でエアチケット買って帰ってこい!だと、、
それから、金を稼ぐ手段として、運転免許はここアメリカでとらせてやるから、行動範囲を広げて金をちゃんと稼げ!と、免許取得の費用だけ振り込まれたぞ。今日、その手配はしといてやる。分かったな。」
未来は心の底からラッキー!!と叫びたかった。
まだこのアメリカにいられることと、車に乗れるようになるから広いアメリカをもっと堪能できることが嬉しすぎたからだ。
またここから、未来のはちゃめちゃな好奇心が顔を覗かせたのだ。
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